マリアの聖女覚醒
ティターニアの視線は、このパーティの主賓であ
るルシウスに注がれていた。
上品な立ち居振る舞いに、ダンスに誘う姿勢。
どれを取っても紳士としか思えない。
さすが皇子。
もちろん、アルベルトお兄様も、ルシアを誘うと
華麗にエスコートしている。
最初のダンスは問題なく終わると、ルシウスに誘
われるように少し休憩を取る事にした。
目の前で、先ほどアルベルトと踊っていたルシア
が今度は銀髪の騎士である、シグルドの横にいく。
公爵の爵位を持つシグルドの手を取ってダンスを
踊り出した。
これには意外だった。
狙いはなんだったのだろう。
「ラシウス様、妹君は病弱だと聞いておりました
けれど、大丈夫なのですか?」
「えぇ。もう最近ではだいぶ落ち着いております。
こうして帝国まで来れるほどに元気になりまし
た」
「……そうですか……それは安心ですね」
「はい。ご心配くださりありがとうございます」
どう見ても完璧すぎる。
皇子という生き物はどう言う教育を受けているの
だろう。
そう思っていると、曲が終わる頃、一人の神官服
の女性が目の前を通り過ぎていった。
真っ直ぐに走っていくとシグルドへと向かってい
く。
そしてダンスを踊り終わりルシアの手の甲にキス
をするシグルドへと辿りつくと、その手をぎゅっ
と握ったのだった。
驚くシグルドにマリアが嬉しそうに微笑みかけた。
身体全体にキラキラしたエフェクトが見える。
「これは……聖女の祝福……」
「聖女様ですか?」
「えぇ、そうですわね。これは聖女誕生の……」
そこまで言って、言葉を止めた。
隣で聞いていたラシウスにはバッチリ聞こえて
いただろう。
聖女とは、この世界に数人いるか居ないかとい
う存在だった。
それも回復や浄化魔法の高位版を覚えられる唯
一の存在であるとえがかれていた。
「マリア、どうしてここにっ……」
「シグルド様、聞いてください!私、やりました」
「まずは落ち着いて。ここではちょっと…」
「私シグルド様に一番に聞いて欲しかったのです。
私、聖女の称号を授かりました!」
パーティー会場がざわつく中、シグルドの横には
来賓である他国の皇女がいる。
そんな中で、割入るように入ってきた彼女は聖女
マリアだった。
どの国でも聖女は貴重な存在で、皇族以上に大事
に取り扱われる事になっている。
それが、このタイミングで発現させるなんて、ど
れだけ運がいいのだろう。
ルシアを押し除けるようにしてシグルドの横を確
保すると、嬉しそうに抱きついていた。
貴族社会で、女性から抱きつくのはあまりいいと
は思われていなかった。
男女が肌を寄せ合うのは閨での事で、大衆の前で
は忌避されていた。
そんな事を知る由もない平民出身のマリアは嬉し
さばかりが募り、抱きついてしまったのだろう。
だが、それを咎める権利があるものは居ない。
なぜなら、聖女とはそれほど貴重な存在なのだ。
呆れるようにティターニアはため息を吐くと、チ
ラリと横を見た。
ラシウスも同じく少し眉を寄せたが、その後何か
を考えている様子だった。
きっと、予想外の出来事だったのだろう。
それはティターニアとて同じだった。
マリアの登場は予期せぬ事故だった。
ティターニアにとってはある意味いい意味での
事故だった。




