皇女の我儘 4
昨日の夜は部屋に帰って早々魔法で傷を治した。
苦労もせず簡単に治ったので上機嫌で眠りについた
はずだった。
朝から呼び起こされ、今父親の前にいるのだった。
「ティターニアが皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
「よく来たな、我が娘ティターニアよ」
じっと見つめると瞳の中がうるうると揺らいでい
る。
これは知っている。
ティターニアが何かやらかしたのだと察した。
時期的にパーティーで暴れて次の時には首都から
追い出されるはずだった。
避暑地でのバカンスとばかりにシグルドを護衛に
つけさせて首都を離れたのだ。
でも、今回は暴れた記憶はない。
むしろ、おとなしくしていたはずだ。
「ティターニア、初日の事を覚えているか?」
「いいえ、お父様。全く覚えていませんわ」
「はぁ〜……そうか……」
何かやらかした記憶は無い。
そもそもやらかすのは元のティターニアで、今の
ティターニアではないのだ。
悩んでいるのがわかる。
だが、何が問題なのかが分からない。
「パーティー初日に公爵家の令嬢にワインをかけた
そうじゃないか?それもシグルドに笑いかけたと
言う理由で…なんでそんな事をしたのだ?」
「なんでと言われましても……」
理由などないのだ。ティターニアはシグルドに言い
寄る女がことごとく憎いのだろう。
だが、今はそんな気持ちは全くない。
「暫く都外に行きなさい」
「お父様、嫌です」
「………」
はっきりと断ると、困ったかのように頭を抱える。
この父親は娘のティターニアに弱いのだ。
「ティターニア、騎士団の宿舎の建設をさせている
そうじゃないか?訓練場まで……この前も新しい
のを作らせたばかりではないか?どうしてそんな
無駄な事を…」
「無駄ではありませんわ。白の騎士団は新しいのが
ありますが、他の騎士団を見た事がありまして?」
「それは、ヴォルフ卿の為では無いと言うことか?」
「勿論ですわ」
そこは、はっきりと即答した。
「まぁ、それはいいとして……都外へ行くのは嫌な
のか?」
「はい、お父様。絶対に嫌です」
「それでは、代わりにきつい罰を受けて貰う事にな
るがいいのか?」
「構いませんわ」
今、ガゼルのいるここを離れたくはなかった。
もうすぐ遠征で行ってしまうというのに…。
少しでも近くで推しを見ていたいのに、今離れては
意味がないのだ。
「今から遠征が終わるまで黒の騎士団に追従して貰
うぞ?勿論嫌なら都外に行っても……」
「いえ……その命、お受けしますわ!」
「そうだろう、平民などと一緒は嫌だろう……ん?」
嬉しそうに承諾したティターニアに、陛下は意表を
つかれた顔をしていた。
ティターニアにとっては願ってもない事だった。
これから遠征まで、推しの側で毎日居られると思う
と嬉しくて仕方がなかった。
「早速、私の配属を黒の騎士団にしてくださいね!
お父様、早速今日から行けばいいですか?」
「ティターニア……いや、これは……」
「一度言った言葉は撤回しませんわよね?そうでし
ょ、お父様」
あまりに嬉しそうにしているので、何も言えなった。
「ティターニア……明日からでいい…」
「分かりましたしたわ」
やっと言えた言葉はそれくらいだった。
父親として甘やかして育ててしまったが、まさか
避暑地でのんびりするより、黒の騎士団へ行く事
を選ぶとは思っても居なかった。
平民をあんなに蔑んでいたはずのティターニアが
ともうと、今でも信じられなかった。