皇女の我儘 3
大きなため息を吐くとパーティー会場を眺めた。
ここにはガゼルが居ない。
多分今も訓練に明け暮れているのだろう。
真面目で、シャイなティターニアの推しはとても
不器用なのだ。
貴族に媚を売る事もせず、ただ強さを求めた。
生きていく為に、鍛えた強さで今は騎士団長にま
で登りつめたのだ。
ガゼルの事を考えると、いてもたってもいられな
かった。
会場には来たけど、落ち着かない。
ドレスは注文してあったやつを着せてもらったが、
派手すぎる。
確かにティターニアの見た目はすっごい美人だか
ら何を着ても似合うけど、それでもここまでケバ
くする必要があったのだろうか?
前のティターニアは何を考えていたのだろう。
シグルドのあんな顔を見て、嬉しかったのだろう
か?
どう見ても憎しみしか伝わってこない。
そっと立ち上がると外へと出ようと歩き出す。
このままガゼルに会いに行ければいいのに……。
ふらっと歩き出すと、横のグラスが目に入った。
暇過ぎて横にあったグラスを何杯か飲んだだけだが、
やけにふわふわする。
会場を離れ歩き出したが、明るい城内と違って暗い
場所ではどこを歩いているかさえ分からなかった。
ふらっとした瞬間、地面に転んでいた。
ヒールも高すぎる。
文句を言ってやりたいが、これを選んだのも全部
ティターニア本人だった。
「もう、なんでこんな高いヒールを選ぶのよっ!」
シグルドに合わせる為に選んだのだろう。
全てがシグルド中心に回っているのが可哀想に思え
る。
「あんたは一生、好かれやしないのに……」
今の自分に言っているようだと感じた。
平民に恋しても結ばれる事はない。
なぜなら王族が婚姻する時は同じ立場か、もしくは
公爵か、侯爵であるという条件があるのだ。
「ただ推しに会うだけならいいじゃない……」
「おい、大丈夫か?」
地面に蹲ったままでいると、聞き慣れた声がした。
見上げるとそこには、ラフな格好のガゼルが立って
いた。
「……」
「まさか立てないとかじゃないよな?」
「……」
あぁ……この不器用なところが好きだな……。
いっそこのまま好きだって言ってしまいたかった。
差し出された手を取ると、立ち上がる。
じっと見つめるティターニアに、ガゼルは不機嫌
そうだった。
「そこで何をしている?」
後ろから声をかけて来たのは白の騎士団の団員だ
った。
彼はテオバルド・ペリドット。
シグルドの部下で、伯爵家の次男だ。
「おい、ガゼル・トート、お前は皇女様に何をした」
「何もしていない……転んだようだったから…」
「嘘をつくな!皇女様に怪我をさせるなど騎士とし
恥ずかしくないのか!このことはしっかり伝えて
おくからな、覚悟しておけ!」
「……なっ違っ…………っ…」
何か言おうとして、諦めるように視線を下に移した
のだった。
「待って!彼は何も悪くないわ、私が一人で転んだ
のよ。それに彼はパーティーには居なかったでし
ょ?気づけるわけがないわ」
「ですが……」
「いいの、私がいいって言ってるんだから……」
部屋に帰ったら魔法で治さなくっちゃね。
そして何事もなく終わるはずだった。
が、そうはいかなかった。