先代の取り決め
今日の夜会の主役はアルベルト・ルーウィンだ。
この帝国の第一皇子にして、皇帝に一番近い人と
言われていた。
が、実際は違っていた。
外交などに勤しみ、国外での交渉役として出ている
事が多く、一年の半分は国外で過ごしている。
ティターニアとは7歳も離れていて、アルベルト
の母親は妾だった。
正妻に子供がなかなかできず、業を煮やした先代皇
帝が何人か連れて来た妾のうちの一人だったのだ。
すぐに子供を授かり安泰に思われた。
その6年後、正妻にも子供が授かってしまった。
正妻は隣国の戦争の盛んな国の娘だった。
いわゆる政略結婚だ。
戦争を回避する為に、正妻として娶り、その子を
次期皇帝の座につけると言う約束を交わしていた。
そして産まれたのがティターニア皇女だった。
その後、数年の療養ののち、正妻はあっけなく命
を散らせたのだった。
ティターニアは可愛らしく、健やかに育った。
父である皇帝陛下も、そんなティターニアを可愛
がった。
だが、あまりにも可愛がり過ぎたせいで、どうに
も制御できないくらいに我儘になってしまった。
後悔しても後悔しきれない。
しかし、最近思慮深くなってきた。
まるで別人のようにおとなしく、淑女らしく育
った。
そのせいか、国外の来賓が来る場には絶対に出
せなかったのだが、今のティターニア皇女なら
全く問題はなかった。
皇子、皇女共にこの国を支える顔になるのだ。
騎士団長なんかにうつつを抜かしていては困る。
だが、それと同時に他国の王子を婿に迎える事
に一抹の不安もあった。
兄のアルベルトは、このカストラール帝国を継
ぐ事は考えていない。
それは小さい時から、兄であってもこの国を継
げないのだとしっかり言い聞かせられて来たか
らに過ぎない。
今日も盛大なパーティーを開いてアルベルト皇
子の祝賀会を開いてはいるが、それは世間体を
慮ってのものだった。
「ティターニア、元気だったか?」
「えぇ、アルベルトお兄様。ご無事の帰還、心
より、お祝い申し上げます。他国でのご活躍
は噂になっておりますわ」
「そうなのかい?それにしても見ないうちに、
ティターニアも大人になったね?前にシグル
ドのあとを追いかけてばかりだったのが嘘の
ようだよ」
「そんな昔の事……今は心を入れ替え、国の為
に尽くして行こうと思っていますわ」
「それは、いい事だ。僕も負けてはいられない
な……」
アルベルトは元気よく笑うと、そのまま騎士団
達の方へと歩きだしたのだった。
ティターニアは息を吐くと周りを見回す。
ガゼルは今日も来ていなかった。
警備にも騎士団は配置される事はあるが、団長
自らパーティー会場から遠い場所の警護にいく
など、寂しすぎる。
今、視界の端では、兄のアルベルトとシグルド
が何やら楽しそうに話しているのが見えたのだ
った。




