ハニキスの嫉妬
ペリーエ港の方への遠征は行われる事はなかった。
ティターニア皇女の思いつきで騎士団を動かせる
ほどに、皇女の権力は高くはなかった。
そんな折、丁度隣国の問題を片付けて帰って来た
アルベルト・ルーウィンが帰国したのだった。
陛下はアルベルトの帰国を歓迎して大きな夜会を
開催する事を公言した。
貴族はこぞって参加するだろう。
アルベルトとお近づきになれば、それはもう将来
安泰だからだった。
もし、気に入られなくとも、名前を覚えてもらえ
るだけでも、社交界ではこの上なく有利に働く。
貴族社会の常識と言ってもいいほど、当たり前の
事だ。
ガゼル卿は、家の身分に拘らなくとも、自らの力
だけで子爵の地位についた男だった。
注目されないはずがないのだ。
だが、問題の本人はそんなしがらみを気にせず、
夜会に参加する気など全くないという事だった。
兄弟のハニキスは前のパーティーですっぽか
され、流石に怒りに身を震わせていた。
父親に八つ当たりのように文句を言っても、全
く相手にされず、怒りの矛先はガゼルへと向く
のは必然と言えた。
「あの野郎、俺の事を馬鹿にしやがって……
見てろよ……」
夜会への参加は子爵以上の身分に限られていた。
そこでハニキスは父親の伝手で侯爵の知り合い
という立場で夜会への招待状を手に入れたのだ
った。
会場内は、いつものパーティーとは全く雰囲気
が違っていた。
成金の男爵がいないせいか、誰もが確実な貴族
で、平民出の成金貴族とは全く違っていた。
漂う雰囲気も、その場の空気も…。
それもそのはず、今日は遠方にいたアルベルト
皇太子殿下が帰国したのを祝う場なのだから。
身分も高い者のみで構成されており、問題を起
こすような愚かな者はそもそも参加できない様
になっていたからだった。
「侯爵様、この度はありがとうございます」
「あぁ……もういいだろう?私は君の様な低い
身分の者の参加はあまり進めないのだがな…
君がどうしてもと言うから……まぁいい。こ
れ以上は話しかけないでくれたまえ」
一緒に入ったまではよかったが、渡した多額の
金銭の分はこれでチャラだと言わんばかりの言
い方だった。
ハニキス・トートは、父親の地位から男爵であ
る。
弟のガゼルが子爵だから、明らかに堂々と発言
出来る身分ではなくなってしまったのだ。
唯一、ガゼルを見下す方法はたった一つだ。
それはティターニア皇女に身染められて、皇女
の横で口を出す事だけであった。
勿論、ティターニア皇女の目にさえ留まれば、
きっと気に入られる。
そう確信を持っていた。
どこからそんな自信が湧いて来るのかは疑問だ
ったが、トート家で散々褒められて育った弊害
だろう。
自分の事を客観的に見る事ができず、それでい
て頭も弱かったのだった。




