ティターニアのお願い
ティターニア皇女は今日も差し入れを持ってせっ
せと黒の騎士団の訓練場へと足を運んでいた。
この身体になってからは、常にシグルドとの噂が
絶えなかったが、やっとそれも落ち着いて来たの
だった。
新しくなった訓練場は広くて綺麗で、丈夫な作り
になっている。
今にも崩壊しそうな前の建物は取り壊して、今は
備品置き場として建て直したのだった。
武器や訓練用の備品、その他にも使わないものを
入れておく場所としてつかっている。
ちょうど、ティターニア皇女が入って来ると汗を
拭きながら休んでいたビオーナが大声で手を振っ
てきたのだった。
「皇女さま〜!」
「今日も大変ね、これ…差し入れよ。皆さんで
食べて」
そういうとバスケットに詰め込まれたサンドイ
ッチやスコーンなど軽食を差し出したのだった。
若い騎士達は、こぞって飛びつこうとしたが、
素早くガゼルが取り上げると、厳しく叱った。
「まずは礼が先だろう?いつもありがたいのだ
が、こう毎日では…」
「いいのよ。私が好きでやってるんだし。それ
に、悪いと思うなら、今度お願いを聞いて欲
しいのだけど」
「お願い…ですか?」
「はい…ちょっと遠くへ行きたいのですが、な
にぶん場所が場所だけにちょっと……」
言いにくそうに言葉を濁した。
すると、それを察したのかガゼルは無理には聞
いて来なかった。
「どこでもお供しますよ。この黒の騎士団長の
名にかけて、約束しましょう」
「そうですよぉ、俺ら、なんでもしますよ?」
部下もガゼルの言葉に賛同したようだった。
「では、その時はお願いしてもいいかしら?」
「はい、任せて下さい」
「ありがとうございます、ガゼル様」
満面の笑顔で返すと、恥ずかしいのか少し視線
を外されてしまった。
しかし、耳まで真っ赤にしていたのだけはしっ
かりと見えてしまった。
やっぱり今日も可愛い。
いつ見ても恥ずかしがり屋なのに、情には熱い
そんな仲間思いの団長なのだ。
だからこそ、好きになったのだ。
慣れてさえくれれば、たまに笑顔も見せてくれ
るだろうか?
そんなささやかな事が、今のティターニアには
ご褒美のようであった。
推しの照れた姿や、拗ねたような顔は、ご褒美
としか思えなかったのだった。
黒の騎士団の中では、当たり前になっている光
景があった。
それは最近、ティターニア皇女が毎日のように
差し入れを持って来る事と、ガゼルを見つめて
うっとりしている事だった。
本人達以外は、誰がどう見てもお互い意識して
いるのが見て取れる。
が、本人達だけは、まだお互いに気づいていな
いのだ。
全く、世話が焼けるのだが……。
だが、周りが何をしようとも、身分の差は埋め
られない。
それだけは、どうにもならない事なのだ。
今回の活躍で個人的にガゼルは子爵の身分を手
に入れる事ができた。
だが、それ以上になるには、ただの功績では無
理な事である。
例えば、影の尖兵を完全に駆逐するような大き
な手柄が必要だ。
それでも、陛下が認めるかは疑問だ。
血筋を重んじる人だし、貴族である大臣達が
ガゼルを認める事は一生ないだろう。
そう、奇跡でも起きない限りは……。




