嫉妬
ダンスホールの中央で、踊るティターニアを見た
シグルドは一瞬目を離せなかった。
今日も自分をじっと見ていたのは知っていた。
だが、わざと無視した。
まだ自分に未練があるのか……。
そう思ったら、うんざりしていたからだっだ。
周りにわざと女性を侍らせると見せつけるよう
に、見える場所で笑顔を振りまいた。
だが、全く話しかけても来ないし、横にいる女
性と楽しそうに話していた。
そういえば、ティターニアが女性と話している
姿など初めて見た気がする。
そしてあろう事か、ダンス相手に選んだのはそ
の横にいた女性だった。
なぜだ?
最近は全く部屋に押しかけてくることも無くな
って、安心していたが、本当に興味がなくなっ
たのか?
訓練中も、見える場所をじんどって休憩を待っ
ているのが当たり前だった。
最近では、ティターニア皇女への辛辣な言動を
言ったなどと変な噂まで流れていた。
シグルド自身、何も覚えはないのだ。
確かに、自分を諦めて欲しいとは言ったが、そ
れはいつもの事で……そんな事で、諦める女で
はなかったはずだ。
そして何よりも、平民嫌いだったはずだ。
それなのに、最近では黒の騎士団へと足繁く通
っているという。
あの男のところへ……。
ガゼル・トート。
あの男は要注意人物だ。
緑の騎士団のセルシオはまだいい。
自分の立ち位置をしっかりわきまえている。
だが、ガゼルは違った。
あきらかに、敵意を持っている。
手柄を立ててのし上がってやろうという覇気が
あるのだ。
それも平民のくせに…。
たかが傭兵だった身分から、騎士団の推薦があ
ったからと言って、簡単になれるものではない。
貴族の身分も必要なのだ。
しかし、彼の父が認知した事で、一応貴族と認
められ、団長としての地位を確立した。
そして、今回の功績でガゼル本人に子爵の位が
与えられるという。
一人の力で階級を上げるなど、普通は難しかっ
た。
それを後押ししたのがティターニア皇女だった。
あんなに嫌っていた平民を押し上げるなど、あり
得なかった。
それも、よりによってあの男を……。
調査団にいたはずの貴族連中はこぞって辞表を出
すと故郷に帰ってしまった。
貴族の端くれといえど、甘い汁ばかり吸っていた
連中だ、皇女に何か言われたのか、逃げるように
宮中からいなくなってしまった。
白の騎士団を優遇するようにという目的を果たせ
る人間が少なくなったのも事実だった。
他の部署も予算などを組む会計にも最近皇女の
視察が入ったらしく、貴族の数人が辞めていった
と聞いている。
一体、ティターニア皇女に何があったのか?
大臣たちは今でも、上流階級の身分の者しかな
れないが、それ以外の役職は平民が混ざる事が
多い。
その理由は、平民をこき使って、自分は楽がで
きるから……だった。
コンコンッ。
ノックが聞こえると、すぐに「どうぞ」と返事
を返した。
入って来たのは、ヴォルフ卿だった。
シグルドの父親だ。
「シグルド、いい加減皇女の機嫌を取ってこい」
「嫌ですよ。どうして俺があんな女の…」
「お前は馬鹿か?あの女は皇帝陛下に溺愛され
ているんだぞ?もし他の男に取られでもした
ら……」
「それならお父様が口説けばいいでしょう?俺
はあんな女は嫌です。前から言っているでし
ょう。こっちは毎日付き纏われて迷惑してい
るって」
「何を血迷ったことを……お前はヴォルフの名
を汚すつもりか!いい加減目を覚ませ!いい
か?絶対に皇女の心を繋ぎ止めておけ!」
ヴォルフ卿は怒ったように声を荒げると出て行
ってしまった。
残されたシグルドはため息を吐くと、壁にかか
った肖像画を見上げた。
そこには、笑顔の母親と父親、そして自分が描
かれていたのだった。




