皇女の我儘 2
夜になると、ダンスホールを埋め尽くすほどの紳士
淑女で溢れかえっている。
その中でも、豪華なドレスに身を包み、目立つ位置
にいるのがティターニア皇女だった。
誰よりも派手で、宝石を散りばめたネックレスとイ
ヤリング。
白い肌にはキラキラと光るパールのおしろいをはた
き、夜の灯りの下では美しく魅惑的に見えるように
なっていた。
「今日も贅沢なドレスを……」
呆れるように、ティターニアを睨みつけると向か
ってくるティターニアを嫌々迎える。
彼は白の騎士団長のシグルス・ヴォルフだった。
毎回毎回、訓練を見にきては邪魔でしかない皇女
にあきあきしていた。
シグルドの父が侯爵なせいか小さい頃は皇女の相
手をさせられていた。
父からも自分に惚れさせて、ゆくゆくは皇帝の地
位を得るようにと指示されていた。
だが、それは簡単過ぎるくらい簡単だった。
皇女ティターニアがシグルドに一目惚れしたから
だった。
どこに行くにも呼び出され、欲しいものはなんで
も手に入った。
騎士になると、新しい宿舎が建てられ、訓練場も
綺麗で、色々と便利になった。
そのせいで他の騎士団からは白い目で見られてい
る。
これも全部皇女の身勝手な行動のせいだった。
だが、それだけでは終わらなかった。
騎士学校に入った後も、やたらと監視がついた。
女性騎士と話した次の日には呼び出され追及され
た。
そして、シグルドと話した女性騎士は即座にやめ
させられたのだった。
今も、自分だけを見てと言わんばかりに派手なド
レスで着飾っている。
見ているだけで吐き気がするほどだった。
シグルドの前で止まると思われると、すぐに頭を
下げて手を差し出す。
これは騎士として当然の礼儀だった。
目上の人間を袖に出来る身分ではないのだ。
選ぶ権利は皇女にしかない。
するとどういうわけかそのまま通り過ぎていく。
いつもならまっすぐに見つめてくる金色の瞳が、
シグルドを苛立たせたのだが、どう言うわけか、
今日は目にも入っていないようだった。
呆気に取られると、そのまま椅子に座ってしまっ
た。
ダンスが始まっても一向に踊る気配すらない。
自分から話かけるのもたばかられるので、そっと
しておく事にしたのだった。
おとなしくしていれば、これほど美しい女性はい
ない。
金色の髪に金色の瞳。
王族である証の色だった。
王族は回復魔法に特化しており、貴族は属性魔法
に特化している。
そもそも、魔法は王族、貴族にしか受け継がれず
平民は使う事さえできない。
今退屈そうに座っているティターニアも魔法を使
えるのだ。
ただし、皇女が使っているのを見た事があるのは
シグルドだけだった。
実際にはシグルドにしか使わないのだった。