祭壇の仕掛け
帰ってきたらガゼルはどこも怪我はしていない様
子だった。
「怪我人はいませんか?皆さん、大丈夫ですか?」
心配になって声をかけるティターニアに、皆笑顔
で『大丈夫だ』と答えたのだった。
「待って、貴方怪我してるじゃない!すぐに治す
わ、おとなしくしてて」
「いえ、皇女様!このくらい平気です」
「ダメよ、怪我を甘く見ちゃだめ!」
小さな怪我でも、後々響いてくる事もあるのだ。
まだ、若い青年は最近入ったばかりだという。
ティターニアを見ると真っ赤になって惚けている
事が多い青年だった。
たまに黒の騎士団に差し入れとばかりにお菓子や
サンドイッチを持っていくので、何度か顔を合わ
せていた。
勿論、ティターニアも訓練を見学はしている。
ただ、戦闘に向いていないので、訓練場の隅っ
こでエミールに弓を教えてもらいながらコツコツ
と励んでいた。
「どう?他にどこか痛いところはある?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「そうですよぉ〜、このくらい舐めとけば治りま
すって〜」
同期なのか年の近い騎士がすぐ横から口を挟んだ
のだった。
「おい、サボっているようなら、帰ったら訓練メ
ニューをお前らだけ倍にするからな」
「それはないっすよ〜」
無駄口を叩くようなら、動けと言うとガゼルは
ティターニア皇女のそばで話していた騎士を持
ち場へと戻したのだった。
「重症者はいませんので、大丈夫です」
「それでも、怪我したら治した方が効率いいで
すよね?」
「それは……助かりますが……あまり無理せぬ
ように…」
ガゼルが照れるように忠告すると、すぐに行っ
てしまった。
照れる推しも実に可愛いかった。
まるで耳を下げて尻尾を振っているかのように
見える。
実に…尊い……。
あぁ、神様。ありがとう。
推しが近い。
推しが尊い。
ティターニア皇女はもう、自分が皇女だという
事を完全に忘れ去っていた。
推しを眺めるファンの視線になっていた。
調査団と共にさっきまで魔物の巣穴だった場所
へとやってきた。
巣穴はそれほど深くはなく、一個づつ調べていく。
その中の一つ。
奥まで続いている洞窟があった。
「これですね…」
「これは……一体……」
騎士団員と一緒に入って見ると、そこには奥に祭
壇が置かれておりその上から黒いモヤのようなモ
ノが上がっている。
「この下を見たいんだが、ちょっとどけてくれる
か?」
調査団の一人が言うと、祭壇のしたの石を退けよ
うと手を伸ばした。
その瞬間モヤがゆらりと団員へと向かった。
それを見ていたガゼルは咄嗟に襟首を引っ張り避
けさせた。
あまりに一瞬だったので、その場の全員が息を飲
んだ。
モヤはゆっくりと再び上に向かう。
さっきのはなんだったのだろうか?
風もないのに、一瞬なびいて団員を包み込もうと
したのだ。
それも不自然なほどの動きをしたのだった。
「これは触れるとやばいかもしれないな」
ガゼルが呟くと、調査団員も一成にその場を離れた。
それでも調査しなくてはならない。
ティターニアはこの先を知っている。
祭壇に触れてた人は、モヤに飲み込まれ黒い影を纏
うのだ。
そしていきなり仲間に襲いかかるのだ。
もし、それを浄化できたのなら……。
「ガゼル様、私に任せて貰えませんか?」
「皇女様に?これは遊びではないのですよ?」
「はい、分かっています。ですが、これは人が触っ
ていいモノではないのでしょう?」
確かに不気味なほど嫌な予感しかしなかった。




