古代の神物
ガゼルの父親、トート卿はすぐに使用人を走らせ
たのだった。
だが、ガゼルはまだ森の中で帰ってきては居ない。
いくら緊急の手紙を持たせたと言っても、本人に
会えなければ意味がなかった。
「すぐにこの手紙を持っていけ!そして、すぐに
来いと言って帰りにそのまま連れ帰って来い」
「はい、ただちに行ってまいりますっ!」
使用人はすぐさま駆け出していった。
その頃、ティターニア皇女は部屋で自分が書き出し
たノートと睨めっこしていた。
「これも違うわ、なら、ここだったかしら?」
前まではもっとスラスラと思い出せた事が最近では
少しずつ忘れていっている事に気づいたのだった。
このままでは推しをみすみす死なせてしまいかねな
い。早く真相に近付く為にと、思考するが肝心な所
が思い出せないでいた。
それに悩みの種はそれだけではなかった。
数日前、大々的にガゼルの生誕祭をする為に街へと
出て居た時だった。
『ねぇ、あの人素敵じゃない?』
『あら、そうね……黒の騎士団?あまり見かけない
わね〜』
『白の騎士団のシグルド様のところじゃないと分か
らないわね…』
『言えてるわ〜、でも……いい男じゃない?』
『確かに…』
街での反応は上場だ。
推しの一番いい笑顔を隠し撮りしたせいもあってか
一番輝いていると思う。
本人は女性と話すのが苦手なせいかいつも顰めっ面
をしているので、絶対こんな笑顔など見られないか
らか、『誰?』と思う人が大半だった。
「あぁ、素敵よねぇ〜、街中が推しで溢れてるわ」
全てはティターニア皇女の仕業だが、推しの喜ぶ顔
がみたいとばかりに街中を飾ったのだった。
それは当の本人だけが見て居ないという結果で幕を
閉じるのだが、それさえティターニアは知らない。
自己満足という観点では、推しの布教には成功した
と言えるだろう。
その日は王宮から出て、街の中を飾った中で過ごす
事にしたのだった。
これから赴くインテルズ川の奥地に眠る古代の神物
を手に入れる為には、どうしても黒の騎士団と一緒
に行く必要があったからだ。
本当なら功績を立てた騎士団と共にヒロインが訪れ
るはずのイベントだが、まだマリアは聖女候補であ
って聖女になってはいなかった。
その理由は、今回の遠征にある。
実際は、白の騎士団に同行するのは、ティターニア
皇女と教会から派遣された聖女候補だったマリアな
のだ。
そこで、我儘放題で好き勝手する皇女に手を焼きな
がら街の被害を知って、必死に黒死病を治そうとす
るが、自分の無力さを知って嘆き悲しみ、皇女から
の罵倒に心が折れそうになるところで聖女へと覚醒
するのだ。
だが、実際は罵倒する皇女はおらず、もう一人の聖
女候補と悩んで解決できずに帰ってきた。
それもそうだろう、先輩聖女候補でも治せないのだ
から仕方がない。
そう、思える理由が出来てしまったのだから。




