ティターニアの思惑
そろそろ、ガゼルの生誕祭がある。
それを知ったのは、推しが遠征から帰ってきて数
日が経った頃だった。
急に思い出したのだった。
遠征が長引き、一ヶ月後に帰宅した時、ガゼルが
遠征中に誕生日が過ぎていた事に気づく。
とあったからだった。
「よし!せっかくなら大々的に宣伝してしまおう」
ティターニア皇女は小遣いで買いためた映像石の
なかから一番いいアングルの映像を選び出すと、
紙に映し出す。
それを地元の有名なメディアに持ち込むと、すぐ
に動いてくれた。
前にもシグルドの生誕祭で、貴族の史女達がこぞ
ってメディアに写真を持ち込み流すように依頼し、
どこもかしこもシグルド一色になった事があった。
それと同じ事をティターニア皇女はしようとして
いた。
映像広告や、至るところに張り出されるポスター
そして、大きな垂れ幕。
この、王都の一番目立つ塔の上から大きな顔写真
付きの垂れ幕が張り出されるのだ。
これには多くのお金が投入される。
が、全市民が見る事で知名度が上がり地位向上に
も一役買う事になるのだった。
「ふふふっ……きっと、ガゼル様も気づいてくれ
るわね……どんな反応をするかしら」
楽しみで仕方がなかった。
生誕祭当日。
大々的に貼られたポスターに垂れ幕。
これでもかというくらいに、凛々しい姿がいく
つも貼られたのだった。
その頃、街でそんな大事になっているなど知ら
ないガゼル本人はいたって普通に訓練の為に、
近隣の森へときていた。
見回りという名目もあったが、最近身近に感じ
るティターニア皇女の事で、予想以上に自分が
気にしている事を自覚し始めたからだった。
邪念を払う為という言い訳をしながら魔物を討
伐しに出かけたのだった。
そのまま野営すると、帰ってきたのはその2日
後だった。
もちろん、ティターニア皇女の目論みには気づ
くことはなかった。
だが、それを見ていた人物がいた。
それはガゼルを養子にしたトート家の長男だ
った。
使用人に産ませた子供で、代々赤毛の子供が
産まれるはずが、ガゼルの母親は自分にそっ
くりな黒髪の息子を産んでしまった。
その為、我が子と認知される事はなく、使用
人のような扱いを受けてきた。
時には憂さ晴らしに殴られ、魔法の練習台と
して全身打撲や、擦り傷だらけになった事も
あった。
家に入れて貰えず納屋で過ごす日々が続くと
ある日、朝になっても目を覚さない母親を見
つけたのだった。
『お前さえ…お前さえ産まなければ……』
いつも呪文のように母親が口にしていた言葉
だった。
誕生日を祝った事など一度もなかった。
騎士団同士で、『おめでとう』と声をかける
事はあっても、言われた覚えはない。
なぜなら、誰にも言って居ないからだ。
誰に言う必要もないし、言ったとして祝って
くれるような相手すら居ないからだった。




