訓練場の出来事
ティターニアが向かったのは騎士団の合同訓練場
だった。
制服でどこの配属かが一目で分かるようになって
いる。
見渡す限り白と緑しかない。
黒という色が全く見当たらなかった。
「どういう事?」
「ティターニア様、あの右の角におりますわ!」
「すぐに行かれるのでしょう?」
きゃっきゃと騒ぐ二人を横目に必死に探すが、全く
見つからない。
「黒の騎士団はどこにいるの?」
ポツリと出た言葉に、二人が声を合わせていう。
「ティターニア様、何をおっしゃっているのですか?
平民ごときが貴族の訓練場を使うなど身の程知らず
もいい所ですわっと言って追い出したではありませ
んか〜」
笑いながら言われた言葉に、頭の中が真っ白になった。
今ならはっきりと思い出せる。
あの日、シグルドを見ていて、視界に入った黒の制服
に腹を立てて、追い出したのは、事もあろうかティタ
ーニア自身なのだ。
「嘘でしょ……じゃ〜、どこで訓練を?」
「それは……外ではないですか?」
「確か今は使われていない荒れ果てた訓練場がありま
したわね?」
「えぇ、確か老朽化とかでそのままになっている場所
だったかと…」
二人の話を元に急いで向かう。
王宮の離れた場所にひっそりとボロい建物が建ってい
た。
そこはかつて訓練場として使われていた場所だ。
ドアを開けるとギィィっと音が軋む。
「こんな所で訓練を……」
すると奥から掛け声が聞こえてきた。
活気のある声に、視線を向けると、そこにはガゼルの
姿があった。
夢にまで見た、本物の推しの姿だった。
こんな古びた建物の中であっても、今日も輝いて見え
る。
ティターニアにとっては、ただ本物のガゼルが動いて
いる事自体が奇跡であって、推しを前にしたただのい
ちファンであるのだった。
すると、ガゼルと目があった気がする。
ずんずんとこちらに向かって歩いてきていた。
胸がときめくのを抑えながら眺めてしまう。
「なんの用ですか?皇女様がこんな場所に来る理由は
ないはずですが?」
冷たく言われようと、ただ言葉を交わせただけで幸せ
だった。
「いえ、しっかり訓練をしているのですね…今日の夜
のパーティーですけど……」
「それは、俺に関係ありますか?」
「え……騎士は全員参加のはずですけど………あっ…」
自分で言ってから気づく。
確か、黒の騎士団のメンバーは誰もが平民上がりだっ
た。
その為、最初パーティーに参加した時に食事にガッツ
クばかりでダンスなど踊れない者がほとんどだった。
それを見たティターニアが出入り禁止にしたのだった。
「いえ……あの、ガゼル・トート卿は男爵ですよね?
では参加しても……」
「……」
弱々しく言ったはずだが、キッと睨まれるとそれ以上
言えなかった。
あれだけ誹謗中傷しておいて、いきなりしおらしくな
ったとしても、疑わしいだけだろう。
「なんでもありませんわ。訓練頑張ってください」
「……」
それだけ言うと、出てきた。
よくよく見ると、老朽化していると言うが、今にも崩
れそうなほどにボロかった。
黒の騎士団の宿舎もこの近くにあったはずと、ついで
に見に行ったが、さっきの訓練場とさほど変わらなか
った。
白の騎士団と、緑の騎士団との差が歴然としていた。
「こんなの酷すぎるよ……同じ国を護る騎士団なのに」
ティターニアは早速城の敷地の中の森を切り開き寄宿
舎兼訓練場を建てるように進言したのだった。