問題の溜池 2
オルフェンに連れられてティターニアは離れた場
所まで来ていた。
辺りは暗かったが、それでもガゼルだけはしっか
りと見えた。
推しが戦う姿が間近で見れるなんて滅多にない場
面なので、しっかり目に焼き付けておかねばなら
なかった。
映像記憶媒体を取り出すと胸の前にしっかりと握
りしめていた。
映像を記憶する魔石がある。
それは、高価なもので、一般市民には手が出せな
いような金額のものだった。
「皇女様、もっと離れた方が……」
「ここまでくれば大丈夫でしょう?それに…ガゼ
ル卿はこんな事ではやられない…そうでしょ?」
「それは……そうなのですが……」
オルフェンは言葉を濁した。
オルフェンは一番近くでガゼルという人間を見て
きた人だった。
強さはもちろんの事、人としても何度も死地を共
に潜り抜けてきた。
だから、一番よく知っていると言ってもいい。
それでも異常なほどの強敵には敵わない事もある。
ゲームでは死体で出てきた魔物だから余計に油断
はできない。
ガゼルの剣気が何度も放たれると、その度に魔物
の血が飛び散っていく。
影の尖兵になりかけている魔物だけあってか、非
常に強かった。
だが、黒の騎士団とて負けてはいなかった。
戦いは雑に見えるが確実に急所をついていく。
動きを鈍らせると、次々に切り刻んでいった。
立っているのもやっとの魔物にガゼルがとどめと
ばかりに首を吹き飛ばしたのだった。
森の奥にコロコロと頭部が転がっていく。
身体は大きな振動と共に崩れ落ち朽ちていった。
「さすが団長……」
「やっぱりガゼル卿なら倒してくれると思いまし
たわ」
ティターニアはアルベルトに微笑むと、一緒にガ
ゼルの元へと向かったのだった。
脅威は過ぎ去ったと見ると、溜池を覗き込んだ。
先ほどの魔物のせいか水は赤黒く濁ったままだっ
た。
「この量の水を浄化は無理そうですね……まずは
先ほど飲み水は確保しましたし、明日また来ま
しょうか?」
「いえ、どこまで出来るかわからないけど、やっ
てみるわ」
「ティターニア皇女っ……もし貴方に何かあった
ら……」
「そしたら、ガゼル様がおぶって連れ帰ってくれ
るのでしょう?」
「……」
振り返ってキラキラした目で見つめられると、一
瞬ドキリとしてしまう。
皇女の美貌なら、普通の男なら簡単に落とせるは
ずだ。
幼馴染みのシグルドだったから、あんなに頑なに
拒まれたのだ。
「見ててくださいね」
静かに声をかけるとゆっくり手を伸ばす。
集中すると魔力が手の平に集まってきているのが
わかる。
暖かい光りと共に、ゆっくりと念じる。
光が闇夜に光り輝き、周りを明るく照らす。
そうして水面が輝き始める。
たしか、ティターニア皇女は膨大な魔力の持ち主
で、魔法も並外れたセンス持っているはずだった。
ただ、問題があるとすればその魔法の力を下の者
に使う事に難色を示した事だった。
『なんで平民の為に私が動かなきゃ行けないの?』
『たかが平民風情が………死ねばいいじゃない?』
『シグルド〜、貴方ならわかるわよね?私が愛し
ているのは貴方だけよ!私が魔法を使う時は貴
方の前だけよ』
過去の回想を見ているようだった。
これはみんなティターニア皇女が言った言葉だ。
(もう、少しは民の為に動きなさいよ)
心の中で悪態を呟くと共に息を吐く。
魔力を放出したあとは、一気に疲れが来る。
久しぶりに魔法を使ったせいか、足がガクガクと
震えていた。
「ティターニア皇女っ!」
力が抜けると、ガクッと倒れかける。
それを支えるようにガゼルがティターニアの腰を
引き寄せると、支えた。
「ごめんなさい……ちょっと疲れて……」
「それはいいのですが……俺が抱き上げても?」
「お願い……もう立っているのも辛いわ…」
そう言うと、身体を預けるように目を閉じたのだ
った。




