野営
初日は何の問題もなく山道を登っていく。
多少魔物が出てきたりもしたが、問題もなく遠征
予定地へと向かう。
白の騎士団は目的の街についている頃だろう。
半日で着く距離なので、今頃は街の歓迎を受けて
豪華な宿でゆっくりとしているのだろう。
黒の騎士団は今から険しい山の中へと入る。
どこから魔物が出るかもわからず。
影の尖兵も侮れない。
そんな中を川を目安に登って降る。
途中休憩を挟みながら進んだ。
たまにチラチラとガゼルの視線を感じるが、それ
よりも馬にずっと乗っているせいでお尻がヒリヒ
リと痛い。
「ここで今日は野営する。各自テントを張れ!」
ガゼルの掛け声に簡易テントを張った。
ティターニアはそれを見ていることしかできなか
った。
勝手がわからないものに下手に口出しして迷惑を
かけるわけにはいかなかったからだ。
「皇女様はそこで待っていてください、俺たちが
やりますので」
「あ、ありがとう」
それにしても、何もしないというのは気が引ける。
ならと、川を覗くと魚がいるのが見えた。
「これなら私でもできそうね」
マジックバッグを漁ると、市場で買った魔道具を
取り出した。
軽い電流を流すと言っていたが、川で使うとどう
なるのだろう。
今は、まだ誰も川の水を使ってはいない。
今なら大丈夫そうだと思うとそっと川の中に付け
るとぐるぐる手巻きで貯めた電気を流したのだっ
た。
バチバツッと音を立てると、水面に魚がプカーと
浮いてきたのだった。
靴を脱ぐと川に入って浮かんだ魚を掴みに行く。
ピクピクと痙攣しているだけで死んではいない様
だ。
「これなら十分よね!」
火を起こそうとしていた団員に魔道具を貸すと、
喜んでくれた。
そこにさっきの魚を見せると串に刺して塩焼き
にする事になった。
団員分が十分確保できたせいか、誰もが皇女に
好意的だった。
見回りを終えて帰ってきたガゼルが見たのは、
火を囲むように団員達と和気あいあいと話す
皇女の姿だった。
「団長ー、早くご飯にしましょうよ!」
「あぁ……」
食事は干し肉と湯に薄く味をつけたスープの
はずだった。
が、なぜか魚が煮込まれており、その前には
串に刺さった魚が塩焼きになっていた。
団員達も、美味しそうに貪っている。
「これは……干し肉とスープのはずだが…」
「この魚は皇女様が取ってくれたんです。野営
でこんな新鮮な魚が食べれるなんて……美味
いですよ?団長もどうぞ」
「そうか……」
皇女の事だからすぐに音を上げるだろうと思っ
ていた。
が、予想以上に団員と打ち解けていたのだった。
その夜も皇女からの差し入れと言われ薄い布を
渡された。
みんな最初は動揺を隠せなかったが、断るわけ
にもいかず受け取ったのだが、使ってみて驚いた。
薄い布なのだが保温効果があり、用意された毛布
にくるまるよりも暖かかったからだ。
しかもかさばらず薄くて軽い。
どこで買ったのかと話題になったほどだった。
朝起きると誰もが皇女に感謝を述べるほどだった。
「皇女様、昨日の布はなんなのですか!すごく薄い
のに暖かいなんて…」
「アレは皆さんに差し上げます。これからも使う機
会はあると思うので……それとこの事は秘密です」
そう言って、説明を避けた。
「悪かったな…部下の分まで」
「ガゼル様はゆっくり眠れましたか?」
「あぁ……」
「それはよかったです」
ニッコリと微笑むと朝食にも魚が出てきたのだった。




