第1話 気づいたら最弱キャラでした
『遊撃のエレメンツ』
ジャンル:アクションRPG / 戦略シミュレーション
推奨スペック
RAM:4 GB以上
ストレージ:40GB以上の空き容量が必要
【ストーリー】
突如として神話や伝承に登場する怪物たちが目覚め、人類に脅威を与え始めた。各国は急遽、これに対抗するための特殊部隊を設立する。その部隊の名は「エレメンツ」。彼らは超常的な力を宿しており、怪物たちと戦うために様々な任務に挑んでいく。
『遊撃のエレメンツ』は、高精細なグラフィックと自由度の高いストーリーやカスタマイズ性が話題の大ヒットゲームだ。
プレイヤーは、エレメンツと呼ばれる特殊部隊の一員として、さまざまなアクションを駆使して戦うことが求められる。
神話や伝承から飛び出した怪物たちに立ち向かうこのゲームは、その迫力あるアクションと戦略性で、世界中のゲーマーを魅了していた。
彼はそのゲームに夢中な普通の大学生だった。
ゲーム内での自身のキャラクター作りに情熱を注ぎ、アクションと戦略が融合したゲームプレイを心から楽しんでいた。
あるとき大学の友人から「最弱キャラでクリア出来たら飯おごるぞ」と軽く冗談混じりに言われた。
最初は笑っていたが、その夜、彼はなんとなくそれに挑戦してみることにした。
そして、最弱キャラを主人公に選択してプレイを始めた。
「うわ、こいつほんと弱いな」
実際にプレイしてみると、噂に違わぬ雑魚ぶりだった。
「これでクリアするとか、ほとんど無理ゲーじゃないか?」
そう思えるほどの最弱ぶりである。
しかしながら、最弱キャラの落ちこぼれ感が、何の取り柄もない自らに重なる気がしてきた。
昔から平凡で特に何もしてこなかった。
得意だと自信を持って言えるものなど何もない。
学校の行事などでも、目立ったことなど一度もなかった。
自分の将来についても、これといった目標はなく、ただ漠然とした不安だけを抱えていた。
自分にはどうせ才能がないと、なにかと挑戦することも避けがちであった。
「こいつは自分なりに頑張ってはいるんだよな、きっと。雑魚ながら逃げずに懸命に戦っているのは偉いかもしれない」
ふとそんなことを考えていた。
すると、ゲームをプレイしている最中に突然意識がぼやけてきた。
そして気がつけば、見知らぬ場所に立っていた。
目の前に広がるのは、自分の知らないどこかの部屋であった。
どこか未来的で無機質な雰囲気が漂う部屋の中には、シンプルなデザインの家具が配置されており、無音で動くガラス製のドアが彼の前にあった。
さらに、壁に埋め込まれたディスプレイには、様々な情報が流れている。
「ここは……」
ふと気がつくと、自分の身体には見覚えのあるコスチュームがまとわれていた。
機能性とスタイリッシュさを兼ね備えたデザインのボディスーツである。
「このコスチューム……」
突然、部屋のドアが開き、背の高い男が現れた。
「ビリー、まだ寝ているのか? 訓練の時間だぞ!」
男が険しい顔つきで声を荒げた。
鋭い目つきをした筋肉質な体格の持ち主であった。
いかにも教官という雰囲気の人物で、実際に九割方そうであろうと思われた。
——ビリー? お、俺のことか⁉︎
訳がわからないが、部屋にはどう見ても他に誰もおらず、明らかに自分に対して言われていた。
「ボサッとしてないで、すぐに準備しろ!」
不機嫌そうに教官とおぼしき男はそう言うと、部屋を出て行った。
混乱の中で呆然としている彼は、部屋の中を見回し、ふと壁に掛けられた鏡に目が留まった。
彼は恐る恐る鏡の前に立ち、自分の姿を確認した。
そこにあるのは、見慣れた自分の姿ではなかった。
しかしながら、その姿はまったく知らない訳でもなかった。
そこに映っていたのは、ゲームの中で見慣れたキャラだった。
それは登場キャラクターの「ビリー」そのものであった。
彼は信じられない思いで鏡を見つめ、何度も自分の顔を触った。
そこに映っているのは、間違いなくビリーだった。
「どうなってんのこれ……」
彼は鏡の前で立ち尽くしていた。
しかしながら、なんとなく状況は掴めてきた。
最後の記憶では、彼は確かに『遊撃のエレメンツ』をプレイしていた。
そして今いるのは、どう見てもその世界の様である。
どうやらゲームの世界に入り込んで、その登場キャラになってしまった様である。
今どきの若者からすれば、それはわりと面白くエキサイティングで、夢の様な出来事だと言えるかも知れない。
大好きなゲームの世界で、しかもその登場キャラになれたのだから。
「な、なんで……」
しかし彼には、どうしても納得いかないことがあった。
「なんでよりによって、最弱キャラなんだよおおおおお!!!」
そうなのである。
ビリーこそが彼が直前までプレイしていた、このゲームにおける、ぶっちぎりの最弱キャラなのであった。