プロローグ 類まれなる戦士
華やかな明かりが浮かぶ夜の街中で、激しい戦闘音が響き渡っていた。
ビルの間では次々と爆発が起こり、瓦礫が舞い上がる。
「こちら現場からの中継です!」
騒々しいローター音が轟く中、飛び回るヘリコプターの中からリポーターがテレビ中継を行っている。
「現在、エレメンツの部隊が街中で激しい戦闘を繰り広げています。今回現れた怪物は、大型でかなり強力な様です!」
戦場と化した街の様子を、カメラが上空からズームインする。
視界に広がるのは、瓦礫など破壊のあとが散乱した街並みだった。
大きな爆発が度々起こり、火災による黒煙が至るところで上がっている。
「ご覧ください、怪物です! なんという大きさでしょうか」
テレビカメラが映し出したのは、ゆうに十メートル以上はあると思われる巨大な怪物だった。
弧を描いた二本の角、大きな鋭い爪と牙、巨大な翼、そして真っ赤に輝く目。
体表は黒い岩石の様であり、二足歩行で直立して全身の至るところから炎を噴き出している。
その姿はまるで、地獄の底から現れた魔王の様であった。
その恐ろしい怪物に立ち向かっているのが、特殊部隊エレメンツの隊員たちである。
パルスライフルや高周波ブレードなどで武装した隊員たちが、必死の攻防を展開していた。
また、雷や氷結弾など、エレメンツの持つ特殊能力も駆使している。
彼らの攻撃が怪物に命中するたびに、火花が飛び散る。
しかし、怪物はその勢いを衰えさせることなく、さらに暴れ続けていた。
その耐久力や攻撃力は尋常ではなく、街中をさらなる火の海に変えていく。
「隊員たちは全力で戦っています。しかし、彼らは苦戦してる模様です! 一体どうなるのでしょうか⁉︎」
同じ頃、各地の都市では、テレビやスマートフォンの画面でこの様子を見つめる人々の姿があった。
ライブ配信のチャットには、次々とコメントが投稿がされていく。
(おいおい、ヤバくね?)
(怪物でけー)
(攻撃効いてないんか)
(リポーター乙)
(早くなんとかして)
(頑張れー!)
(てゆーか、エレメンツ負けたらどーなんのこれ?)
誰の目にも明らかな様に、状況はかんばしくなかった。
彼らが対峙している怪物は、並みの相手ではない。
「くそっ、強い。このままでは……」
隊員たちは、その圧倒的な力に押されていた。
次々と怪物の猛攻が迫り、彼らは防戦一方だった。
それぞれの隊員の顔には、疲労と焦燥が浮かんでいた。
この時、近くの高層ビルの屋上に一つの人影が降り立った。
そして屋上のへりに立つと戦況を見下ろす。
「おー、だいぶ派手にやってるな」
額に手をかざしながら彼は言った。
その顔には最新式のゴーグルが装着されている。
内部に高度なデジタルインターフェースが組み込まれ、視界にターゲットの位置情報や弱点、戦況のリアルタイムデータがホログラムで表示される。
さらに、暗視機能や熱探知機能も備えていた。
すると、通信が入って来る。
「炎属性のデーモンの上位種だ。先遣隊が苦戦している。確実に撃破しろ」
「了解」
それから彼は、軽く伸びをして身体をほぐす。
「うーし、そんじゃやるか」
そして次の瞬間には、何のためらいもなくビルの屋上から飛び降りた。
風が顔を撫で、耳元をすり抜けていく。
落下のスピードが増す中、彼は手首の装備をしっかりと握り、ひねるように操作した。
すると、装備から無数の光が四方に飛び出していった。
そして、彼の身体の周囲を覆うように展開された光の粒は、瞬く間に形状を変える。
それから背中にジェットパックを形成していった。
「オーケー、行くぞ」
そのまま彼は、地面すれすれまで急降下する。
そして地面に激突する寸前で背中のジェットパックから炎が吹き出し、落下速度は一気に制御された。
彼の体はふわりと浮き、ジェットパックの推力で完全にバランスを取った状態で、地面から浮かんでいる。
そして、怪物の目の前の瓦礫の中に静かに着地した。
「さあ、次は俺が相手だ」
彼は怪物の前に立ちはだかっていた。
エレメンツの隊員たちも、突如として現れた存在に一斉に目を向けていた。
すると、彼の背中のジェットパックは一瞬で形が無くなり、また無数の光の粒となり周囲に漂った。
その動きは生き物のように滑らかで、まるで意思を持っているかの様である。
「お、お前は、まさか……」
隊員の一人が、驚きの表情で尋ねた。
「遅くなりました。あとは任せてください」
穏やかだがしっかりとした口調で彼は言った。
すると、怪物が凄まじい咆哮を上げた。
それから燃え盛る翼が大きく広がり、街の空気をさらに熱くする。
だが、彼は一歩も引かず、その赤く輝く目を真っ向から見据えていた。
そして怪物は、口から凄まじい火炎を吐き出した。
その瞬間、光の粒子たちは一瞬で集合し、彼の前にシールドを形成した。
シールドの周りに透明なバリアが大きく展開され、吐き続けられる怪物の火炎をすべて防いでいる。
その防御は完璧であった。
やがて怪物が火炎を吐き終える。
「今度はこっちの番だな」
彼がそう言うと、一瞬にしてシールドが形を変えていく。
そして今度は、大型の光学兵器を形成した。
形成された兵器は、微細な調整を行い、最適な角度と出力を瞬時に計算していた。
「これで終わりだ」
そして、兵器の銃口から眩い光が放たれた。
光の束は一直線に怪物の胸部へと飛び、瞬時にその硬い身体を貫通する。
その凄まじいエネルギーによる閃光が、一瞬街全体を照らした。
同時に衝撃波による爆風が辺りに広がる。
怪物の胴体には大きな穴が穿たれており、向こうの景色がのぞいていた。
やがてその巨体は崩れ落ち、地面に巨大な音を立てて倒れ込んだ。
彼はその光景を冷静に見つめていた。
すると光学兵器が再び分解され光の粒にもどると、静かに彼の手元へと戻っていく。
そして、再び手首につけた装備へと収まっていった。
「信じられん、本当にお前なのか?」
状況を見守っていた隊員が、歩み出て尋ねた。
圧倒的な力で怪物を葬り去った彼は、振り返ると答える。
「ええ、少しばかり進化して成長できたんです」
隊員が驚くのも無理は無かった。
最弱で有名だった彼が、類まれなる戦士へと変わっていたのだから。