努力の魔法使い お嬢様?のカラミラ 2
カラミラが参加した授業は基礎的な魔法を覚えるものだった。
カラミラから二つ隣の席に座り授業を受けることにした。
ありがたいことに僕もまずは基礎から覚えたいからちょうどいい。
定期的に初歩の魔法の授業も行われるから、あとから来た僕みたいなのでもしっかり考えて授業スケジュールを組めば、完全に置いていかれることはない。
でも、アクアの話を聞く限りカラミラはちゃんと入学して最初からいる生徒。
さすがに一年が入って半年ともなると、基礎的な魔法の授業を受ける生徒は少ない。
「あなた、さっきからなんですの? ちらちらとこっちを見て」
「あ、ごめん。しっかりと授業を受けてて真面目だなぁって」
「ふん、あたりまえでしょ」
というものの案外まんざらでもなさそうな態度。
意外とちょろい子か?
「この授業終わってからでもいいんだけどさ、ちょっと話できないかな?」
ぶっちゃけ自分がこんなこと言うなんて驚いている。
まるでナンパ野郎みたいだ。
町にいたころならこんなことはしなかった。完全に受けの姿勢だったからだ。
でも、ギルマとの戦いでまだ気持ち的に少なからず高揚感に似たものがあったから、今はアグレッシブに動けるような気がしてた。
「……いいわ。あなた、アクアと仲がいいんでしょ。ギルマを倒すときに手伝ってもらったって。その時の話を聞かせてくれるなら、一緒にお茶をしてあげるわ」
一瞬どうしようか迷った。
アクアは僕のためにいろいろ教えてくれたから、それを他人に言うなんてどうかと思ったけど、あのアクアのことだ。そこまで深く考えて手伝ってくれたわけじゃないだろう。
それに、特別なことは何もしてない。
ようやくスタートラインに立つだけの基礎的なことを叩き込んでもらっただけだし。
「いいよ。じゃあ、あとでね」
――
カラミラと外で一緒にお茶をしていると気づいたことがある。
カラミラが見ている生徒とまったく気にしない生徒の違いだ。
もちろんずっと誰かを見ているわけではない。
ふとした瞬間に誰かの行動を見ている。
その多くは上の学年の生徒。
「あなたはギルマに勝ったのでしょう。噂によれば最初は一発でやられたとか」
「恥ずかしいことにね。でも、なんとか勝てた。これで一勝一敗」
「どうして勝てたから教えてくれるかしら」
「その前に聞きたい。カラミラとギルマならどっちが勝つ?」
純粋な興味だ。
今僕がどのような立ち位置なのか知る一つの指標にもなる。
「そうね。おそらくだけども、ギルマと私は同じくらいだと思うわ。不本意だけどね」
「不本意?」
「ギルマは不屈の精神をもっているわ。体を壊そうが攻める姿勢を崩さない。それはきっと自己の強さをはっきりと証明するため。私は授業を体を壊して寝込むなんてしたくない。だから、追い込めたとしても最後の最後でふんばられたらこっちの魔力が底をつくかもしれない」
「ギルマは防御をしない攻めのやり方だった。カラミラはあれを対処できるってことでしょ」
「ええ、可能よ。そもそも私のやり方はギルマのような格闘術じゃない。魔法を使った魔法使いらしいやり方。アクアやギルマみたいなのがどちらかと言えば異質なのよ」
身体能力強化は基礎的な魔法の応用。
簡単に言えば守るバリアを肉体の防御に、攻撃の光弾の力を拳や蹴りや勢いへ利用する。
それらの初歩は決して難しい技術じゃないけど、そもそも魔法は遠距離の攻撃や相手の動きを拘束することができるのに、近づけさせてしまうこと自体が危険なことなのだ。
近距離になれば自身も魔法の被害を受け兼ねない。
その上、身体能力の強化をしなくても、トレーニングを積めば剣士やファイターのような身のこなしは可能になる。
異質というのは確かにその通りかもしれない。
「私は基礎的な魔法をいかに組み合わせて相手を止めるか。例えばこんな風にね」
魔法を使って落ち葉を浮かせると、それを紅茶を届けるメイドの周りにふわりふわりと移動させる。紅茶に葉が乗らないようにメイドは避けようとするけど、その行く手を阻むようにうまい具合に動かしてメイドを困らせた。
小さく笑うとカラミラは葉を落として僕のほうを見た。
「これがもし、ナイフだったら?」
想像するだけでも恐ろしい。
遠隔でコントロールされるナイフ。
遠目から見ているならこっちの動きは手に取るようにわかる。
さらに目的まで理解されているなら動きの先読みの難易度は下がる。
「そうか、単純なギルマの動きを把握することは難しくないけど、完全に止めたり制圧して負けを認めさせるにはそれなりにいろいろ面倒ってことか」
「そうよ。植物を使って足の自由を奪おうと、バリアを使ってタイミングをずらそうと、結局のところ立ち上がってこられたらまた対処しなきゃいけない。最後まで立っているってすごいことなのよ」
カラミラが付き合ってくれたのはギルマを倒したことが理由の一つか。
「気になったんだけど、なんで学園で強いとか弱いとか、わざわざ攻撃的な魔法を覚えるんだ?」
「……あなた知らないの?」
「えっ?」
「別にみんな攻撃とか防御だとか、戦いの魔法を覚えているわけではないわ」
「どういうことだ」
「魔法は戦いに使える。力は相手と自分の地位を明確にさせる方法でもあるけど、魔法はもっと有意義なもの。建物をより強固にしたり、素材をよりよくして例えばクッションの伸縮性を戻したり、自然物と絡めて光を発生させたり。様々なものに応用できるわけよ」
「でも、アクアとかギルマとか、それにフーカも強いし」
「あ~……」
カラミラは半ば憐れむような眼で見てきた。
「出会った相手が悪いわね。あなた、初日に誰にあった?」
「最初はノルワ先輩でそのあとにアクア。寮でギルマに襲われかけた。そこをフーカに救われて」
「で、次の日にギルマにやられたと」
「うん。いろいろあって魔力のコントロールがまともにできるようになったから、リベンジしたって感じ」
「あのね、生徒の中には戦いなんて一切しないのもいるのよ」
「えっ、マジ!?」
「マジよ。確かに王国軍に入ったり、家系の強さを示したり、何かと力を欲する生徒もいる。でも、全体から見れば少ないほうよ。私は魔法研究のために強さも考えているだけ」
結構衝撃の事実だ。
いや、確かに言われてみればそうだ。
隣国とすぐにでも戦争をするでもなければ、アクアやギルマみたいな戦いに強いタイプは多く必要ない。むしろ、国の発展に貢献できるのは強さではなく知識やそれを再現できる技術。
全員がアクアやギルマみたいだったら決闘が連日続くはずだ。
「私はね、生まれや血統や環境がすべてじゃないって証明したいの。だから、アクアに……」
何かをいいかけたところで話すをやめた。
「あなたは私にとって一つの理想的な姿でもある。情けない真似をしないでね」
そういうとカラミラは去っていった。