努力の魔法使い お嬢様?のカラミラ 1
「ライカおはよっ!」
朝一の授業を受けるために教室に向かっていると、アクアが後ろから元気よくやってきて肩を組んできた。
女性に対する免疫の低い僕は変に緊張してしまっている。
「あ、ああ。おはよう」
「すごいじゃんか。ギルマに勝つなんてね」
ギルマとの戦いが終わった後、アクアはすぐに次の授業に向かったからその日は会えなかった。こうやって誰かに祝福されると勝ったという実感がわいてくる。
「でも、ギルマの拳が」
「気にしないでいいよ。あれはギルマが選んだことだよ。勝てる方法ではなくライカの全力に自分の全力をぶつけたかった。気持ちはわかるもん」
「もし、アクアがギルマと同じ立場ならどうする?」
「勝つよ。正面突破でね」
すぐに返事をしたところを見ると、僕のあの防御スタイルでは防げない手段、もしくはあれでも防げない力を出せるんだろう。二つ名を持つ魔法使いにはまだ敵いそうにない。
「いまから実技授業受けるんでしょ。私もなんだ」
「反応速度を上げるって書いてたけど、具体的に何をするの?」
「魔法ってさ、その威力や影響範囲が強くなったり広がったりすると、それだけ発動する時間がかかるんだよ。それを少しでも短くして咄嗟に反応できるように先生が手伝ってくれるんだよ」
ギルマが風の鎧を発動する時、確かに少しだけ時間がかかった。
とはいえ、僕相手ではその隙をつけるわけがない。
距離もあったし……。
いや、違う。
「そうか、あの時ギルマが距離をとったのは警戒してたんだ」
「あ、今気づいたの?」
「アクアは最初から気づいてたわけ?」
「ギルマにそれを教えたのは私だからね」
「えっ!?」
「一度戦ったことあるんだよ。そん時に『本気を見せてやるッ!』なんて意気込んできた割には、隙だらけの強化魔法でしょ。あんなの目の前で発動されたすぐに反撃しちゃって。そん時はギルマの鼻を折っちゃったんだけどねっ」
笑顔で怖いことを言う。
気さくだからつい気を許してしまうけど、仮にアクアと戦ったなら今の僕じゃ勝てる気がしない。それをわかっているからかアクアもそんな話をするそぶりはない。
授業が始まり前半は教室で先生の話を聞いた。
内容はさっきアクアが教えてくれたことも含まれていた。
ただ、威力が強くなると時間がかかるとして、フーカのあの力はなんなんだと疑問にも思う。
油断していたとはいえギルマを簡単に吹き飛ばすほど。人一人の重さを片手で瞬時にだ。
それとも、あの程度なら二つ名の魔法使いだったら簡単にできるということなのか。
授業の後半となり外に出ると、反応速度がどれだけ必要かを実際に見せるために先生はアクアを指名した。
その時、後ろで何やらつぶやく声が聞こえた。
「どうしてアクアばっかり」
声のする方を軽く見てみると、そこには金髪の長い髪をくるくると巻いたTHEお嬢様と言った風貌の生徒が、明らかに不服な表情を浮かべアクアを見ていた。
「では、アクアさん。光弾を放つのでそれに対してどんな魔法でもいいので反応し対処してください」
光弾は基礎的な攻撃魔法の一つ。
魔力を攻撃の性質へ変化させ、光の玉を放ち対象にダメージを与える。
無属性魔法だ。
その威力は術者の練度や込められた魔力量に依存するけども、比較的たやすく習得できるうえ、しっかり練習すれば光線状にしたり弾を操作したり、爆速で飛ばしたり、鞭や刃を模倣することもでき、状況にあった用途で使える。
先生とアクアは十分な距離をとり、アクアが元気よく手を挙げていつでもいいと合図すると、先生は手のひらを向けて光弾を放った。
横から見ている分にはそこまで速いようには見えないけど、正面からはそうとも言えないはず。
拳程度の大きさの光弾がアクアの目の前に来ると、アクアは水の流れを宙に発生させ、そのまま空へと光弾を受け流した。
「先生! もっと速くてもいいよっ!」
「相変わらず素晴らしい動き。では、その言葉を信用して速くしましょう」
先生がさっきよりも速い光弾を放ちそれはアクアへと迫る。
その時、僕の斜め後ろにいたTHEお嬢様な生徒が手のひらをアクアへ向け、光弾を放った。その速さは先生が放ったものよりも速く、二つの光弾はほぼ同時にアクアへと接触しそうだ。
二つの光弾が近づいた時、アクアは右手でお嬢様が放った光弾を地面へと叩きつけ、先生の放った光弾を水の膜で包み宙に浮かせ維持して見せた。
「よいしょっ。こんなこともできるよっ」
水の膜に包み込んだ光弾を蹴り上げると、空で弾けて花火のような光を放つ。
すると見ていた生徒たちは拍手を送った。
僕も自然と拍手をしていた。
なんとなくだがこの時、二つ名のある生徒と、ギルマのような生徒、それ以下の生徒たちの力関係が少しわかった気がする。
果たして、あのお嬢様はどっちなのか。
表情を見てみるとやはりというべきか悔しそうにしている。
授業が終わって生徒たちがその場を離れていくと、アクアはさっきのお嬢様を見つけて気さくに声をかけた。
「いやぁ~さっきはありがとう。おかげで拍手もらえたよ」
そ~れはまずいんじゃないかと思っていると、案の定それはお嬢様の神経を逆なでしていた。
「絶対にあなたを越えて魅せるから! 覚悟しなさい!」
「いつでも待ってるよ」
まったく動じないアクアに対しお嬢様は腹を立てつつ去っていった。
「なぁ、アクア。あの子は知り合いなのか?」
「入ったころに授業とかで競ったことあるんだよ。でも、私が上だって証明したんだよね。私と張り合ってくれる楽しい子だよ」
「そ、そうなんだ……」
たぶん、あの子は悔しさからアクアを見返したい気持ちでいっぱいだとおもうんだけどなぁ。
「あの子気になる?」
「どうして?」
「私が見本を見せてる時気にしてたでしょ」
特別強い関心があるわけじゃなかったけど、今の話を聞くとちょっと気になり始めている自分がいた。
というかあんなことしながら周りのことを見ていたのか。
通りであの子の光弾をあっさり対処できるわけだ。
「カラミラって名前だよ。同じ一年だしギルマと同じくらい優秀だから話を聞いてみるといいよ」
そういうとアクアは次の授業へと向かった。
なんとなく気になり僕はカラミラと同じ授業を受けることにした。