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決闘! ライカ対ギルマ 2

 風の囲むフィールド、ギルマが使ったウィンドウォールは風を操る魔法を応用して発生させている。

 僕からすればどうやっているかもよくわからないこの魔法。

 しかし、これほどの範囲で触れれば体ごと持っていかれそうな力があるのに、二つ名を与えられないレベルなのだ。

 誰かの憧れになりたい。そんな夢を掲げてみたのの、僕の夢が遥か先にあるように感じてしまう。


 ギルマの動きはさっきよりも機敏になった。

 無駄な動きが少なくただでさえ速いパンチが目の前でさらに加速する。

 蹴りを食らえばウィンドウォールのぎりぎりのところまで飛ばされる。

 痛みはもう怖くない。 

 だけど、根本的な実力が違う。


 すでに、僕と比べればギルマやアクアは半年間ここで過ごしている。

 元々あった得意なことや自主的に練習したことだってあるだろう。

 その上、下に見られたら周りの目が一気に変わってしまうこの学園のことをよく知っていて、下に見られないように立ち回り、アクアは二つ名を与えられて、ギルマは推薦で入ってきたどんな力を持っているかわからない僕に喧嘩を売ってきた。

 アクアもギルマも、それにフーカも、僕なんかより上にいる存在なんだ。


 そもそも勝ち目があったのか?

 一週間程度で決闘をしようだなんて無謀だったんじゃないか?

 アクアも内心無理だと思っていたことだろう。 

 だけど、僕が強引に頼んだから仕方なく手伝ってくれた。

 アーキュさんが僕の魔力コアや魔力回路を正常に戻してくれて、爆発しないようにしてくれたから思いあがったのか。あれだけの痛みを耐えたらなんでもできると勘違いしたのか。


 僕には何が足りないんだ。


「これで終わりだぜ」


 拳が迫る。

 まるで時間がゆっくり流れているように感じる。

 なぜこんないじわるなことをするんだ。

 迫る拳をじっと見ていればいいのか?

 敗北する瞬間を忘れるなと?

 これをみて、一体何になるんだ


「――ッ!!」


 肌が泡立つような不思議な感覚が僕の全身に流れる。

 見ていたんだ。

 一切この場から動かずに相手を遠ざける方法。

 だらしなく下がっていた手をギルマのほうへと向けて魔法を放った。

 手のひらから放つのは風の魔法。


「これは兄貴の!?」


 初日の夜、フーカは片手から放った風で簡単にギルマを部屋へと吹き飛ばした。

 局所的な風は僕の部屋に一切の影響を出すことはなく、ギルマだけに風を浴びせた。

 今の僕にはそんな芸当はできないけど、散々風の魔法でボロボロにさせられたからか、目の前であの風を見ていたからか、流れる魔力の変化を少しだけ感じることができたんだ。

 

 一瞬の同様で動きに鈍りを見せてくれた。

 風を発生させながら両手をギルマの上半身へと近づける。

 笑ってしまうくらい簡単にギルマはのけ反り後ろへと転がっていった。


「また負けるのは悔しいから、最後まで足掻いてやる」


 立ち上がったギルマは砂埃を軽くはたき、首を鳴らすと再び戦う姿勢へと戻した。


「気づけば観客も増えてるぜ」


 周りを見渡すと確実に最初よりも人が増えているのがわかる。

 真剣にアクアが見てくれている。

 機転をきかせたからかフーカは少し笑っている。

 一年も二年も三年も、四年や五年もいる。

 席を埋め尽くすほどじゃないけど、ただの一年同士の決闘にしてはやけに人が多い。


「新聞部のやつらが情報を流しやがったんだろ。どうせどこかで写真を撮ってるに違いない」

「だったら負けられないね」

「ああ、そうさ。だからよ、ここからは俺に負けた情けない推薦野郎じゃなくて、俺の夢に立ちふさがる脅威として、本気で戦ってやる」


 ギルマはウィンドウォールを消すと、風を自身に周りに纏わせた。

 魔力量が多いのか風はまるで光って見える。

 風の鎧だ。


「まだ俺の時間は終わってねぇよッ!」


 ギルマは地面を蹴った。

 何をしてくるにしてもまず耐えなきゃいけない。

 腕をクロスさせ前腕部へ魔力を流し硬く強固にしたが、気づけば後ろにギルマの姿があった。

 見えなかったわけではない。反応が遅れた。

 予想外のスピードを想定できていなかった。


「おせぇよ」


 振り返ろうとした直後、無数の衝撃が背中を叩く。

 僕はその衝撃にあらがうことができず突き飛ばされ正面から地面を滑った。

 背中を何度も強打され正常な呼吸を取り戻すまでにほんの少し時間が必要だった。

 それはもう自然に任せるしかないと諦めていたが、それよりもなんであんな高速のパンチの連打が放てたのかが僕にとって疑問だった。


 さっきだって拳が加速した。

 そもそもパンチは強ければ強いほど、次の動きが遅れてしまう。

 片方はけん制で使われ、もう片方が強い威力のパンチを生み出す。

 体への負担を考えれば高速の連打なんてそうそうできるわけがない。


 立ち上がり体勢を整えようとしている間にも、ギルマは一気に接近して畳みかける。


 痛みの恐怖を乗り越え拳の軌道をみることができた。

 なんとも単純なことに笑いがこみ上げてきたが、なんともまあ合理的ともいえる。

 風の流れをレールように発生させ、そこに拳を乗せ一気に僕の体へとぶつかる。即座に風の流れを逆にして、その間にもう片方の拳がぶつかる。よく見れば風の鎧を纏い連打をしてくる時、ギルマの姿勢は自身の筋肉ではなく風によって抑えられていた。

 物質と物質がぶつかる時、当然反動が返ってくる。

 このスピードで連打をして反動を抑えるとなると、間接に多大な疲労とダメージがのしかかる。

 そこを風でカバーしてるんだ。

 

 わかったところで僕の体は再び突き飛ばされた。

 

「降参するか! また医務室に運ばれるか! ここで選べ!」


 いやらしい選択だ。

 お前の意思で負けを認めるか、実力差もわからず同じ過ちを繰り返すか、そんな負の二択を選べというんだろう。


 立ち上がろうとすると肩も腰も膝も痛い。

 まるでヨボヨボのじーさんになったみたいだよ。

 まったく、あの日姫様を救ったばかりに、こんな過酷なことをするはめになるなんて。


 ……でも、自分で選んだんだよな。

 ギルマとは絶対に戦わなきゃいけないわけじゃない。

 悔しいから自分で戦うことを選んだんだ。

 アーキュさんに魔力コアを正常にしてもらった時も、やめる選択があったのに自分で選んだんだ。

 アクアに手伝ってもらったのだって、自分だけでやることもできた。だけど自分で選んだんだ。


 なんだか、笑いがこみ上げてきた。


「なにがおかしい」

「僕はさ、両親から優しく育てられた。魔力の使い方がほんと異常なまでに下手だったから。だから自分で選ぶことをほとんどしなかったんだ」


 両親の優しさだとは理解してる。


「でも、なんでかな。あの日推薦してもらうきっかけを作ったのは自分なんだって」


 あの日から始まったんだ。


「僕は君に一撃で負けた時、とても悔しかった」


 手も足も出なかった。


「だけど、いま負けたらもっと悔しい」


 せっかくスタートラインに立ったのに。


「でもさ、だったらさ、勝った時はめちゃ嬉しいってことでしょ!」


 勝つためには、喜ぶためには、満足するには。


「僕は僕のやりたい選択を選ぶ! 僕の選択は、君に勝って笑うことだ!!」

「ぐうの音もでないほど叩き潰してやる!」

「君よりも一歩先へ!」


 一気に距離を詰められ再び拳の連打が襲う。

 しかし、ギルマはすぐに連打を止め拳を抑えた。


「な、なにしやがった!」

「簡単なこと。君が風を鎧にしたように、僕は僕の体を鎧にした。初歩の初歩と君の風の鎧から生み出した全力の防御スタイル。もう、君の攻撃は通らない」


 

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