決闘! ライカ対ギルマ 1
僕はギルマに挑戦状を叩きつけた。
決闘場で決着をつけようと。
無論、一年の戦いを見に来る人は多くない。
観客席にはどこからかこの決闘のことを知った生徒とアクアやフーカ。
そして、目の前にはギルマ。
「情けない推薦野郎にもう興味はねぇが、売られた喧嘩は買わずにいられないたちでな。それに、あの時の爆発の礼もしなきゃだしよ」
「もう爆発はしない。もうできない。魔法使いとして戦うから」
「どう変わったか見せてもらおうか!」
ギルマは一気に走ってきた。
あの時と同じ。
優れた身体能力。
だけど、あの時よりわかる。
加速は風の魔法のサポートを受けることで、常人離れしたスピードを出しているんだ。
ギルマの拳が目の前に来た瞬間、魔力の流れを調整し手のひらを突き出す。
半透明の光の壁を展開しギルマの拳を防いだ。
「防御壁か。基礎的な魔法はできるみたいだな」
「やれることはやってきたよ。どこまで通じるかはここから試す!」
バリアに魔力を流し自ら破壊。
微弱な衝撃は一瞬だけギルマに隙を作った。
魔法の練習を手伝ってくれたアクアが少しだけギルマ対策として格闘術を教えてくれた。あくまで初歩の初歩。特別身体トレーニングを積んでいない僕にとって、どれもこれも難しいものばかり。
だけど、その初歩の初歩を寝るまも惜しんで、悔しさをエネルギーにしてずっと繰り返してきた。
すでに体にはしみついている。
「初歩の初歩、僕が生まれて最初に殴る君へ、悔しさを乗せて放つパンチだ!!!」
魔法は身体能力を向上させることにも使える。
これもまた初歩の魔法だ。
古い時代よりも現代は魔法による戦いは高速化し、その術者の身が危険にさらされることもある。魔法使いとして戦いを目指すなら、まず身体能力を向上させる魔法を覚えるのが一般的。
これは実技的な練習を行わずそれぞれに口頭で伝えられる。
なぜなら魔力の基礎的なコントロールができるなら、殴られてもそこをピンポイントで魔力を利用し、魔法を使う要領で耐えることは難しいことじゃない。
バリアを張れるなら身体的耐久性に、攻撃をする魔法を放てるなら、それを身体能力の向上として応用できる。
いわゆる無属性魔法。これは、まだスタートラインから一歩を踏み出した程度。
だけど、以前のギルマとの戦いでは僕の力は一切明らかになっていない。
これこそがアドバンテージ。僕がギルマに勝つためには、勝利した余裕をもっている内にギルマの油断を誘うこと。
この一撃、当たるかどうかでこの戦いの勝敗が見えるかもしれない。
「ちっ、距離を詰めすぎたか!」
この言葉からわかる。
ギルマは再び一撃で終わらせようとしていた。
こっちからの攻撃を想定してなかった。
それに僕の実力をかなり下にみていた。
ならば、これは通る。通らなきゃおかしい。
力いっぱい、全力で、必死に、拳を伸ばした。
「見えてんだよッ!!!」
直後、僕の腹部に衝撃が走る。
息が詰まる。
呼吸が乱れる。
ギルマの左拳が腹部にめり込んでいた。
足りなかったんだ。
油断だけでは経験を超えることができない。
油断で勝てるのはそれなりに実力が拮抗している時だ。
見誤った。完全に見誤った。
「顎が落ちたな。もう一回気絶させてやるぜ!!!」
僕の体はギルマのほうへと傾く。
腹部の痛みに耐えきれず、痛みを逃がすようにしてくの字に曲がろうとしている。
だけど、アーキュさんがやった痛みと比べれば!
「この程度!!」
「なにっ!?」
僕は、自然とくの字に曲がろうとする体に逆らわず、むしろ体を前へと倒した。
正確には頭、額をアッパーするギルマの拳に近づける。
「頭と手ならどっちが強いか!」
痛みは怖い。
逃げたい。
感じたくない。
でも、一度痛みを味わなったなら、それは経験となり、想定できる。
人間にとってもっと怖いのは、未知なる恐怖。
もう、この痛みじゃ僕の体は臆さない。
鈍い音が聞こえる。
頭蓋骨から内部を通って、内側から耳に届く。
でも、初めての体験かと思えばそうじゃない。
姫様を助けた時、僕はわけもわからず魔力を混ぜて魔法っぽいものを再現した。
その結果は爆発なのだけど、爆発は対象だけじゃなく爆発に近い者もその被害を受ける。姫様を襲うモンスターに無我夢中でとびかかり爆発を発生させると、僕は爆風でふっとび木に額をぶつけた。
痛かった。本当に痛かった。
でも、きっと、ギルマの拳をほど痛くはない。
僕の額から血がこぼれる。
「お前……身体強化で防いだのか」
その血は僕のものじゃない。
ギルマの拳から漏れたものだ。
「あの時、僕が一撃で気絶した時、今思えば魔力の流れを感じていた。君はあの時全力だったんだ。推薦で途中から入ってきた僕に対し警戒心があったから。でも、未知なる脅威が大したことないとわかったから油断した。僕がほしかったのはこの油断だよ。格闘術に優れているなら、拳こそが最大の武器。そこを潰せば力は落ちる」
図星なのだろう。
最初の威圧的な表情はなくまっすぐと僕のほうを見ていた。
しかし、直後に鼻で笑った。
「あくまで、拳一つが使いづらくなっただけなのに、あーだこーだとダラダラ語ってくれるなよ。魔法使いってのは魔法を使うんだ。ここからは俺の時間だぜ」
突如として風が吹き荒れる。
広い決闘場の中央を囲むように風の壁が発生し、触れれば渦に巻き込まれかねないほど風力が強い。
「世にも珍しい風のフィールド。ウィンドウォールに触れれば逃げられない」
「内側で戦えばいいだけだよ」
「ちょいと防御してちょいと攻撃して調子に乗るな! 言っただろ、ここからは俺の時間だってなッ!」