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サンリバーズ、また来る日まで 

 過酷な戦いは長く感じるものだ。

 夕日が町を彩り悲劇が起きてから、戦闘が始まり、アクアが人質にとられ、ムルルから忠告を受け、ペインに逃げられ、レアさんが負傷し、治癒魔法で止血して、ペインと再戦し、勝利。

 ここまでの間にニ十分も経っていない。

 勝利の拳をあげた僕らを夕日が照らしてくれた。


 近くの船に乗せられていた太いロープでペインを拘束し、ロープに炎を耐性を付与させた。とはいえペインが本気を出せば簡単に燃やせるだろう。僕らはすぐに体を動かせず二人その場に座り込んだ。

 すると、拍手の音が聞こえた。


「――私の力はほとんどいらなかったみたいだね」


 そこにいたのは学園であった魔道師。建物から逃げていく時のを見た魔道師だ。

 黒いマント、妖艶さを感じさせる茶色のウェーブかかった髪。それに2メートル近くある身長。見た目だけでも迫力がすごい。


「ずっと見てたんですか?」

「ああ、そうだよ。君がへたくそな治癒魔法をするところからだけどね」

「……」

「どうして助けてくれなかった。そんな顔をしているね」

「あなたならペインを簡単に倒せたでしょう」

「ああ、これくらいの下級魔道者造作もない」

「だったらなんで!」


 魔道師は僕の前で姿勢を下げ一指し指を僕の唇に当てた。


「アクアが寝ているよ」


 隣を見るとアクアは緊張から解放されたからか気絶するように僕の体に寄りかかって寝ていた。その姿をみて魔道師は小さく笑った。


「ここに来る時と同じだ」

 

 その言葉聞いて僕はハッとした。


「ちょっとまってください。なんで来る時もアクアがこうやって寝てたのを知ってるんですか」

「君は賢いのか馬鹿なのかわからないね」


 魔道師は黒いマントで自身の姿を覆うと、黒いマントは白衣へ、身長も縮み、服も僕らが見慣れた制服へと変化した。


「えっ、アーキュさん!?」

「ふふふっ、君は本当に面白い。あの時、力を貸してあげただろう。あんなへたくそな治癒魔法は久しぶりに見た。後ろで笑いをこらえるのに必死だったよ」

「……もしかしてすぐいなくなったのって」

「私にも笑っていい場所の区別くらいついてるさ」


 レアさんに治癒魔法をかけようとした時、僕は想像していたよりもうまくできなくて焦っていた。でも、急に性質がわかりイメージも浮かび治癒が成功したのだ。確かに誰かが後ろにいる気がしたけど、振り返った時にはいなかった。隠れたメッセージ的なものだと勝手に解釈していたけど。


「要は笑うためにすぐにいなくなっただけってことですか」

「あの焦った表情……だめだ。思い出すだけで笑えてしまう」


 こうしてペインとの戦いは終わった。

 正直ペインとの戦いよりもアーキュさんが魔道師だったことのほうが驚いた。

 ペインの被害はすぐに元通りとはいかないけど、町の人たちが協力してがんばっている。


 ちなみにレアさんは命に別状はなく、そもそも近くにアーキュさんがいたので僕が失敗してもどうとでもなったという、僕の頑張り損だ。

 

 ムルルはそのあと姿を見かけることはなかった。

 でも、たぶんまた僕の前に現れるだろう。

 そんな気がする。


 ペインはあのあとに王国警察がやってきて連れて行った。

 フーカも一度やられた魔力を封じる手錠をかけられているため、手錠のやばさはよく知っている。あれならペインも逃げられないだろう。


――

 アクアの家で最後の食事を食べ、僕らは馬車を待機させている場所に向かった。

 すでにアーキュさんが乗り込んでいてあとは僕らが乗るだけ。

 エギルさんとアシュさん、それにあの時戦いを見ていた町の人たちが集まり、なにやらお祭り騒ぎのような見送りになっている。


「アクア、お前ならもっと成長できる! がんばれよ!」

「戻ってきた時にはまたあなたの好物を作ってあげるわ」

「お父さんお母さん。ありがとう。また頑張ってくるね」


 アクアは力強くアシュさんとエギルさんにハグをされ、少し声が潤んでいた。

 あんな戦いをしたけど僕らはまだ子どもだ。

 これが普通なんだ。


「ライカ、うちのアクアを頼むぞ!」

「また来てね。その時は嬉しい報告を聞けるといいのだけど」

「はは……。期待に沿えるかはわかりませんが、また絶対に来ますよ」


 名残惜しさあるが僕らは馬車に乗り込んだ。


「もういいのかい?」


 アーキュさんは僕らを見ながら言った。

 僕らは元気よく返事をした。


「学園でやることがいっぱいあるからね!」

「まだまだ僕の生活は始まったばかりですから」

「そうかい。では、戻るとしよう。魔法学園エルラードへ」


 馬車は進み始めた。

 見えなくなるまで町の人たちは手を振ってくれる。

 きっとペインを倒したことに感謝をしてくれているのだろう。

 でも、感謝するのは僕の方だ。

 町の人たちの支えあう姿もまた、ペインを倒す方法を思いついた一つのきっかけだ。


「あ、そういえばこの辺だったかな」


 アーキュさんは突如窓を開けた。

 すると、いきなり外から矢が飛んできたのだ。


「びびったぁ! 敵ですか!?」

「いや、違うよ」


 それは矢文だった。

 アーキュさんは紙を取りそれをアクアへ渡した。


「君のお姉さんからだ」


 アクアはレアさんか送られた手紙を見て噴き出して笑った。


「あはは!」

「どうした?」

「だって、これ見てよ」


 最初の方はアクアを応援しているというレアさんの思いが伝わるメッセージ、そして最後の方には。


「ライカへ、アクアを泣かせたら殺す……」

「それは傑作だな」

「お姉ちゃんきっとがれき抜かれた時の痛みを根に持ってるんじゃないかな」

「レアさんに狙われたら命がいくつあっても足りないな……」


 そうして僕らは学園へと戻った。

 

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