戦闘狂いの魔道者ペイン 2
戦うなら戦う覚悟を。
傷つきボロボロになって、痣を作って血を流して。
最後最後に立っている存在になる。
戦うとはそういうことだ。
覚悟を決めろ。ライカ!
「ペイン!! 僕は君を止める!!」
「実力の差を見たのに挑むってのはなぁ。勇気じゃないんだよ。無謀で愚かな行為。世界はそんなに甘くねぇぞ」
「たった一人でなんでもできるほど、世界は甘くない!」
ペインの後ろに一本矢が迫る。
「いつのまに!?」
「ほんの少しだけ時間を稼いだ。さっきレアさんが飛ばした矢は魔法で強度を高くし軌道を変化しただけ。矢は誰にでも操れるものだ。風で君の背後へと続く道を作りだした!」
もし矢を消すために位置を見たならば、その瞬間レアさんが撃つ。
そのまま何もしなければ矢が貫く。
「さぁ、どうする!」
「ならこうすればいい!!」
ペインはアクアを捕まえたまま跳躍。
矢を回避し僕のいる場所へと手を向ける。
「消し炭にしてやるぜ!」
「そうくると思った! すでに上空には君を地上に落とす風が狙ってるぞ!」
直上に対してだけしか対策してなかったがそれでもかまわない。もちろん完全に運に賭けたわけじゃない。
僕の対策が外れてしまうような、別の方向への跳躍ならレアさんが狙うことができる。レアさんはすぐにアクアに当たらないよう位置を探すはずだ。真後ろに飛ぶには矢がどこから来るかを確認しなければいけない。これはレアさんに隙を見せることになる。つまり、レアさんと自身の間に人質であるアクアを挟むならば真上がもっとも安全。
だからこそ真上に対する対策。というか僕があの一瞬でできることはそれしかなかった。最悪のパターンは奴が僕の風よりも強く浮上する力を持っていること。だけど、炎を噴射しながら飛ぶでもしない限り。風の壁は突破できない。
まだ油断があるからこそこれは成立する。確実性が高くわずかなところだけを運に賭ける。これがいまできる精一杯だ。
僕がペインの真上に作り出した風の影響で、アクアを掴む力が一瞬緩まりアクアは体をねじりつつ体の周りに水の流れを生み出し自分を渦巻の中心とし、大きくなる渦巻の中へとペインを巻き込んだ。
「この程度! 俺の炎で一瞬で蒸発させてやる!」
ペインは渦巻の中で炎を発生させようとしたが、渦巻は弾けるようにして消滅した。アクアが自ら消滅させたのだ。予想に反したことが起きてペインは一瞬の隙を見せた。その隙をじっと待っていたレアさんは躊躇なく引き金を引く、
一度は避けられた閃光の弾丸。次は確実にペインを狙う。
「避けたということはお前にとってこれは当たりたくないということ。当たった時の表情を見せてもらおうか」
事前に撃つことがわかるなら弾丸を避ける難易度は下がる。とはいえタイミングを見切るのは素人では難しい。だが、ペインはさっきやってのけた。だが、それはあくまで撃つだろうというタイミングに合わせてすでに回避行動をとっていたということ。正確には弾丸そのものを避けるのではなく、避ける前の地点に弾丸が向かっただけ。もしもレアさんが弾丸の動きさえもコントロールできるならペインに当てることも可能だったはずだ。
それを応用させてもらったのがさっきの僕の対策。
あれでわかったのは、回避直後に対してペインは無防備な可能性があるということだ。この弾丸、当たれば戦況が変わる。
弾丸がペインに当たる直前、ペインの手は力強く握られていた。
そして、手が開かれる。その直後に強烈な爆発が発生しペインの体は後方、港方面へと吹き飛ぶ。
「あれで建物を破壊したのか!」
僕が驚いている間にアクアが叫んだ。
「お姉ちゃん!!」
その声色に強い危機感を覚えた。
何が起きたのか。あいつは何をしたのか。
レアさんのほうを見てみると、腹部から血をたらし苦痛の表情を浮かべながら膝をついている姿があった。アクアが先に駆け付け僕もすぐにレアさんの下にむかった。
「何があったんですか!?」
「あいつ、壊した建物の破片をあの爆風で飛ばしてきた。あんな芸当ができるなんてね」
傷が深い。尖っているがれきがレアさんの腹部に刺さり、抑えている手には血が溢れ止まらない。
「ど、どうしよう……。お姉ちゃんが……」
動揺しアクアは僕を見つめてきた。
僕にいったい何ができるのか。
僕は人の真似しかできない。
風を起こすのはフーカから、格闘術はギルマやアクアから。
治癒魔法なんて受けたことも見たことも……。
「奴が油断したタイミング、こちらもまたわずかな隙を見せてしまった。来ると予測していたなら対策はとれたのに。不甲斐ない」
「ねぇ、ライカ! どうにかできないの! お姉ちゃんを助けてよ!」
すがりつかれ悲しい目で見つめられても僕には何もできない。
治癒なんて見たこともされてことも……。
「……いや、できるのか。俺に」
「ライカ?」
「アクアはすぐに馬車を近くに呼んできて」
「何をするの?」
「たぶん応急処置だけならできるかもしれない。そのあとは本職にまかせる。だから早く!」
「わ、わかった!」
きっとできるはずだ。
僕は一度は治癒を受け、二度目は見ている。
できるはずだ。
僕は膝をついて痛みに耐えるレアさんの目を見ながらいった。
レアさんにはもう少し耐えてもらわなければいけない。
「レアさん、がれきを抜いた後に治癒を開始します。がれきを抜く際にかなり痛みが生じるので、僕の肩に腕を回してください。」
「止血をするんだろう。抜かなきゃ始まらないか」
「左手で抜いて右手で治癒魔法をかけます。なので、抜いた直後、僕の体を掴んだり引っ張ったりした時、右手の邪魔にならないようにお願いします」
「怪我人に注文が多い医者だな」
「医者ならどれだけ楽なことか。……では、やりますよ」
一つだけ別の案があった。
むしろこっちのほうが確実性は高いかもしれない。
それは、ペインの炎を真似して灼熱止血をするという方法。
止血という点だけならこっちのほうが確実だけど、止血した後のやけどの具合によっては最悪のケースも考えられる。
その上、肌に消えない傷を作ることになってしまう。
それらを考えた時に僕にはやれる覚悟がなかった。
レアさんは僕の両肩に腕を回した。息が僕の肌に触れるほど近かづき、レアさんはいつでもいいと目で合図を送ってきた。
がれきを抜く寸前、僕が想像していたのはアーキュさんの姿だった。
本当はあの人は治癒魔法を学び、諦め、再び学んだ。その間に何があったのかは知らないけど、いまもっとも参考にできるのはアーキュさんだけ。
専門だろうが専門じゃなかろうが、気絶した僕やボロボロになったギルマを素早く楽にさせる力がある。そして、それを僕自身が受けてそばで見た。
今までだって真似してきたんだ。この学びを活かす瞬間。
がれきを掴んだ瞬間、レアさんは覚悟を決めるため腕に力が入る。
レアさんのほうに引っ張られる力をなんとか耐え、がれきを抜いた。
悲痛な叫びがこだまする。
瞳いっぱいに涙をためているがこぼさず呼吸に意識を向けている。
とても強い人。
この人を死なせるわけにはいかない。
僕はすぐに右手に魔力を溜めてレアさんの腹部を抑えた。
刺さっている状態でも出血は多かったのだから、抜けばさらに出血は増える。
時間との勝負。絶対に救って見せる。
救いたい。絶対に救って見せると心の中で豪語したのに、レアさんは僕を信じてくれたのに……血が止まらない。僕の心は激しく動揺し始めた。レアさんの表情がうつろになっていくのがわかる。
「ど、どうすれば」
その時、誰かの手が僕の肩に触れた気がした。
それと同時に、僕は治癒魔法を完成させた。
わずか数秒の出来事。
血は止めることに成功したのだ。
「――やればできるじゃないか」
そう聞こえた気がした。
だけど、振り向いても誰もいない。
ただ、夕日が輝いているだけだった。




