戦闘狂いの魔道者ペイン 1
この爆発を起こせるほどの実力があるなら僕が対抗するにはあまりにも力不足。でも、僕がこいつの足止めをしているおかげで町の人たちは少しずつではあるけど怪我人の救助が進んでいる。時期に消火活動も行われる。
十分。いや、五分でもいい。時間を稼ぐんだ。
「なぁ? 俺のことを足止めできるとか思ってないよなぁ。俺が戦うってことは、被害は増えるんだぜ!!」
向けられた手から放たれる凄まじい勢いの炎。咄嗟にバリアを展開しなんとか防御するがあまりの勢いに体は押されていく。想像していたよりも実力差がある。
熱風が周囲へと広がっていくのを防ぎたいが今は自分を守るので精一杯。ちょっとでも気を抜けば体ごともっていかれそうだ。
「おいおいおいおい。まじかよ、この程度でキツイのか? まだ俺はウォーミングアップしてるだけなんだぜ」
聞きたくなかった。
これでウォーミングアップなんで嘘だろ。
本気を出したらここらいったい焼け野原にできるとでもいうのか
「――炎なら水で消せるってことだよね!」
横から竜の形をした水がペインに襲い掛かる。
「ライカ、大丈夫?」
「なんとか。でも今のは?」
「日頃練習してる魔法だよ。先輩が魔法で火の鳥を作ったのを参考にしてあみだした」
「アクアがいてよかった。水ならあいつにとって弱点なはず」
「……そうでもないみたいだよ」
水の竜に襲われ多少はダメージを負ったかに思えたが、ペインは首を鳴らしなんともないような表情でそこに立っていた。
「蒸発させりゃ問題ねぇ。お前の水魔法じゃ俺には敵わねぇよ」
「こりゃあやばいかも。でも」
「逃げたら町が危ない」
「やるしかないか」
アクアを危険に巻き込んでしまったのは失敗だ。
でも、僕の軽率な判断をカバーしてくれている。
せめて、お互いに大きな怪我をせず乗り切れれば御の字。
ペインは僕らに向かって再び炎を放った。光線状の炎はすべてを焼き尽くすほどの勢いで迫ってくる。
「ライカ、耐えて。私がやる!」
「気をつけろよ」
「二つ名は伊達じゃないってことを見せてあげるよ」
一度防御したおかげでバリアの強度をどれだけ上げればいいかはわかっている。
相手が僕らのことを弱いと油断している間にアクアの強烈な一撃をお見舞いできれば勝機はある。
放たれた炎を僕が防御し、アクアは跳躍し上からペインへを狙う。
手のひらには螺旋状に渦を巻く水魔法。
「水は岩さえも砕く! これをその身で受けられるかな!」
これだけの魔法を扱えるなら基礎的な身体強化はしているだろう。
だとしてもあれをくらえば平然とはしてられないはず。
期待感を胸に僕は炎に耐え続けた。
しかし、水魔法が当たる寸前。ペインは僕への攻撃をやめて両手で水魔法に炎を放射した。一瞬こそ抵抗できたがすぐに蒸発させられ炎は軌道を変えて着地しようとするアクアへと向かう。
「アクアっ!!」
もうすぐで着地というところ、一番油断し一番無防備なタイミング。その上ペインはギリギリまで魔法を引き付け反撃をした。もう自分には攻撃がこないだろうと判断してしまうその時を待っていたんだ。
こいつは手慣れている。命を削る戦いでの経験値は僕らより上だ。
「――アクア! 手を伸ばして!」
アクアの目の前の光る何かが通る。アクアはそれをつかみ取り引っ張られ建物の上まで移動した。光が放たれた方向を見るとそこには弓を構えたレアさんの姿があった。
「まーた新しいのが来たか。森の狩人かぁ?」
「妹に手を出した報い。受けてもらう」
涼しい表情をしているがその瞳には抑えられない怒りが溢れていた。
「弓でこの俺を倒すことはできんぜ」
「誰が弓を使うと?」
「じゃあ、何を使うんだ」
「これよ」
取り出したのはこの前もっていたものとよく酷似した長い銃。しかし、片手で持ちペインへ銃口を向けると一切の躊躇なく引き金を引いた。銃声が響き渡り弾丸は高速でペインを狙う。
弾丸はペインの腹部へと直撃した。
「私の狙いは正確。次は頭を狙う。威嚇はしない。お前を殺す」
怒りを超えた殺意。
妹に怪我をさせようとしたことに対してあのクールなレアさんは容赦などみじんもするつもりはない。
銃の弾丸をくらえばひとたまりもないはずだったが、ペインは抑えた腹部から弾丸を握り見せびらかした。
「いってぇな。でも、これでも俺は殺せねぇ。せめて魔法で貫通力を上げてきな」
「そう、ならそうさせてもらう」
そういうとレアさんはもう一度引き金を引いた。先ほどよりも速さも威力ました閃光にすらみえる弾丸。しかし、ペインは次弾が来ると想定しすでに跳躍し建物の上へと跳躍していた。
だが、すでにレアさんはペインに銃口を向けており、アクアの時と同じように着地で狙い撃つ準備ができている。
「おっと、撃たないほうがいいぜ。大事大事な――」
瞬きをした直後、別の場所にいたアクアがペインの前に現れる。
「妹が死んじゃうぜ」
「えっ、なんで私……」
アクアはペインに腕を後ろに回され頭に手のひらを向けられた。
いつでも殺せる。僕やレアさんは動くことができなかった。
おそらくあの瞬間移動はムルルによる仕業。
自分以外もどこかへ飛ばせるんだ。
姿は見えない。ということはこの戦闘の中には入らずどこかでサポートするということなのか。見えない相手を警戒しながらペインからアクアを救わなきゃいけない。
「――そのままこっちを見ないで聞いて」
僕の後ろにはちょうど路地がある。暗い路地だ。最初の攻撃で押されたため思っていたよりも後ろに下がっていた。そして、その路地から僕の背中へナイフの先端を当てムルルが声をかけてきた。
「アクアをあそこに飛ばしたのは君の仕業だろ」
「うん。だって、あの子とライカが仲いいから意地悪したくて」
「それでアクアが死んだら君はすっきりするのか?」
「大人しくしてたらペインだって殺すつもりはない。ライカが止めようとするから」
「なら、こんな悲惨な現場をただ見過ごして高みの見物でもしてればいいのか?」
「私たちはまだ子どもだよ。なんでそこまでするの。そんな必要ないでしょ。その結果があれだよ。ライカは弱いんだから。私の言うことを聞いてよ」
僕やアクアがわざわざペインを相手にする必要はない。
それはそうだ。僕らはただの学園の生徒で何か強い責任や義務を課せられているわけじゃない。だけど、僕は納得がいかない。ただ見ているだけで自分が助かって、その結果助けられる命が消えてしまった時、僕は深い後悔に襲われるだろう。
あの時、姫様を助けてなかったら。ミラを見捨てていたら。僕はいまこうやって堂々と立っていられない。
「僕は賢い人じゃない。だから、前へ進む。その先にどんな道があるかなんてどうでもいい。何もせず失敗を待つだけなら、必死に動いて失敗するほうがまだマシだ。諦めもつく」
「だったらライカを刺す。そしてもうこんな危ないことをしなくていいようにしてあげる。私がずっと守ってあげるから。私だけを見て」
支配欲なのか?
まだ子どもなのにムルルからは強い執着が感じられる。
たぶん、この状態ならムルルは僕を刺すことなんて容易なんだろう。
こんな危険な状態なのに僕は、まだ前へ進もうとしている。
「ごめん。僕はいくよ」
一歩前へと踏み出す。
ムルルは何もしなかった。
「……私もそんな風に強くなりたい」