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フーカの憂鬱 7

 奥へ進むとフーカの言っていた通りトンネルが掘られていた。

 まだ開通してないためこの奥は行き止まり。

 

「あえて奥で待つ意味か……」

「行こうよ。狭い範囲ならぼくの力を回避できない。向こうにどんな策があろうと一網打尽にできる」


 フーカは急いでいる。

 ここまで来たんだから進むに決まっているけど、今まで以上に警戒をするべきだ。

 

「ほら、はやく」

「フーカ、相手は大人だ。僕らの経験では想像できないことをしてくるかもしれない。ここからはもっと慎重に」

「すぐそこなんだよ! もし、もしぼくらの到着が遅くなって取り返しのつかないことになったらどうするの!」


 それはそうなんだ。

 十中八九この奥に賊がいる。

 だけど、ミラがいるかどうかまではわからない。

 というかそもそも賊も中にいるかすら確定情報じゃない。

 

「ごめん。ここまで来てるのに立ち止まるなんておかしい。すぐに助けに行こう」

「うんっ。ライカくんにはケガさせないから安心して」


 僕が少しでも躊躇してしまうのはミラとの関係が浅いこともあったかもしれない。

 もし、自分にとって大事な人、助けたいと思う人がこの奥にいるなら、それが低い確率でも危なくてもいくはず。

 考えすぎてもいま確定した情報は出せない。

 なら、進みながら考える。

 これもまた大事なことかもしれない。


 トンネルはまだ荒く削られているだけであまり手を付けていないように見える。

 どうやって作られるかなんてのはわからないけど、手作業でやっているのか?

 少し進んだだけで奥は何も見えない。

 フーカは指を鳴らし魔力を発生させ、光の球体を作り出し辺りを照らした。

 その直後のことだ。照らされた奥から二人の男が一気に走ってきた。


「ライカくん下がって!」


 僕に指示を出すこの一瞬がまずかった。

 男のうちの一人は何かをこっちになげつけ、もう一人はナイフをもって迫ってくる。目の前の相手に対しフーカは強烈な風を浴びせようしたが、フーカの足元から一気に上昇し、左腕に何かがはまった。

 輪っかを二つに分けたような金属が何かに反応しフーカの腕へと吸い寄せられたように見えた。

 

「魔法が……出ない」


 目の前の男はすでにナイフを振り下ろしている。

 僕はすかさずフーカのマントを掴み後ろへ引っ張った。

 ぎりぎりだけどなんとか間に合ってフーカを傷つけずにすんだが、相手に止まる気配はない。

 なぜかわからないけどフーカは魔法を使えない。

 だったらやることは一つ。


「僕がやるしかない!」

「一年坊主か。勇敢なのはいいけど一人でやれんのか?」

「こっちは二人だぜ」


 こいつらかなりやり慣れている。

 普通は相手が子どもだと分かれば油断するもの。

 強くても所詮は子どもって思ってしまうものだ。

 おそらくフーカを狙ったのは偶然じゃない。強いほうから処理をしたんだ。

 フーカが魔法を使うのを見られていたのか。


 ナイフを持つ男は右へ左へとゆらゆらとナイフを揺らす。

 タイミングがわかりづらい。

 もう一人の男は距離を詰めてきたけど踏み込んでようやくパンチが当たるかどうかの距離。ここからの動き、僕が相手の視点ならどうするか……。


 息を殺しすべての音、動き、空気の流れまでも敏感に感じ始める。

 似ている。ギルマと決闘場で戦った時のあの感覚ととても似ている。

 いや、それ以上に五感が研ぎ澄まされ、まるで一瞬前の自分とは別物みたいに、体が軽やかになっている。


 前の男がナイフを振り、その動きに合わせてもう一人が仕掛けてくる。

 ナイフを処理してももう一人にやられ、もう一人を優先するとナイフにやられる。

 処理と回避を同時しなきゃいけない。

 

『誰も真似できないことをしても有益にはならないよ。真似て学んで再現して、実はみんなやればできることなんだって教えることは、一人にしかできないすごい魔法よりもよっぽど優秀さ。君にはその力が優れている』

『真似て学んで再現して、それを誰かに教えることができるなら、誰もが君に対して憧れと尊敬を持つことだろう』

『君は魔道師を目指しなさい』

 

 アーキュさんの言葉が僕の体を動かした。

 目の前の男の手首を手刀で叩き怯ませ、もう一人の男に対し風の流れを作り出し強烈な拳を叩き込む。


「す、すごい……。アクアのようないなし方にギルマの風魔法。ライカくん、君はいま何をしたの」


 自分でもわからない。

 ただ一つだけわかるのは、アクアとギルマの真似をしただけ。

 真似を再現し実践しただけ。

 戦える。

 こいつら相手に僕の真似が通用する。


 地面に落ちたナイフを拾おうとしたところ、風の流れを作って拳をのせ強烈なアッパーにする。僕の身体能力だけじゃ男一人を怯ませるほど強いアッパーは打てない。だけど、ギルマのように風に乗れば、防御の構えを取っていない相手には十分な一撃になりえる!


「脇ががら空きだ!」


 すでに体勢を立て直したもう一人が僕にタックルを仕掛けてきた。

 倒れれば体重で一気に劣勢へと追い込まれる。

 どうすればいい。倒れないように持ちこたえるには誰を真似をすればいい。


 その時、思い出したのはカラミラと共にアクアの好物を奪おうとした時のことだ。

 椅子の足を一本折っても残った足で器用にバランスをとるアクアの姿。

 アクアならどうする。アクアが押し負けないようにするならどう構える?

 

 ……いや、アクアなら完全に押し負けないって選択を取らないかもしれない。

 むしろ相手の攻撃を利用する。

 少し姿勢を下げて、片方の足を後ろへ、相手の頭部が来る位置に空間を空けて。


「しめつける!!!」


 体同士がぶつかる鈍い音。

 僕は勢いを完全には殺さず、体の前方から後方へと通り抜ける勢いに三歩だけ身を任せ、最後は踏ん張る。


「こ、このやろう……! 離しやがれ!」


 脇をがっちりしめて男の頭を抑える。

 この状態でさらに姿勢を下げようとすれば、おのずと相手は倒れないようにバランスをとるために意識が受けに回る。しめたまま一気に腕を上げれば、男の首はがっちりと絞められ呼吸はまともにできない。


「このまま後ろにぶっ飛べ!」


 風の流れを発生させ体を後ろへと倒す。僕の背中が地面につき、男の体がまだ上にある間に手のひらから風を発生させ、トンネルの壁へと男を叩きつけた。


「はぁ……はぁ……。おっし! いっちょあがり!」

「ラ、ライカくんすごすぎるよ。もしかして格闘術得意だったりして」

「いいや、まともにやったのはギルマとが初めて。僕自身驚いてる」


 興奮は冷めないけどそれよりもライカの腕輪を外さないといけない。

 ナイフの先端を腕輪の接地面になんとか挟み強引に外した。


「これ、罪人なんかに使われる魔力の放出を止める拘束具だよ」

「片手にはめただけで魔力が使えなくなるのか」

「本来は二つ。こっちは魔力を止めて、もう一つは生成を止める。この拘束具を二つともつけられたら、魔道師でもただの人になるんだよ」

「どこで手に入れたか気になるけど、それどころじゃないか」

「うん。この先にミラがいるはず」


 男たちが目覚める前に早くミラを救い出したい。

 そして、少し進むと最後の男が立っていた。

 光の玉で周囲を照らしており、後ろにはミラが倒れている。

 

「まさかまさか、一人は頼りなさそうな少年。もう一人はお嬢さんみたいな少年。こんな二人にここまで追いつめられるとはな」


 追い詰められたと言いながらも表情はまったく動揺していない。

 手に持つナイフを光で反射させ、刃の輝きに見惚れている様だ。


「いますぐミラを返せ!」


 フーカは強く男に呼びかけるが返すそぶりは見せない。


「ここまで戦ってきたんだろ。最後だけ、はいどうぞって簡単に取り返せるわけないだろう」

「ミラはドロイスト家の長女じゃない」


 そのこと聞き男は動きをとめフーカを見た。


「どういうことだ?」

「いまのドロイスト家に女はいない。次期当主はぼく、フーカ・ドロイストだ」

「……そうか。でも、結果オーライというやつだ」

「何を言ってる」

「だって、この女をさらったことでお前たちが来た。そしてその一人がドロイスト家の次期当主と言った。なら、この女は用済みでお前をさらうことにすればいい。ふぅ~、危ない危ない。まさかミスしたかと思ったが、どうやら幸運の女神は俺に微笑んでくれている」


 話しても埒が明かない。

 そう理解したフーカは両手を男へと向け、直線状に局地的な風の渦を発生させる。

 当たれば奥まで吹き飛ぶほどの勢い。

 しかし、男はそれでも涼し気な表票を浮かべていて、ナイフを一振り。

 その瞬間、風は消えてしまった。


「ど、どうして……」

「古代魔法道具、ことわり破りの刃だ。刃に触れた魔法は結界だろうと空間に散布するものだろうと、持続して放ち続けるものだろうと、一瞬にして力を失う。そして、それを吸収し放出する!!!」


 男がナイフを振るとフーカの魔法がそのまま僕らのほうに向かって放たれた。


「ライカくん踏ん張って!!」


 自身の魔法に対しもう一度風を放ち相殺。

 トンネルには音がこだまする。まるで嵐だ。


「ま、こういうことだ。お前らはもう終わりだ。素直に降参するか、抗って力の差を思い知らされるか。選べ」

「ぼくはミラを助ける!」

「ここまで来て諦めるわけないだろ」

「若いっていいねぇ。殺しもしたことない子どもが、殺す気の相手に敵うと思うなよ」


 殺す気の相手を倒す。

 これは一筋縄ではいきそうにないな。

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