フーカの憂鬱 1
毎週思うことがある。休日は何をして過ごそうかと。
もちろん勉強はしているけども、授業と自主勉では難易度が変わってくる。
魔法使いとしても人生においても先輩である先生たちに教わる時は、ある程度聞く耳を持つことができるのだけど、一人でとなると中々進まない。
音読でも黙読でもいいけど結局自分の声で文字を読み上げるのだから、まるで自分から教わっているような不思議な感じがして、どうも進まない。
自室での勉強に飽き始めたころ、誰かが扉をノックした。
本を閉じ、扉を開けに行くと立っていたのはフーカだった。
「おはようライカくん。ちょっといいかな?」
「おはよう。いいよ、ちょうど勉強に疲れてきたし」
僕は机に備え付けられている椅子に座り、フーカは僕のベッドに座った。
「いまから町に行くんだけどライカくんもどうかなって」
そういえばこっちに来てから一度も外出をしていない。
学園から少し離れた場所にある町には入学前に馬車で通った程度だ。
「構わないけど、どうして僕を?」
「ほら、初日に会ってるのにまだ一緒に過ごしたことないでしょ。だから誘っちゃおうかなって」
言われてみればアクアやカラミラと過ごす時間が多くて、フーカと二人で何かしたことはなかった。ギルマとは戦った仲だし、とはいえいつ会っても睨まれるんだよなぁ。
「いいよ。えっと、私服に着替えたほうがいいのかな?」
「制服のままで大丈夫だよ。むしろ長期休暇以外では外に出る時も制服が決まりなんだよ」
「せっかくの休みなのに」
「どこに行ってもエルラードの生徒として自覚をもって行動しなさいってことなんだろうね」
「そういうもんか。んじゃ、外出届出してくるよ」
――
外出をする際には馬車か自分で馬に乗って移動することが多い。
徒歩だと少し遠い上、この辺は安全だけどモンスターが出ないとも限らない。
エルラードの生徒を襲う身代金目的の賊もいるから、すぐに移動できるように馬が推奨されている。
ちなみに馬は珍しい生存動物で、動物がモンスターへと変貌していく中、人間と共に行動していたためか多くの個体は動物として存在を残しており、逆に馬類モンスターがほとんどいない。
そのため馬類モンスターは伝説とさえ言われるほどだ。
「ライカくんは馬の扱いが上手だね」
「田舎だったから馬は必須でね。町の馬の管理を手伝ってたんだ」
「じゃあ、馬によって性格が違うと苦労したりしない?」
「暴れ馬もいたし老馬もいたし、臆病な奴もいたよ。魔力がまともに使えなかった僕が唯一得意だったのが乗馬ってだけだったんだけどね。大人の乗る姿をよく見てさ」
「そのころから観察眼が鋭かったんだね。ギルマとの戦いでもしっかりみて対応してたし、ライカくんは伸びしろがあるよ」
「おだてても何も出ないって。まずはアクアを倒して、それにギルマがいつ再戦してくるかわからない。攻めながら追われてる感じでハラハラするんだから」
「ギルマも最近頑張ってるからね。楽しみにしててよ」
「できれば一勝一敗で終わりたい気持ちもあるんだけどなぁ。怖いし」
「あの子が許してくれないって」
「だよな」
フーカと話をすればするほどギルマと本当に双子なのかと疑いたくなる。
失礼を承知で聞いてみたら正真正銘血のつながった双子だと答えた。
別に何か隠している感じでもないし本当なのだろう。まぁ、人の血のつながりまで気にするなんてほめられた行為じゃない。気をつけなければ。
ただ、双子は本当なのだろうけど、やけに家の話題から反らそうとする雰囲気があった。あまり話したくないことがあるのかもしれない。
町の名はウートステ。中規模な町でこの町の中央から続いている一本道を進むとそのまま城下町ホープロードに向かうことができる。
馬を厩舎にあずけフーカと共に町を探索することにした。
「案内してあげよっか? あまり来たことないんでしょ」
「というか通り過ぎただけかな」
「じゃあ、僕が好きな雑貨屋とお昼には美味しい玉子料理が食べれるお店を教えてあげる」
フーカはとても楽しそうに愛らしい笑顔で話してくれる。
ただ何というか、それはもうデートプランみたいになっていないだろうか。
最初に連れて行ってもらったのはガラス細工のお店だ。
カップやソーサー、置物まですべてガラスで作られている。
マントをひっかけて落としてしまいそうで怖いものだ。
「見てみて。これ可愛いよ」
「二つのカップを並べると星の絵が完成するんだな」
「仲の良い友達同士で使うのかな」
すると、女性定員がやってきて小さく笑みを浮かべつつ言った。
「ペアのものならこういったお守りもありますよ」
少し光を反射する小さい円の形をしたガラスは二枚重ねるとより強く光を反射しキラキラと光る。
「一枚よりも二枚のほうが輝くを増すんだね」
「はい。一人でも輝けますが、二人だともっと輝ける。そういう意味を込めて作られたものです」
「いいですね。ぼくこれ買います」
フーカは悩まず即決した。
ギルマと分けるのかと思っていたら一つを僕に渡してきた。
「ついてきてくれたお礼ってことで」
「いいのか?」
「うん。受け取ってくれたらうれしいなぁ」
「もちろん。ありがとう、フーカ」
あどけない少女のような無邪気な笑顔を見れただけでも一緒についてきてよかったと思える。
ちなみに、ペアのお守りは注意事項が一つだけあって、重ねた状態で強い光を与えると一直線に強い光を放ち壊れてしまうという。日の光程度では問題ないそうだけど案外物騒なものみたいだ。
それにガラスだから壊れやすいだろうし、せっかくフーカがくれたんだから大事に扱わないと。
「ほら、次はあっちにいこ!」