プロローグ
あたりまえが世の中にはあふれている。
空は青くて、森は緑で、地面は茶色で、生命には魔力がある。
人は魔力を持ち、明かりをつける程度の簡単なコントロールはできる。それは生まれてから自然と歩き出すように、自然と呼吸をするように、魔力の使い方を覚える。
だから、それを成長させよりすごい魔法を使ってみたり、ある程度で諦めて身の丈にあう魔法を極めて見たり、魔法の世界はやめて料理や大工になったり、それぞれが自分にあったものを見つける。
僕は、そんな初歩的な魔力の扱いがあまりにもへたくそだった。
両親ははっきりと言わなかったが、僕の中にある魔力を生み出す魔力コアは、どうやら異常らしい。
しかし、まるで不思議な力が働いたと思えてしまうほど偶然の出来事。
僕は一国のお姫様を助けたことがある。
ただ無我夢中になっていただけだった。
確か僕より二つ年上だったから、当時は十三歳だったろうか。
そのことを覚えていてくれたようで、僕が十五歳になったころ、手紙が届いた。
それは、魔法学園エルラードへの推薦状だった。
――
まるでお城のような大きな建物が中央に建っていて、それを囲むようにいくつもの棟がつながっている。魔法の練習をしても問題ない広大な広場、力を試す決闘場、優雅に過ごせるカフェエリア、なんともまあアウェイな空間だ。
「そしてあっちに見えるのが三年生の寮です。聞いてますかライカさん」
「あ、はいっ!」
「はぁ、あなたは途中から入ってきたんですからしっかり覚えないと遅れてしまいますよ。ただでさえここは金持ちや腕に自信のある生徒が集う学園。下に見られたら何かと不便です」
学園の案内をしてくれているのはノルワ先輩。学年は二つ上で、眼鏡をかけていて少し黒髪を伸ばした真面目な雰囲気の人だ。
最後に案内してくれた場所は教会だ。
大きな学園にしてはやけに教会は小さく、放置をされているわけではないと思うけど、天窓から差し込む光で埃がふわふわと浮いているのが見える。
「ここは大して見るものはないですが、以前はよく使われていたそうです」
「いまは使われてないんですか?」
「神、というものに対しての信仰心が薄れたからでしょう。この世界の生命には魔力が宿り、それは人間も同じで、魔力を利用し魔法を開発し、それを神の力を再現したものだと考えられてきました。しかし、魔法がより大きな影響を生み出すことができると、魔法は人間が開発したという認識が強くなり、神をあがめるのではなく人は人をあがめるようになったのです」
「僕のいた町では神への信仰が少し残ってますよ。老人がほとんどですけど」
「どこの出身ですか?」
「アルバライトです」
「国の外れね。アルバライトは土着神への信仰があると聞いたことがあります。戦いの神が平穏を求めて最後にたどり着いた場所」
「家にあった神の伝説を記した本にもそう書いてありました」
すると、ノルワ先輩は奥へ向かうことなく踵を返し外へ向かった。
「もうすぐお昼です。食堂へ向かいましょう」
その直後にお昼を知らせる鐘が鳴った。
恐ろしく体内時計が正確な人だ。
食堂もまた広い。
語彙力を失うほどに広い。
どうやら学生の食事はいつもビュッフェ形式で、各々が自由にとって好きな席に座っている。ただ、一部の生徒は執事やメイドに運んでもらっているようだ。
僕はノルワさんと共に食事をとることになった。
学園を案内してくれている時から思っていたけど、姿勢は美しく真面目で、規律を乱す生徒がいればしっかりと注意する。年上の生徒にもしっかり注意する姿はちょっと危なっかしくも見えるけど。
「学年の見分け方はもう覚えましたか?」
「あ、はい。マントの色ですよね。濃い赤色は僕と同じで一年、青色が二年、三年が紫。黄色が四年で五年が灰色。あ、でも白はまだわかりません」
「白は優秀な生徒のみが学年に関わらず身に着けています。マントの外側には魔力を反射するアンチマジック加工が施されているのです」
「扱いに差があるのか……」
「正しいとはっきりと言うことはできませんが、優秀な生徒は今後国に良い影響をもたらしてくれる可能性がありますから、不意の事故で怪我をしないようにしたいのでしょう」
ノルワ先輩と食事をしながらいろいろ教えてもらっていると、そこに青髪のショートカットに褐色の肌をしたボーイッシュな生徒がやってきた。マントの色をみて一年であることがわかる。
「ノル先輩久しぶり。その子新しい子?」
「ええ、どうやら推薦のようですよ」
「へぇ~、誰からの推薦?」
「それは秘匿されています」
「ノル先輩も知らないの?」
「私だけが知っている事なんてそこまでないですよ」
「生徒会長なのに知らないんだ」
ここで明らかになったこと。それはノルワ先輩は生徒会長だということだ。
この学園は五年まであるのに三年のノルワ先輩が生徒会長ということは、よほど優秀なんだろう。
「こんにちは、私アクア。よろしく」
「ライカです」
とても気さくなのに、あまりにもアウェイすぎる状況に委縮してしまい敬語が中々崩れない。
「同じ学年でしょ。ため口でいいよっ。てか、ここじゃあ下に見られたら不便だから」
いけないな。相手から差し伸べられないと動けないってのは今後面倒なことになる。なるべくこっちからもフランクに話しかけられるようにしないと。
と、思いながらもアクアがノルワ先輩と同じ、不便という言葉を使ったことは気になった。
「不便ってどういうこと?」
「金持ちや魔法に自信がある生徒が多いからね。一度下見られると横柄に接してくる人も少なくないんだよ」
僕は国のお姫様からの推薦でこんなところに来てしまった。
魔法を学びそれを国のために使ったり、家のために、社会のために、世界のために、または自分のために、そうやって今後の道を考えている学園の生徒たちと比べて、僕には重大な欠陥がありながらも、下に見られないように立ち回らなければいけなかった。