転生するなら白餅がいい
「餅になりたい」
「餅……じゃと!?」
異世界転生を司る神は男の答えを聞いて驚愕した。
これまでに最強になりたいや美少女にモテたい、超スペックが欲しいという願いは飽きるほど聞いてきたが餅になりたいというのは前代未聞だった。
「餅は食われるだけじゃぞ。それでもいいのか」
「私は生きている白餅になりたいのです。柔らかさ重視で」
「変わった頼みじゃが、わしとしてはお前の生前の徳を重んじて新たなる神にしてやろうと思っていたのじゃが、よかろう。餅としての来世を生きよ」
「ありがたき幸せでございます」
こうして男は白餅として転生した。
魑魅魍魎が群れる異世界で未知の食べ物である白餅として転生した男が最初に出会ったのはスライムだった。スライムは白餅を見るなり言った。
「お前マズそうだな」
「貴様、白餅である俺を侮辱する気か!いい度胸だ、食ってやる!」
白餅はくるんとスライムを包み込み、飲み込んでしまった。
美味しさを理解しないやつは食うという餅としてはあり得ない発想で、襲い来る敵を次々に食べ、餅のすばらしさを伝えようと奮闘した。
子供たちには優しく、体をちぎって食べさせた。どれほど千切っても餅は減らないのだ。
貧しく飢える者たちを救い続け笑顔を守り続けた白餅だったが、やがて衰えが来た。
柔らかかった身体が固くなってきたのだ。
愛する者たちに見守られながら、白餅は言った。
「俺もとうとう賞味期限が来たようだ……」
こうして異世界のものから愛された白餅の人生は幕を閉じたのだった。
おしまい。