4話
すみません。お気に入りのシーンなので増量します。内容に大きな変更はないです。
「本当にありがとう♪ マックス! 助かりました。」
ぎゅっと白大狼にハグをしている。
「良かったら、シンさんももふもふさせてもらって下さい。マックス少しだけ良いですか?」
「ワフッ。」
「フフッ。良いそうです! では失礼します。うーんお日様の良い匂い。」
横でふさふさした毛並みに顔をうずめて、デレデレしている美女エルフさまを横目におれももふらせていただくことになった。
「失礼しますね。マックスさん。これは・・・すごい。。何てふわふわなんだ。」
あまりの手の感触の幸せさに感嘆した。
おれ異世界来て良かったわ。今まで失ったものばかりが頭によぎっていたけど、この経験はでかい。
この感触を味合わずして、死んで良いだろうか。いやダメだ。
「いつまでも、この時間が続けば良いのに・・・。」
だがマックスさまにも用事があったらしく、別れることになった。
「マックス~! 心配しないで。私一人でも帰れるから!」
「ワフウ~。ヘッヘッヘッヘ。」
ペロンとミスリーさんの顔を舐め、おれに目配せをする。
「ちょっと止めて下さい。もう。濡れちゃいました。」
「はい。私もいますから、この命をかけてミスリーさんを無事家に返します。」
言葉こそ喋れないものの、理解はできているのだろう。
尻尾をうちわのようにパタパタと2.3満足気に動かすと暴風のような勢いで去っていった。
どうやらおれたちに負担をかけないように力を抑えていたようだ。
「これから何をしますか。ミスリーさん?」
「ここから飛び降ります。」
聞き間違いに違いない。滝の音が凄まじく、実際に聞き取りにくかったのだから。元居た村とは随分離れた高地に来ていた。
「ミスリーさん。冗談ですよね? ね?」
んん? どうしたその笑顔? 嫌な予感しかしない。
「ところで、シンさまは高い所苦手でしょうか?」
「別に苦手というわけでは。」
「では行きますよ!」
どうしよう。このエルフの方は頭が少々おかしいのかもしれない。
「今回は遠慮しときます。あちょっとやめい。止めて。お許しをああああああ!」
スッと手首を握られておれたちは奈落の底へとダイブした。
落ち着け。まだ焦る時間じゃない。そうだ。水底に叩き付けられ藻くずとなる前にまだできる事があるはずだ。
おれは何とか理性をかき集めた。おちつけおちつけおちつけおちつけ。ああああああ。
無理だ・・・。こうなりゃメリットを考えるしかない。エルフ美女と2人きりで死ぬ。あれ!? 思ったより悪くない!?
いや。悪くないこともないこともない。死にたくねええええ。
心臓を崖の上に置いて来たような感覚がずっとしている。みぞおちを重力に引っ張られている感覚。
全神経が生命の危機に悲鳴を上げている中、手首にほんのりと柔らかく温かな感覚を覚える。
そうだ。この事件の現況のミスリーさんはどんな顔をしている?
「大丈夫です。これから物凄いものをお見せしますから。後もう少しだけ・・・。ここがこの村の秘境奈落の底なし谷です。」
「では周りを見ていて下さいね?」
そう言い、フフフッと彼女は微笑んだ。
視界が水音と霧からまるで宇宙の銀河のような、バラ色の流れる河へと移り変わる。それから花火のような水色、エメラルドのような薄緑。
上から下へと流れており、異様な美しさを醸し出していた。
「なんだと。これは一体?」
「わが村自慢の名物です。ここが一番近くて絶景の場所ですから。ぜひシンさまにもお見せしたかったのです。」
「すごい。この世のものとは思えない。なんて美しさだ・・・。」
「ええ。」
その会話をしたっきりお互いに見入っていた。
虹が幾層にも重なったよな円を真っ黒な空間が覆う。最早日の光はここまで届いていない。
ここは異空間のような所だろうか。おれたち2人は仲良く落下し続ける。
視界に眩しい煌びやかな光が目を刺す。これがスノーホワイトか。夥しい数白い雪のような光がおれたちを貫き通り過ぎていく。
なるほどこれは光で物質ではなさそうだ。
もともと自分から光を放っているようだ。反射ではあそこまで衝撃がある風景は得られないに違いない。
斜めにいくつも途切れた空間が幕を上げる。それは白 灰色 ダークブラウンで装飾されていた。その奥に水色の恒星の光のような美しい球体がふわふわ漂っている。
「水色きれいですね・・・。ミスリーさんの瞳の色」
「・・・。」
何時間たったのだろう。
鮮やかな紫の帯がいくつも交差しておりそれが流れるのを見届け、さらにまるでパイナップルの形を連想するような模様のライムグリーンのグラデーションを見送り・・・。
一体いくつの色を見たのだろう。脳があまりの絶景に麻痺をし始めた。
人は美しいものを見続けるとどうやら酔ってしまうらしい。
そう言えば崖から落ちて何時間たったのだろうか。もうどこが上だが下だか分からなくなってきた。
恐怖こそなくなったものの、逆に終わりが来ないあのじれったい感覚が押し寄せる。
おれの事を良く見ていたのだろう。すぐにミスリーさんから声がかかる。
「そろそろ帰りましょうか。」
「はい。」
「では行きますよ! 空間転移!」
最後に見た絶景は脳裏に焼き付いてしばらく頭から離れそうになかった。水色と赤紫、ピンク
気付くと目の前にミスリーさん宅の玄関があった。思わずほっとして胸をなでおろした。
ノックをすると、慌てて村長が出て来た。
「遅かったな。心配したぞ。リー。」
「ごめんなさい。お父さま。奈落の谷を見せてきました。」
「そうか。あそこは凄かったろう?」
「ええ。とんでもない体験でした。もう死を覚悟していたくらいです。」
「ハハハ。確かに私も一番最初に遊びに行った時には自分の転移魔法が使えるかどうか半信半疑になってしまったくらいだよ。子どもの頃からずっと使っていたっていうのになあ。」
「ハッハッハッハッハ!」
「フフフフフ!」
親子仲良く笑いあっているのを見て、先ほどまで死を覚悟していた事を忘れてしまいそうになる。
「今晩の夕飯は、良い牛肉が手に入ったから、リーの好きなシチューだそうだ!」
「そうなの? 楽しみ!」
パアアアと顔を輝かせて自室へと螺旋階段を駆け上がっていった。 リーさんの部屋は2階である。
「シンさまも早く準備なさって! 私もすぐ行きます!」
「はい! ではまた後で!」
なんて逞しいんだろうとは思ったものの、おれだって負けてられない。そう思った。若さは刺激しあって得られるのかもしれない。とにかくミスリーさんの影響力は凄まじい。
あの全てに挑むかのような眼差し。童心をくすぐり続けるされど可愛らしい声色。
慌ただしく準備をし、居候である私も夕食作りへと参戦した。
グツグツと野菜と柔らかなお肉が胃袋を絡めとるような良い匂いを漂わせて来た。
「もうすぐね。」
そう言ってお母さまは味見をし、美味しかったのかペロリと舌なめずりをした。
なんともセクシーだった。
どうやら玄関の外ではお父さまが子豚の丸焼きを作っているらしい。何とも重厚な香りが風に運ばれて来た。
「そろそろお皿の準備よろしくね。」
ミスリーさんのお手伝いをしながらおれもテキパキ運んだ。
「いっただきまーす!」
「これも旨いぞお~! イベリコ豚のハム! 何とも鮮度が良いのが手に入ってな!」
「くうう~。肉汁が・・・。溢れる。」
「たまらねえ~。」
思わず素に戻って感想が漏れてしまった。
「そう言えばお姉さま方たちはどちらへ?」
「ああ。あの2人なら婚約者の家に泊まってくるそうだ。」
「あら。じゃあそろそろ結婚式ね。」
「お姉さまの花嫁姿楽しみね!」
「そうね。フフフ。私はリーのも楽しみよ?」
「お母さま~!」
「リー!」
テーブルをまたぎひしっと抱き合う2人。
おれ本当にこの家族大好きだわ。胸がふわっと温かくなった。