2話
こんな感じのテンポです。のんびりのんびりしていきましょう♪
コンコンコン。軽やかな乾いた音が鳴り響いた。
「どうぞ。」
「シン殿。体調は如何ですか?」
「おかげさまで、徐々に回復をしております。」
「食欲も元通りのようなら、我が家の夕食に招待したいと思っていたのですが。」
「ありがとうございます。恥ずかしながら、大変空腹でした。」
グウウ~と音がなる。
「フフフ。そうですか。何よりです。」
「すみません。本当に厚かましくて。」
おれは自分の胃袋の節操のなさに苦笑しながら、ベットから立ち上がろうとした。
「おおっと。」
まだ本調子ではないのか、目まいがし、よろけてしまった。
「では行きましょうか。」
「ありがとうございます。ミスリーさん。」
そっと差し出された手を握り返し、肩を貸してもらいながらリビングへと向かった。
飴細工のように煌びやかな金髪がふわりと揺れ、おれの鼻をくすぐった。
どうやらお風呂上がりらしい。ラベンダーのとても良い香りが辺りに漂っていた。
「お邪魔しております。何から何まで。大変親切にして頂いており、胸が温まる思いです。」
「ああ。娘から話は聞いた。私がこの村の村長をしているソムリエだ。まずは食事をしながらでも君の身の上話でも聞かせてもらおうか。」
「それでは改めてよろしくお願いします。」
「ふふふ。どうぞ遠慮なさらず♪」
「ありがとうございます。」
テーブルの上に並ぶわ色とりどりのサラダ、お豆のデュップ、そして薄いパン、トマトスープなど野菜尽くめだ。
なるほど。栄養は満点だ。
「このキノコ料理が自信作よどうぞ!」
にっこり穏やかな微笑みを浮かべるこの方がミスリーさんのお母さま!?
「どれも美味しそうです。」
「ええ。美味しいわ。ぜひぜひいっぱい召し上がって下さいな!」
「それはキノコのファミリエよ。」
「色合いも綺麗でオシャレですね。」
「そうなの。私の得意料理の1つです。」
ニコニコしながら教えてくれた。
若草色の目が少し細くなり、笑いジワが際立った。素敵な年の取り方をされているマダムだ。
「美味しいです! これは何て料理ですか? ありがとうございます。ミスリーさん。」
おれの食べっぷりが思いのほか良かったからかミスリーさんがパンを追加で出してくれた。
「たくさん召し上がって下さい。」
ニコリと微笑を浮かべた。その瞳は今までに見た色で一番澄んだ水色をしていた。顔はお母さま似で目元お父さま似。どうりで美しいわけだ。
「それでは、少しばかり私の話をさせて頂きますね。私は実は・・・。かなり遠くの国から突然この国に来ることになってしまいまして。」
皆さま真剣に聞き入ってくれている。ミスリーさんのお隣の方々は姉妹だろうか。ミスリーさんはおそらく末っ子である。
何かしらのハプニングがあり、瞬間移動をしてここにきてしまったこと。着の身着のままだったため、帰る手段が見当もつかないこと。
「本当に厚かましい願いではございますが、どうか助けて頂けないでしょうか。何かしら出来る事があったら手伝わせて頂きますし、働く場所をご紹介していただくともっと嬉しいです。」
「ふむ。では君はしばらくの間私の手伝いをしてもらおう。確か魔道具の検品作業の包装、運搬先の確認などがまだ残っていたな。」
「では明日から少しずつでも手伝ってもらおうか。」
「ありがとうございます。ぜひお願いします。」
「はっはっは。やる気があるようで結構である。ところでミカエラ。あれはまだ残っていたかい?」
「もちろんよ。ダーリン。」
なんてラブラブなおしどり夫婦だろう。うん。なんかホッコリしてしまう。
クイッと傾けた手のジェスチャーはお酒であってそうだ。ここは共通だったか。
「よいしょっと!」
ミカエラ奥様は樽ごと何か持ってきたようだ。ま、まさかな!?
「どうぞ。」
「・・・。」
「はい。」
「ありがとう。」
「では私はおつまみを持ってこようか。苦手だったら無理はするなよ!?」
無邪気な笑顔と樽一杯のワイン。
「これは本当においしいですね。さっぱりした後味が癖になります。」
お酒を飲んだとたん皆さま静かになってしまった。でも笑顔で、うんうんとリアクションをとってくれる当たり良い人たちである。
早く戻って来てください。村長さま。こんなお綺麗な方々とのお酒はとても美味しいですが、元いた世界の夜のお店の方々より綺麗すぎて眩しすぎて・・・。
正直、気まずいです。
「はい。ミカエラ。」
「あら。気が利くわね。あなた!」
いや。本当に仲良いな。
お隣のお綺麗なエルフお姉さまから謝られる。(ごめん、ね)
「いいえ。羨ましい限りです。素敵な仲ですね。」
「私はヴィオラッテ。」
「その隣の私がトーニーです。」
「お二方はミスリーさんの・・・。」
「姉よ。私ヴィオが長女でトーニーが次女。」
「私が末っ子です。」
あれ? さっきと印象が違う気がする。緊張してたのかもしれない。
「私も故郷に妹が一人います。」
「そうなのね。ところで、魔法などは使えるかしら?」
「すみません。実はサッパリでして。」
「あら。そうなのね。」
「なら少しでもこの村で学んでいくといいわ。ここで認められたら、どこに行っても評価されるし、通用するはずよ。」
「そうなんですね。素敵なアドバイスありがとうございます。」
「いいえ。」
ニコリと妖艶な笑みを浮かべながら、そっとつまみを頬張った。
さっきから振動の鼓動がうるさい。美の暴力。可愛いは正義だ。誰もがひれ伏してしまうだろう。
他愛ない話をしながら夜は更けていく。
「そろそろ眠らなきゃね。」
「本日は遅くまで飲むの付き合ってくれてありがとね。お兄さん。」
はい。ウインクいただきました。
「いえ。皆さまとお話しできて嬉しかったです。本当にみんな仲良しで。素敵な家族ですね。」
「少し酔っぱらっちゃいましたか?」
廊下でみんなと別れる時にそっとミスリーさんにそっと耳打ちされた。
「ハハハ。そうですねえ。とても良い気分です。ゆっくり眠れそうですね。」
「では。お休みなさい。」
「ええ。また明日。」
家族みんなで客室まで送ってくれた。回復魔法をまたかけてもらったので歩くことはできたのだが、やはり心配とのことだ。
おれはすっかりこの村長一家の事が好きになっていた。
ごはんがお野菜ばかりなのも癖になりそうだ。何より健康そのものだし!
別れる直前にミスリーさんが急に顔を近づけて来たことを思い出す。
可愛かったなあ。そして優しかった。なんて良い子なんだろう。そう思った。
枕元に意識が落ちる瞬間どうでも良い事が頭をよぎった。エルフってやっぱり菜食主義なのかな・・・。
エルフ族は家庭にたくさんのワインの樽を保管しており、自称”ぶどうジュース”と読んでいるそうです!
後共通の趣味が晩酌だそう(^^♪