11話
ひさびさの投稿。ちょっとだけ気合い入ってます。たぶん。
今日は何日かぶりの猛暑である。
ああ。暑い。人は何ゆえ生きるのだろう。青空にどくろのように大きく首をもたげる入道雲に思いを送った。
「ああああああ。暑いですう~。私はもうダメです。何て暑ささんですか。これはもう私を殺しにきてますね。そうに違いありません。クッ殺すなら殺せ。。。」
後ろのベットで伸びているのが何とこの世界で駆け落ちをすることになったエルフである。
「人間の私でもなかなかにこたえる暑さですが、エルフも例外ではないようですね。」
「そーうなんですよねえ。ぜえぜえ。きれいな河が見えてきました。あれ!? ひいおばあちゃん? 懐かしいな。後もうちょっとで会えそう。あとちょっとだから・・・。」
ダメだ。きれいな鋭利な耳先が真っ赤である。しかも三途の川を渡っているときた。
こんなときにはそう。自称私の妹のNEMESISに位置情報をアップしてもらってきれいな渓流を探し当ててスイカを冷やす要領でエルフをどんぶらこさせたい。いやいい感じなのではないだろうか。
待てよ。また何か見落としている気がしてきた。
「もう。ダメで・・・す。お母さまお父さま先立つ不幸をお許しくださいませ。ゴボゴボゴボッ。」
あああ。もうダメだ。今にも泡吹いて死にそうである。まさに死にかけである。
でもこれ以上おれに何が出来るというのだ。水はこまめに飲ませた。氷枕で冷やしつつ濡れタオルで身体も拭いてあげた。
うちわがないのでなんかそれっぽい紙を折り曲げて怒涛の勢いであおいで風も送ってる。
頼む。おれ。何か思いついてくれ。NEMESISが部屋をあけている今頼れるのはおれの頭脳だけである。
白いシーツを羽織り、急いで彼女を担いで病院へとむかった。
人通りの多い中足にむち打ち負ぶったまま死ぬ気で走った。
「あ、あの。誰か病院を教えてくれませんか。」
「病院なんだそりゃ。もしかして、後ろのお嬢ちゃんはエルフかい? そうだねえ。3丁目のおばばなら治してくれるかもだけど、ああそこさ。角を曲がってまっすぐだ。」
「ありがとうございます。ふんぐうっ!」
足にさらに力を込め先を急いだ。
一本道なので角はずっと見えてる。だが、距離が縮まらない。一歩一歩がまるで鉛のように重かった。
地面は焼けるような暑さで、シーツの下に荒く息をするリーさんは今にも息絶えそうである。冗談でなく文字通りにだ。
視界が真っ白になってきた。腕の力が抜けてくる。これは共倒れし兼ねない。
うん誰かが話しかけている。
「・・・・オイ。兄ちゃん。何やっているんだ。」
「おれです・・・か?」
「ああ! こんな暑い日に一人で出歩くのも危ないのになにやってんだあ? おいおいおい後ろの嬢ちゃんはエルフじゃねえか。で、どこへ行こうってんだい。」
「3丁目の・・・。」
「良し分かった。お嬢ちゃんはおれに任せろ。兄ちゃんは一人で歩けるな?」
声の主はかなり柄が悪かった。ふと村長から聞いた話が頭によぎった。
人はときに貴重な種族であるエルフをさらって奴隷にすることがあると。
暑さのあまりぼうっとしたおれは額の汗を手で拭い彼の目を見た。
確かにやんちゃはしてそうではる。だが彼の目は真っ直ぐにおれを見つめ返していた。
まるでおれを信じろと言っているかのような熱が伝わって来た。
「ありがとう。恩にきります。」
リーさんを担ぐのを代わってもらいおれはこの親切な男と並走して駆け出した。
途中石につまづいて倒れそうになり、脳が揺れる。これは本格的にやられて来ている。
強めに自分のみぞおちに拳を落とし気合いを入れた。後20歩ほどで角を曲がる。目線をはわし意識を集中する。
リーさんの背中が力なく揺れていた。大丈夫だ。気をしっかり持ってくれリーさん。なかば己にも言い聞かせていた。
思わぬ突風でシーツがめくれそうになるも並走しながら手で抑えた。しかしこのナイスメンてば凄い体力である。そして横顔は人命救助に燃えている熱い漢であった。
あれが薬師と回復術も使える感じのおばばのお店のようだ。
何やら怪しげな黒曜石の石碑やらアメジスト結晶の横断面が壁いちめんに広がっていた。
中からお香と調合した薬を煮詰める煙がたちこめていた。
「ゴホゴホッ。ここですか? こんにちはー! 誰か! 誰かいませんか? 急患です。助けて下さい!」
返事はなかった。
「おーい! おれだトムだ! いるんだろ!? マジでヤバいから頼む助けてくれ!」
薄暗い奥の厨房からゴトリと音がなり、背丈はおれの腰ほどだろうか。大変小柄な高齢の女性が出てきた。
「何だ。トム坊じゃないのさ。おや・・・。その子は一体?」
「通りすがりのエルフだ。この暑さにやられたみたいでな! となりのコイツが看病してたみたいなんだが具合が良くならないそうなんだ。」
「そうなんです! どうかどうか助けてくれませんか。おれの命の恩人なんです。」
フッとおばばは余裕の笑みを浮かべるとアメジストの結晶石を拳で叩き割り、破片に魔術をいくつかかけだした。
おれには何が起こっているのかが分からなかったし、邪魔をするつもりもさらさらなかった。
ぶつぶつぶつと呪文を唱え終わった後何やら鉱石の破片がまばゆく輝きだした。
「トム坊。紐をとっておくれ。」
「ああ。」
ナイスガイは手慣れた様子で壁際にあるたくさんの棚の中から革紐を取り出した。
おばばは鮮やかな手付きで紐と鉱石を固定し、リーさんの胸元にそっとおいた。
「さあ。準備は整った。お前さん力が有り余っているねえ。ちょっと手をかしな。」
「は、はい!」
おばばにがっちり手を握られ、何やら力が吸い取られていくのを感じる。でも何がかは分からない。
ガサついた年期の入ったおばばの手は思ったよりも力強く頼もしかった。
リーさんの胸元のペンダントが淡い光を放ちだす。一瞬周囲がまるでスキー場のように冷たくなり、肌を撫でる冷風が突き抜けたあと元の気温に戻った。
「さあ。処置は完了さね。後5分遅れていたら命は危なかったさ。2人とも良くやった。」
おれはホッとした束の間に両目から涙が溢れてきた。
「本当に・・・。本当にありがとうございます。どれだけ感謝してもしきれません。リーさんは助かったのですね。」
「ああ。ほら見て見ろさね。顔色も徐々に良くなってきている。」
スーッスーッとかすかに寝息が聞こえていた。
「あの。本当に助かりました。」
おれは心から感謝をし深々とナイスガイに頭を下げた。
「気にするな。おれも昔病気で死にかけたことがあってなあ。その時この町にいたエルフの薬師に助けられたってわけよ。もうずいぶん前に魔術の勉強をするとかで旅立っちまったけどな。その時助けられた恩はきっといつか他の誰かに返さなきゃならねえ。おばば世話になったな。また姉さんが帰ってきたら教えてくれ。」
「ふっふっふ。トム坊も律儀な男だねえ。でも旅立った女のことは忘れた方がええ。そりゃああいつはいい女さ。でもあんたもいい男だ。何か良い縁があったら直ぐにつかまんとな。」
「分かってるわ。うるせえ!」
そう言ってナイスガイは手を振り去っていった。
「ああ。すまんね。この店で以前働いていたエルフの娘っことアイツが知り合いでねえ。まあそんなところさ。」
おばばニヤニヤ笑いながらおれの肩を叩いた。
「お主もたいがい女たらしさね。少しだけあのエルフの小娘と魔術回路に接触したとき、お前さんの名前を律儀に呼んでたよ。大事にしてやんな。」
「はい! 本当にありがとうございます!」
おれは急いでリーさんの元に駆け付け、そっと額の汗をハンカチで拭ってあげた。
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