恋
久しぶりに筆を執ったため読みづらい箇所が多々あると思います。
暖かい目で見て頂ければ幸いです。
――恋など知らない。知る必要はない。
僕は、あまり他人とは関わらないで生きてきた。
会話は最低限。多くを語らず、多くを求めようとしない。
そんな僕に興味をもってくれる人は一定数いたけれど、最後はみんな離れていってしまった。
僕にとっては他人の情報よりも、荘厳な戦艦や勇猛な戦車の方に興味があったし、幸い周囲と敵対することもなくお互いに無関心でいられたので大して問題はなかった。
そんな日々を過ごしていたある日、彼女に出会った。
誰にでも笑顔で、優しい。
それでいて、誰にも素顔を見せないような、不思議な人。
彼女はこんな僕にさえ、ずっと話しかけてくれた。僕の話を聞いてくれた。
「ごめんね、あんまり詳しくないんだけれど、君が言っていたもの少しだけ調べてみたんだ。かっこいいなって思って。」
そういった彼女の顔色が真っ青だった。
おかしいな、と思ったときにはもう手遅れだった。
彼女はそのまま床に倒れてしまった。
保健室に担ぎ込んで、そのまま救急車で搬送されていく彼女を見て、もっと早く気付いていればと後悔した。
僕がもっと他人に興味があればこんなことになる前に気付けたかもしれないのに。
先生が言うには、彼女の家は家庭の事情で彼女がアルバイトをして家計を支えているらしい。
夜遅くまで働いて、日中は学校で勉強して、働いた後に課題もやって。
ほとんど眠れていないんだろうな、と思った。
そんな素振りは一切見せなかったけれど。
彼女の生活は幸せなんて考えられないほど困難なものだったのだろう、と思った。
今、僕がなにかしてあげられることは?
今日も花とお菓子をもって彼女の病室に行く。
「今日もきてくれたの?ありがとう!早く治さないとね。迷惑かけちゃうし。」
彼女が笑いながら言った。
僕は黙ったまま花瓶に持ってきた花を生けた。
何も言えなかった。何を言っていいのかわからなかった。
誰も迷惑だなんて思わないよって言葉さえ無責任な気がして言えなかった。
なんでそんな辛そうな顔で笑えるんだよ。
こうして会いに来ることが正しいかどうかわからない。彼女の負担になってしまっているかもしれない。
僕が会いたいから、彼女の生きている姿を見たいから会いに行ってしまう。
僕は彼女のことを何も知らない。知ろうともしてこなかった。
僕は彼女のことを知りたい。
「ねえ、君のことを教えてくれないか?」
勇気を出して彼女に言ってみた。
彼女は少し驚いた顔をして、ほんの少しだけ俯いた。
「何が知りたいの?」
「なんでもいいんだ、今思っていることでも昔のことでも、好きなものでも、嫌いなものでも。」
「そう、私のこと知りたがる人ってなかなかいないからびっくりしちゃった。じゃあ君のことも教えてよ。君が戦車とか戦艦が好きなことしか知らないもん。」
それから僕らはお互いのことを少しずつ語り合うようになった。
彼女の造りモノのような笑顔は相変わらずだったけれど、少しずつ表情も豊かになってきた気がした。
「私は幸せな家庭ってどんなものなんだろうって考えるんだ。」
彼女が寂しそうに言った。
いつしか、僕は彼女の幸せを願うようになった。
彼女が心から笑える日々を願った。
いつしか、僕は彼女の隣に居たいと願っていた。
彼女とともに些細なことに一喜一憂して、馬鹿だと笑いあいたいと、願ってしまった。
知らない感情だった。
胸が締め付けられるような、それでいてどこか期待に満ち溢れているような不思議な感覚だった。
「それはね、恋って言うんだよ。」
母は優しく笑って言った。
「今は戸惑うかもしれないけれど、自分の思うままに動きなさい。あなたが将来、後悔しないように。」
『恋…ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり身悶えしたくなるような心の状態』
恋ってなんだよ。
自分はどうしたいんだろう。
ぐるぐる考えて答えが出ない。
自分は彼女にどうなってほしい?
幸せになってほしい。
幸せってなに?彼女にとって幸せってどんなこと?
いくら話しても考えても答えが出ない。
恋とはこれほどまでに汚らわしくて、貪欲なものなのか。
僕が彼女を幸せに?烏滸がましいにも程がある。
僕には彼女を救う言葉の一つすらかけてやれない。
彼女の苦しみをこれっぽっちも理解してやれない。
今日も僕はこの汚れた感情を胸に彼女と話す。
きっとお互いに本音は隠したまま当たり障りのない話をする。
ああ、まるで壊れた人形同士の戯れだ、とそう思った。
二人のその後はどうなっていくのか
是非自由な発想で続きを想像してみてください