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第19話 お引越し



「この日が来るのは分かっていました。ルトリア殿下、今までお世話になりました。ケテラさんとお幸せに」


「うん? 何を言っているんだ? 引越しの準備の話だぞ」


「え? 私は王宮から追い出されるんですよね?」


「どうしてそんな話になる? 急な話ですまないが、この王都アルトヒルデの北にあるノイエヒルデという都市に王都を移す事になったんだ」


「王都を移す? ちょっと意味が分かりませんけど」


 どうも話が見えてこない。

 ルトリア殿下の表情を見る限りだと私に対して特に悪い感情を持っている様子はなさそうだ。


「実は君を完全な人間にする方法が見つかったんだ。だがそれを実行する為には副作用があってね……具体的には王都付近に大地震が起きるらしい。だからその前に遷都をする事になったんだ」


 王都で地震が起きる?

 そう言えば私を完全な人間にすると王都で大地震が起きると女神様が言っていたのを思い出した。


「ひょっとしてここ最近ルトリア殿下がご不在だったのはそれを調べていたんですか?」


「ああ、クリフォート家は古代魔術研究の名家でね。公爵が保管している古文書から獣を人の姿に変えるという魔術が見つかったんだ。ケテラもああ見えて義理堅い娘でね。セフィロで君の力に助けられた恩返しにと、古代魔術の調査を快く引き受けてくれたよ」


「じゃあ殿下がセフィロで楽しそうにケテラとお話をされていたのは……」


「なんだ見てたのか。声をかけてくれても良かったのに。もちろん君を人間の姿にする方法の調査についての打ち合わせをしていたんだ。あの後私も直ぐに調査に向かう事になってね。翌朝一言伝えてから出発しようと思ったのだがリナ嬢が中々目を覚まさなかったのでそのまま出てしまって……すまなかった」


「はあ……」


 なんて紛らわしい。


 ちゃんと事情を話してくれれば私はこんなに心を痛める事もなかったのに。

 報連相は大事よ。


 でもちょっと待って。


 だとしたらあの日ケテラに向けていたと思われるルトリア殿下の微笑みは、私を人間の姿にする為の算段がついた事による感情の表れ、つまり私を想っての微笑みだったってこと?


 いやおかしい。

 そもそもルトリア殿下が好きなのは人間の私ではなく馬の私のはずだ。


 私が完全な人間になってしまえば殿下は二度と馬になった私の背に乗れなくなる。

 それなのにどうして私を人間にしようとするのだろう。


 私は無意識の内にルトリア殿下に質問を投げかけていた。


「殿下はどうして私にそこまでしてくれるんですか? 私もう馬じゃなくなりますよ?」


 ルトリア殿下は私の質問に意外そうに驚いた顔をして答える。


「リナ嬢、君はずっと完全な人間に戻りたかったのだろう? 確かに私は馬が好きだが、君は私の事を自分の愛する女性が悩んでいるのに救いの手を差し伸べずに自分の欲望を優先するような男だと思っていたのか?」


「愛するって……えっ!?」


 思いもよらなかった言葉を耳にした私は言葉の意味を理解するのが追いつかずに固まってしまった。


 ルトリア殿下は思わず漏らしてしまった本音に頬を赤らめながら姿勢を正して言った。


「その……なんだ。こんなタイミングで言うのも恩着せがましいようで卑怯かもしれないが……君を完全な人間にする事ができた暁には我が伴侶となって貰いたいと思っている」


「ええっ!?」


 これは間違いなくプロポーズだ。

 しっかりと応えなきゃ。

 そう、前世で散々シミュレーションをした通りに落ち着いて返事をすればいい。

 まずは人という文字を掌に三回書いて……ごっくん。

 ヨシ!


「は、はい。ふつつか者ですが末長く宜しくお願いします!」


 脳みそがオーバーヒート状態の私は訳が分からないまま二つ返事で殿下のプロポーズを受けてしまった。


「そうか受けてくれるか。……だが返事は魔術が成功してからで良かったのだが」


「あ、そっか。そうですね、あはははは」


 フライングもいいところだ。


 ああ、恥ずかしい。


 私は笑って誤魔化すしかなかった。


「でも殿下、私なんかの為に遷都までして大丈夫なんですか?」


「実はこの王都は王国の最南端に位置する為に近隣の都市から距離があって移動するのが不便でね。先日の宿場町セフィロの魔物の襲撃もそうだが、王国の中央に位置するノイエヒルデに都を移せば往来の際に魔物の襲撃に遭う確率も大幅に減るだろう。……と父上を説得した」


 アルティスタン王国は元々はこの王都アルトヒルデ付近に誕生した小国だったが、長い年月でその領土を北へと広げていった結果現在のような形になったという。


「なるほど、あくまで国益を考慮した上で遷都を提言したという事にした訳ですね」


「まあ父上も私の本当の目的には気付いていたようだが」


 そう言ってルトリア殿下ははにかんだ笑顔を見せた。


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