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保育るくる  作者: 荒木かかし
2/2

第二章 オリエンテーション

 早朝五時、天気は晴れ、小雪はスマホのアラームで目覚めると、すぐに立ち上がって全身を伸ばしストレッチを行った。そして運動着に着替え外靴を入て外に出た。早起きの年寄りやスポーツ選手やダイエット目的で犬のペットと一緒に走るおばさんなどと混じってランニングをした。三十分から一時間のランニングを終えると、帰宅しシャワーを浴びた。髪の毛をドライヤーで少々乾かし後は自然乾燥させた。その間、ピアノの練習を始めた。髪が乾くと本屋で買った保育士の要点ブックを読んで予習した。


よーし、ここまでは完璧ね。最後にiPhoneから流れるクラシックを聞きながらご飯を食べ、歯磨きをしてから登校。これが私の素晴らしい日常よ。

小雪はこの日課を毎日やろうと決めた。

今日の朝は菜乃花の彼氏から貰ったトースターでパンを焼き、パンの上に黒胡椒のかかったベーコンとアスパラと半熟目玉焼きを乗せた。それと栄養のためにミニトマト二個とレタス一枚を入れた。

えーと、今日の授業内容は……オリエンテーションだったっけ。

 小雪は学校から送られた資料を見た。

「通常授業開始は九時から、朝の会は八時三十分から行われる。オリエンテーションの日は八時集合とする!?」

そうか、オリエンテーションだから授業の日と違って三十分早いんだった。

小雪はトースターで焼いてから時間が経って少し冷めたパンを咥えて

急いで走りながら学校に向かった。

「遅刻、遅刻~!!」

 すると、曲がり角を曲がる時にチリチリとした髪の背の高い男とぶつかってしまったた。

「……いてぇなー、気を付けろよ!急いでいるんだからよ!」

「ごっ、ごめんなさい」

 小雪は落ちたパンをビニール袋に入れて再び学校へた向かった。男は小雪の前をずっと走っていた。

 なんだろう。このベタな展開、この男の人も遅刻かな?向かっている方向は一緒だけど。

 小雪は急いだおかげで何とか間に合った。男も同じ学校同じ教室にいた。

本当にいるし……ていうかこう言うのって普通は転校生とかじゃないいの?

 男の名前は乃村智也、菜摘の右隣の席にいる。

「遅かったね小雪」

 千花は言った。

「うん、でも何とか間に合ったよ」

「遅かったな!小雪のことだからオリエンテーションの時間が早まることにギリギリになって気付いたんだろう」

 バレてる。どんだけ私を知り尽くしているんだ。

「うるさい光、黙りなさい」

光と睨み合っていると、中谷先生が教室に入ってきた。立ち上がっている学生は急いで自分の席に座った。

「皆さん、おはようございます。今日はこれからオリエンテーションがあります。予定では午前中は体育館で先生の紹介と学生同士の距離を縮めるための企画を行います。昼食は体育館で食べます。午後からは各自教室でプレゼンステーションを行います」

一組から二列で体育館に向かった。四人の先生の前に総勢八十名の学生は体育座りになった。

「皆さん、おはようございます。これよりオリエンテーションを開催します」

先生の中で唯一の男性は大きな声で言った。

「まずは先生方の自己紹介をしたいと思います。それでは一組から順にいきましょう」

 髪の長い金髪の外国人の女性は喉を鳴らした。

「おはようございます。私の名前はストロベリー・アンダーソン、アメリカ出身です」

ストロベリーは日本語がかなり上手である。

「皆さんとは仲良くしていきたいです。親しみが沸くように私のことはイチゴ先生と呼んでください。授業は英語を請け負っています。よろしくお願いします」

 学生から拍手が鳴った。鳴り終わると二組の担任にバトンが渡された。

「二組の中谷と申します。皆さんとは栄養の授業で関わることになります。趣味はスポーツで昔水泳をやっていたので休みの日はジムで水泳をしたり海で泳いだりしています。よろしくお願いします」

 拍手が鳴り終わり三組の担任にバトンが渡された。小雪と同じく長髪でメガネを掛けている。メガネの色は赤。

「窪田です。音楽の授業を請け負っています。音大出身でピアノのコンクールで何度か賞を貰ったことがあります。よろしくお願いします」

最後にショートヘアの男性にバトンが渡った。

「四組の担任の藤田と言います。中学から大学まで体操部でした。

授業は体育をやっていて、保育園で働いていた時も子ども達とよく追い掛けっこをして遊んでいました。これから二年間一緒に楽しく学びましょう。よろしくお願いします」

 拍手が鳴り終わると学生を全員立ち上がらせた。藤田先生がオリエンテーションで学生の距離を縮めるためにあることを始めようとした。

「はーい、それでは皆さん『猛獣狩り』を始めたいと思います。ルールは知っているかな?動物の文字数と同じ人数でグループを作れたグループは座れるというゲームです。まず先生が『猛獣狩りに行こうよ』と言います。そしたら学生は同じように『猛獣狩りに行こうよ』と言います。この後に先生が言うセリフは全て繰り返して言います」

  藤田先生は動作も合わせてやった。

「次に『猛獣なんて怖くない』と言って『槍だって持ってるし』、『鉄砲だって持ってるもん』と言います。そして『あっ!ああぁ!!』と驚き動物を見つけます。その見つけた動物の文字数で学生はグループを作って行きます。それでは始めて行きます」

  私も小さい頃よくやったな。グループななったお友達と話して仲良くなったんだっけ。

「猛獣狩りに行こうよ!」

「猛獣狩りに行こうよ!」

「猛獣なんて怖くない!」

「猛獣なんて怖くない!」

「槍だって持ってるし!」

「槍だって持ってるし!」

「鉄砲だって持ってるもん!」

「鉄砲だって持ってるもん!」

「あっ!」

「あっ!」

「ああぁー!!」

「カマキリ、四文字だから三人でグループを作ってね」

学生は四人ずつでグループを作った。

「偶然一緒になったね」

 菜摘は千花に言った。

なんで私は三人とも男の子なんだよ。しかも光がいるし。

 光は小雪がガッカリしている姿をみて嘲笑っていた。

 その後マントヒヒ、オオアリクイ、コウテイペンギンと続いたが、小雪は男の子ばかりのグループに入っていた。

 結局女の子とは一度も話せなかった。まぁ、男の子とも話してないだけどね。私を放っといて話すんだもの。

「『猛獣狩り』でみんなの顔をよく覚えたんじゃないかな?でも中には上手く話せなかった子もいるんじゃないかな?でも大丈夫。なぜなら君達は始まったばかりなのだから。少しずつ仲良くなっていけばいいさ」

「皆さん、じゃあ次は私の番ね、次からは楽しく運動しようと思うよ」

 中谷先生は子ども口調で言った。

「みんなとの楽しく関わる運動、それは『じゃんけん列車』、この体育館で『じゃんけん列車』をやりたいと思います!!」

 じゃんけん列車は運動なのか。

陸はそう思った。

「ルールを説明するよ。『じゃんけん列車』は、音楽が鳴っている間は自由に動けるよ。音楽が止まったら、近くにいる友達とじゃんけんをするよ。じゃんけんに負けた人は、じゃんけんに勝った人の後ろについて肩に両手をかけてね。これを繰り返してどんどん列を長くしていき、最後に列の先頭になった人が優勝だよ。ちなみにだけど、じゃんけんの人数が奇数で相手が見つからなかった場合はお休みとなります」

学生は八十名だから十人グループになった時に二回奇数がある。音楽が鳴る回数は合計で七回か。

智也は頭の中で計算した。

学生は「猛獣狩り」と同様に体育館全体にばらついた。

「じゃあ始めるよ!」

 iPadから流れる音楽は爽快なものが流れた。

 音楽が流れている間、学生は色んな所を歩き回っていた。そして音楽が鳴り止むと近くにいる学生同士でじゃんけんが始まった。

 小雪は近くの男子とじゃんけんをして負けてしまった。

一回目で負けるなんて、なんか今日の私ってついてないな。今日の占い見てなかったけど、恐らく酷かったんだろうな。

二回目からは列車の先頭の学生は手を列車のように動かしていた。そして繰り返して徐々に列車が長くなり、最後に勝ち残ったのは光だった。

「よっしゃー!!」

「おめでとうございます。ではお名前と今後の目標をマイクに向かってどうぞ」

「一年二組の緒方光です。立派な保育士目指して頑張ります」

 学生達は光に盛大な拍手を贈った。

 よりにもよって光が優勝とは憎たらしい奴め。

 小雪は睨み付けながら思った。

「はーい、それでは列車が繋がった状態のままで、今から『ジェンカ』をやります」

 先生達は舞台に上がり、一組のイチゴ先生を先頭に肩に手を置いた。

「それじゃあ躍り方を説明するよ。『ジェンカ』は4/4拍子、まず右足で二回ホップをする。その時に左足を左斜め前に出す。こんな風にね。その後は左足でホップしながら右足を斜め前に出す。そして両足をリズムに合わせてそろえてジャンプする。前にジャンプ、後ろにジャンプ、最後に前へジャンプを三回行って前進する。一呼吸休んだら最初から繰り返すよ」

 先生達は学生に足の動きがわかるように説明の度に左右を入れ換えた。

 「それじゃあよーいスタート!」

 音楽がなると学生音楽をよく聞きながらリズムよく踊り出した。音楽が鳴り止むと学生達は踊る前に比べて笑顔が増していた。

じゃんけんに負けたけど、ジェンカで楽しく踊れたからよかった。

小雪はそう思った。

「このように保育に『じゃんけん列車』を取り入れれば、友達と関わる機会作りになったり、列になる楽しさを友だちと共有したりして遊ぶことができます。さらに先程のように応用して「ジェンカ」をして楽しむことができるのでぜひ保育園でも活用してみてください」

 すごい、先生達はしっかりと目的を持ってやっているんだ。一つ一つのことが保育に繋がっているんだ。

 千花は関心していた。

「はい、次は私の番ですね」

 学生はイチゴ先生に注目した。

「子どもはね、とにかく運動が大好きで、ダンスをするとみんなノリノリで踊ってくれるんだよ。私もよくアメリカで踊っていました。ヒップホップにジャズにバレエに社交ダンス、ジャンルは様々なです。知り合いのメンバーでダンスチームも結成しています」

 突然辺りが暗くなりいつの間にか体育館の天井に取り付けられていたミラーボールがきらびやかに輝いた。そしてリズミカルな音楽が鳴りイチゴ先生はホップなリズムを刻んで踊り出した。

「さあ!みんな、let’s dancing!」

 学生はイチゴ先生に合わせて踊り出した。一曲約十分の曲を三曲ほど踊った。

「ダンスはね、子どもの成長にとても良い影響を与えるよ。さっき見たいに先生の真似をしながら踊ることで『見る力』と『聴く力』が養われるんだ」

 イチゴ先生のダンス後、十分間の小休憩が挟まれた。

「タオルでよく体を拭いてください。休憩後にはまたここに集まってくださいね」

 なるほど、激しい運動をした後は子ども達の着替えやトイレに連れて行ったりするんだな。

 光は自分が保育園で働いていることを想像しながら思った。

休憩後は窪田先生の本領が発揮された。グランドピアノが体育館中央に置かれ子ども向けの曲を弾いてみんなで歌うのかと思っていたが違っていた。音大時代に弾いたショパン「幻想即興曲」を力強い音を響かせながら演奏した。

学生達はただただその凄さに魅了されていた。曲が終わり盛大な握手が響いている時、窪田先生は全身汗だくになっていた。

そしてそのまま阿吽の呼吸のごとく次の曲を弾いた。卒業式でよく歌われる「旅立ちの日に」である。学生達は一斉に歌いだした。ここにいる人達で打ち合わせをしてないのに一人一人がソプラノ、アルト、テノールに綺麗に分かれていた。

 この曲はみんな小中高の卒業式に歌ったから覚えているんだよね。だから窪田先生はこの曲を選んだんだ。

 小雪はそう思った。

 誰もが昔の思い出を振り返っていた。学生の中には感動のあまり涙を流す者もいた。

「ごめんね、みんなが共通で歌える曲っていえばこの『旅立ちの日』なのかなって思ったの。入学したばかりなのに卒業式の歌を歌うってなんか変だったでしょう」

 たしかにそうだ。でも、楽しかったな。

 菜摘はそう思った。 

 昼食は体育館で弁当が支給された。午後からのオリエンテーションは各自教室で行う予定である。そのため弁当を受け取るとすぐに教室に行く学生もいた。高校までスポーツ一筋でやっていた学生達は三十分後には体育館を開放すると言われたため体育館の床で食べていた。小雪は千花と菜摘とただ何となく体育館で食べていた。

「この後バスケでもする?」

「運動は苦手な方でね」

 千花は菜摘に言った。

「よっしゃあぁー!!バスケするぞおぉ~!!」

 光はバナナを食べながら大声で叫んだ。

「ボール持ってきたぞ」

 智也は光に言った。

「おー、よっしゃやるか!」

 光は手に持っているバナナの皮を床に投げ捨てた。そのバナナの皮に気付かずに歩いていた小雪はそのまま踏んでしまったため滑って転んでしまった。

「いててて……光、あんたねぇ!!」

「へへへ、わりいわりい」

 光はバナナの皮を拾った後にバスケをやりに行った。

パンを食わえながら走ったりバナナの皮で滑ったりとベタな女だな。

 智也はそう思った。

 午後のオリエンテーションの時間になった。午後からは各教室で

プレゼンステーションを行う。

「それではこれより一年二組でプレゼンテーションを行います。グループ分けは先程くじで決めたメンバーで行います。まずは一人ずつ自己紹介をしましょう」

 グループは三つに分かれた。二組は二十名なので六、七、七の数で分かれることになった。それ以上グループを作ると、限られた時間で進行する故に一グループずつに当てられた発表時間を削らなければいけなくなるため三グループ画妥当だと中谷先生は判断した。また、男女比は片寄りがないように三、四で分けている。各班は机をくっ付けて話し合いが行われる。

小雪は六名のグループに入った。グループには千花と菜摘と光と智也と陸がいる。

「まずは司会を一人決めてください。そしてそれぞれ自己紹介をしましょう。その後に今回のプレゼンテーションの議題を話し合いましょう。今回のテーマは『高校生に保育士を薦める方法について』です」

 中谷先生が話した後に各グループで話し合いが行われた。

「まずは司会を決めようか」菜摘は言った。

「どうやって決める?」智也は言った。

「立候補でいいんじゃないかな?」千花は言った。

「やりたい人いる?」光は言った。

 誰も手を挙げなかった。陸はやりたい気持ちはあったが勇気がなかったため手を引っ込めた。

 やっぱり誰もいないか、そりゃそうだよね。

 小雪はそう思った。

「やっぱりここはじゃんけんにしよう」小雪は言った。

「じゃんけんでいいのか?これから俺達は子どもを指導する先生になるんだぞ。もっと合理的なやり方がいいんじゃないか?」光は言った。

「すぐにじゃんけんに頼るのは日本人の悪い部分だってテレビで言ってたぞ」智也は言った。

「じゃあどうする?」

「くじ引きは?」千花は言った。

「くじ引きで決める程のことじゃないよ。効率を考えたらじゃんけんの方がいい」菜摘は言った。

「指名制は?」智也は言った。

「俺達は初めて顔合わせするんだ。相手のことをよく知りもしないで指名するのは失礼だ。もっとも俺は小雪には絶対に指名しないがな」

「ちょっと光!何よそれ!」


「君はどうかな?」千花は陸に言った。

「えっ、えぇと……」陸は口が回らなく黙ってしまった。

「他の班はとっくに自己紹介してるぞ」智也は言った。

「やっぱりここはじゃんけんにしないか?」光は言った。

「あんたがじゃんけんは嫌だって言ったから長引いたんでしょう」

「うるさいな小雪、細かいことをいちいち言うなよ!」

「二人とも喧嘩するなよ」菜摘は言った。

「喧嘩するほど仲が良いって言うよね」千花は言った。

「仲良くなーい!!」小雪と光は大声で言った。

 小雪の班は結局じゃんけんで司会を決めることとなった。司会は一発負けをした小雪に決まった。

「お前、じゃんけん弱いな」光は言った。

 小雪は顔を真っ赤にして悔しがった。

 これもベタだな。

 智也はそう思った。

「じゃあまずは自己紹介ね。司会の私からでいいよね。私は栗原小雪……あっ、そういえばなに話すか決めてなかったよね?」

「高校の部活なにやってたとか、出身地とかでいいんじゃないか?話したい人は趣味とか好きなこと話してもいいし」菜摘は言った。

「そっ、そうだね。出身は神奈川で部活はバドミントンをやってました。よろしくお願いします」

 小さくペコリとお辞儀をした。

「じゃあ私から時計回りということで、次は千花ね」

「はーい、私は斎藤千花、出身はここ都内で、茶道部をやっていました。気軽に話し掛けてください」

「えーと、それじゃあ何か質問した方がいいよね」光は言った。

「質問ね……」菜摘は困り果てながら言った。

 なんでみんなそんなに真剣に悩むの?私には何も興味がなかったのに。

 小雪は動揺していた。

「なぁ、質問とかはまた違う機会にしないか?主旨はプレゼンテーションだろ?」智也は言った。

「それもそうだね。じゃあ次は私の番ね。私は森下菜摘、出身は新潟で小雪と同じでバドミントンをやっていたよ」

「俺は乃村智也、福岡県出身でサッカー部をやっていた。趣味は旅行で家族と長崎のハウステンボスを何度も行った。俺はここで保育を学んで保育士になる。それが俺のここでの目標だ」

 みんなそうじゃないかと陸は思った。

「次、よろしく」智也は陸に言った。

「あっえぇと、近藤陸です。北海道から来ました。美術部でした」

「北海道のどこ?」菜摘は言った。

「札幌です」

「どんなイラストを描くの?」千花は言った。

「バトル漫画の主人公とかかな」

 なんでぼくの時だけこんなに質問が飛び込んでくるんだよ。てゆうか質問はしないんじゃなかったのかよ。

「おいおいそんなに質問すると可愛そうだろうが。それに俺がまだ終わってないぞ」光は言った。

「あんたしなくてもいいんじゃん」小雪は言った。

「なんでだよ!というわけで自己紹介するぜ。俺は緒方光、察しの通りこいつと幼なじみだ。陸上部をやっていた。マラソン大会はほとんど一位だった」

「聞いてないっての」小雪は言った。

「なんだよ!」

 小雪と光は睨みあった。

「いいからとっとと議題に進んでくれよ。自己紹介は終わったぞ司会さん」智也は言った。

「そっ、そうだね。じゃあ、今回の議題は……なんだっけ?」

「『高校生に保育士を薦める方法について』だよ小雪」千花は小声で言った。

「そっ、そうだったね。あはは」

この司会者で大丈夫なのか?

 陸はそう思った。

「まずは一人一人の意見を聞いていこうかな。考える時間は必要?」

「みんな自己紹介の時に考えたと思うよ。私はそうだから」菜摘は言った。

「そんな大層なことなんて考えちゃいないが、もっと直感のような考えを出していこうぜ。硬い硬い」光は言った。

「じゃあ光から意見をどうぞ」

「俺かよ。まぁ言い出しっぺだしな……えーと、保育士は資格が取れる。国家資格で一生もの。というのはどうだ?」

「ふむふむなるほど」千花は紙に書きながら言った。

「あっ、書記は私やるよ千花」

「いいのいいの。私は癖でやってしまうから。小雪は司会に集中して」

「……えーと、じゃあ他になにかある人は?」

「子どもと楽しく遊べる仕事ってのは?」菜摘は言った。

「それだと遊んでいるだけみたいに捉えられてよくないんじゃないかな?」智也は言った。

「私いいかな。保育士資格を取得すると保育園だけじゃなく福祉施設でも保育士として働くことができる……というのはどうかな?」千花は言った。

「それって別に保育士に限ったことじゃないんじゃないか?いまいちこうパンチが足りないというかなんというか」智也は言った。

「そういうあなたは何かあるの?」菜摘は言った。

「……ピアノが学べるとか」智也は言った。

「私達と変わらないじゃん」菜摘は言った。

「でもピアノって他の職種であまり使わないだろ」

「小雪はどうなの?」千花は言った。

「えーと、保護者から色んなお菓子が貰える……なんてのは?」

「却下だな」光は言うと、周りにいた人は賛同した。

 小雪はショックを受けた。

「お前はどうなんだ?」智也は陸に言った。

「えっ?」

「まだ意見を出してないだろう。自分だけ出さないなんてのは無しだぞ」光は言った。

「僕は……」陸は考えた。

 俺はなんで保育士になろうと思ったんだっけ?たしか高三の部活を引退した後の祭りことだ。なんとなく俺はプロ野球選手になれると信じていた。俺がなるって決めたからそういう仕事ができることは当然なのかと思っていた。いや、思うようにしていた。いくつもの敗北を信じないで目を逸らしていた。そして本当になれないという現実に直面すると、何もやる気になれずただひたすら家に引きこもるようになった。

ただ高校を卒業したら働かないわけにも行かなかったので、親や高校の先生にはそれなりに進路のことを考えていると言った。テキトーに何かの仕事をしていよう。そう、テキトーにね。できれば楽して稼ぎたいな。辛い仕事はしたくないな。楽な仕事ってなんだろう?

 平日で学校のないある日、陸は路頭に迷い電車で少し離れた街に行っていた。家にいても親が勉強しろとうるさいので、図書館で勉強すると嘘をついた。

陸は来たことのない道を歩き続けた。見たことない景色で面白そうな公園を見つける度、小さい頃に遊んでいたことを思い出していた。

最後に別の公園に立ち寄ろうとしたが、そこは保育園の運動場のため関係者以外は入ることができない場所だった。運動場にはたくさんの子どもが楽しく遊んでいた。

「おもしろ保育園?」

 なんだその名前は?保育園が面白い?どういうことだ?

 陸は子どもと楽しく関わる保育園の先生を見た。

保育士か……保育士って楽そうだな。子どもと関わるのって楽しそうだ。よしっ、決めた。保育士になろう。これがきっかけだった。

理由はなんであれ、俺は野球に全力を注いだ時のように保育士になって保育という仕事を全力で頑張りたいと思う。だってもっと頑張ればよかったなんて後悔したくないから。

「ほっ、保育士は資格を取得することで仕事以外でも日常で役立つ基礎知識が身に付けられるんだ」

「どういうことだ?」智也は陸に言った

「例えば保育の勉強には子育てや生活習習慣がある。保育を学ぶことで

自分で考えてアレンジすることや部屋の模様替えやお菓子作りをより楽しく応用できたりするようになるんだ。新しいことを日常に取り入れるとより豊かにすることができる。だから保育は学んだ方がいい!」

 僕の熱弁が終わると五人は黙り込んでいた。他の班の話し声だけ聞こえた。

「……どうかな?」

「それいいね。仕事以外ってところが他の国家資格とも比較対象になっている」千花は言った。

「うん、それなら高校生にも興味持ってくれるんじゃないかな?」菜摘は言った。

「さすがだな陸」智也は言った。

「悔しいけど陸の方が一歩上手だな」光は言った。

「じゃあ私達の班は近藤さんの意見ということでよろしいでしょうか?」

 反対意見はなかった。まさか自分の意見が通るなんて思いもしなかった。

 俺はあの保育園を見た後すぐに家に戻って保育士について調べた。そしたら全然楽な仕事じゃないことに気付いた。でもまた野球をやっていた時のように夢中になれる気がするんだ。

 話し合いの時間が終わり、小雪は教室の前に出て班ででた内容を発表した。

「ふむふむなるほどね」

中谷先生はなんであんなに必死こいてメモっているんだ?

 菜摘そう思った。

「よしっ、これを今度のオリエンテーションで……じゃなくて」

いま本音を漏らしてなかった?

 小雪はそう思った。

「これを参考に皆さんも改めてここに来た理由を知れたのではないでしょうか?なぜこの話し合いをしたかといいますと……皆さんには明日の帰りの会までにこの学校で何の資格を取得するのか考えて来てほしいからです」

 えぇー、いきなり決めるの?いったいどうすればいいの?

 小雪と他の学生達は動揺してしまった。






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