世界滅亡
暖かな日の光と、冬の冷涼な空気に満ちた閑静な住宅街。
河山幸人は、無表情でそこを歩いていた。
同じような天気、同じような勉強、同じようななれ合い。同じような毎日。
何もかもが変わらない。毎日が単調でつまらなすぎる。
ある人は、「毎日どこかが変わっている。同じような日なんてない」と言っていた。
ならばなぜ、幸人はこうも毎日に飽き飽きしているのだろうか?毎日何かの変化があれば、退屈するわけがないはずだ。
住宅街を抜けて、公園を横切ろうとした時、不意に自動販売機が目に入り足を止める。
別に喉は乾いていないが、久しぶりにジュースを飲んでもいいかもしれない。
幸人は、自身のショルダーバッグから財布を引き抜き、そこから取り出した電子マネーで炭酸飲料を購入した。
投入口に落ちてきたアルミ缶を手に取り、プルタブを押し開けた。プシュッという炭酸独特の音がした。
2口飲むと、「人工的な甘さだ」という感想が頭に浮かんだ。特に感動はなかった。
それから一気に飲み干して、そばのゴミ箱に投げ捨て、何となく上を見上げる。
輝く太陽、青い青い空、無数の電柱とそこから伸びる電線。
何て単調なのだと思った。
決して、未曽有のパンデミックや天変地異が起きてほしいわけではない。
ただ、あまりにも平和すぎる。
空の景色さえも無味で、見ているうちにため息が出てしまう。
いっそのこと、どこかの建物の屋上に登って、そこから飛び降りてしまおうか。
幸人は自殺をしたことがないので分からないが、自殺は案外気持ちが良いらしい。
それが本当ならば、つまらない人生を終わりにすることと引き換えに、最高の快楽を得ることもありなのかもしれない。
もしくは、「異世界」に行くために、走行中のトラックに轢きつぶしてもらおうか。
異世界に行けば、最強の能力を与えられて、周囲からもてはやされて、突然出現した少女たちに脳死で恋心を抱かれて、自己顕示欲や性欲、その他全てを満たせるようになるのだろう。
仮にそんな世界が存在するのであれば、こんな肉体などとっとと捨てても構わない気がする。
「・・・」
幸人は自嘲するかのように首を振った。
自殺する気がないくせに、トラックに轢かれる勇気さえもないくせに、何をいつまで同じことを考えているのか。
もう家に帰ろう。
視線を前に向けて、片足を前に持ち上げようとした時だった。
幸人の耳に、何かが降下する音が聞こえた。
次いで、凄まじい轟音が響き、無意識のうちに両耳をふさいだ。
足元が大きく揺れたのを感じた。
音は住宅街の方から聞こえた。
幸人が無意識にそこに駆け寄ると、大量になぎ倒されている家が見えた。
そんな家の中心には、ソフトボール程度の大きさの穴が開いており、穴の周囲には、丸みを帯びた大きめの石の破片が散らばっていた。
再度、降下音が上空から響き、咄嗟に空を見上げる。
歪な形の物体が、はるか彼方に猛スピードで降下しているのが分かった。
あれは・・・恐らく隕石だと思う。
実物を見るのは初めてだが、直観的にそう思った。
視線を少しずらすと、別の隕石が目に映った。
同様に目を動かすと、今度は4つの隕石が見えて、その瞬間、隕石の衝突音がはるか遠くで響いた。
体を少しだけ引いて、空全体を見る。
「・・・」
平淡な青空は、大小様々な隕石で埋め尽くされていた。
隕石が地上に、目を見開いた状態で立ち尽くす幸人に近づいてくる。
隕石のデコボコとした表面がドアップで映った瞬間。
幸人の意識はフッ飛び、世界は爆音に包み込まれた。