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俺たちは勇者じゃない  作者: 陶子
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Side story _クルサーティリ防衛線_04

「アヴァンドルヒは動かん。今日の軍議で、それだけはよく分かった。」

 ザインは言った。濡らした麻布で何度も体を拭いながらの事だった。

 やはりそうか、というようにみなが溜息をつく。このグンナルの砦の雰囲気がおかしい事を、将聖ですら薄々感じ取っていた。

「『動かん』というのは、これまでと同様群れが砦に最接近するまで、ただここに座って待ち構えるというやり方を続けるという意味ですか?」

 ロドハルトが確かめるように問いかけた。ザインは「そうだ」と言う代わりに肩をすくめ、肯定して見せた。

「罠を張るなり投石器で岩をぶち込むなりして、途中で敵の数を削ぐくらいの手を講じる気はないんですか? 地の利に頼り過ぎて、あれ程の群れが足元に接近するまで動かないというのは無策に過ぎます。」

 ロドハルトの声は苛立っている。それを落ち着かせるように、静かな口調でルグフリートが尋ねた。

「対岸の森の木の伐採については、何と言っていたのですか?」

 ロドハルトもルグフリートも、髪が濡れこざっぱりとした姿になっていた。ルグフリートは天幕の外に(しつら)えた(かまど)から鍋を運んできて、沸かした湯を水桶に移し替えている。今はザインとイザクシルと将聖が、積み重ねた石の上に板を並べただけの台の上に水桶を乗せ、適温まで薄められた湯で汗を拭っていた。

 ザインは首を振った。

「やる気はないな。『長い防衛戦に疲れ切っているグンナル騎士団の騎士が、伐採中に魔物に襲われて死んだらどうするつもりだ』の一点張りだ。まあ、俺たち六人が勝手にそれをするなら、止めるつもりはないとも言っているがな。」

 ロドハルトの隣に座り、防具の汚れを拭き取っていたナダルナニエが、聞いてきっとした視線をザインに向けた。麻布をしぼる将聖の両腕にも、いらぬ力が入る。日本の攻城戦で例えるなら「戦略的に正しい事は認めるが、気乗りしない。やりたいならお前ら六人だけで堀を埋めて来い」と言われたのも同然だからだ。

「アヴァンドルヒ殿は魔物を見た事がないのですか? 大人しく座って待っていれば、彼らが立ち去ってくれるとでも思っているのでしょうか。」

 ナダルナニエが言った。彼にしてはかなり辛辣な口調だった。

「頭はまだあの首の上についているうちに使うべきでしょうに。」

 ほんの一瞬だけ、ザインはにやりと口元を歪めた。

「あいつの頭の中は、高級娼館の女たちと、酒とカードの事ばかりさ。昨日通じた賭博(ギャンブル)の手口が、今日も明日も明後日も使えるものと信じ込んでいる。アヴァンドルヒにとって、今は絶好の機会なんだ。俺たちを利用して、帝都(ティオキリアス)にも喧伝できるような殊勲を挙げようと必死になっているのさ。しかも、こっちはもうあいつの腹積もりはお見通しだというのに、スルヴェヒトをけしかけて揺さぶりをかけ、数で追い打ちをかければ俺たちを手玉にとれると思っているんだからな。今日も議席に『市のお偉方』とやらを大勢(はべ)らせていたよ。あいつらにどんな利便を図ってやっているのかは知らんがな。」

 ザインが声を落とさなかったので将聖は少しヒヤリとしたが、他の者たちは額を押さえたり天井を仰いだりと、それぞれに反応しただけだった。ルグフリートがずっと天幕の入り口近くに座っており、時折(かまど)の様子を見に外へ立っている。おそらくそれなりの理由があってそうしているのだろう。

 ザインは将聖たちのように渓谷へ降りて戦ったわけではないが、彼の鎖帷子(くさりかたびら)短衣(チュニック)も埃に塗れ、汗染みができていた。戦闘中はイザクシルと共に歩廊にあって、彼も矢を射たり石落としをしたりしていたのだと思われる。

 本当はそんな事をさせておいていい人ではない。エク・セドラス騎士団におけるザインの重要さを、将聖もちゃんと理解していた。

 「ザイン隊の隊長」ということにはなっているが、戦闘時の現場の指揮は副隊長のルグフリートが担当している。ザインは、領主の弟であるエリュースト卿の正式な名代である上、ヴァイズ・ルフスでその名を馳せた、エク・セドラス騎士団の誇る智将なのである。本来ならグンナル騎士団の上層部と共に中央(やぐら)の上に立ち、全体指揮に当たるのがその任務であり、正しい姿であるはずなのだ。

 しかし、ザインは中央(やぐら)からは締め出されており、ザイン隊はグンナル騎士団が出陣する際の「露払い」の役割を担わされている。ネハール候が部隊を送るようエリュースト卿に命じたのは、グンナル騎士団単独の力だけでは魔物の大群を抑え込めず、クルサーティリ市の市長が増援を嘆願したからだが、それが(しゃく)に障ったのか、それともエリュースト卿がたった六名の小隊を送り込んだ事が気に食わなかったのか、グンナル騎士団団長のアヴァンドルヒはザイン隊を疎ましく思っている様子があった。

 軍議のたびに深くなる眉間の皺を見ても、自分たちには見えない場所で、この隊長がもっと苛酷な戦いをしていることが伝わってくる。

 ザインはこれまでその事をあからさまに口にしたことはなかったし、ルグフリートらも気づいていないように振舞っていた。だが、魔物の襲来のたびにザイン隊やファンフェルツ騎士団のフォルカ隊がルドガ大渓谷の谷底で迎撃するのに対し、グンナル騎士団の騎士たちはなかなか河原まで下りて来ることさえない。その多くが弓手(アーチャー)として胸壁上に留まっているのだ。

 そこに何かしらの悪意めいたものを、将聖さえも感じ取らずにはいられなかった。

 ――何とかしなければ……。俺に、何かできないのか?

 本当はそんな風に感じることさえ、おこがましいのかも知れない。だが将聖は他者にはない特別な能力(ちから)を持っているのだ。自分ももっと何かの役に立てないだろうかといつも思ってしまうのだった。

「俺たちは捨て駒ですか。」

 ロドハルトがゆっくりと肩を回しながら尋ねた。怪我人を運びながら魔物の相手をしたので、痛みがあるのだろう。その声には怒りが含まれていた。今日、ロドハルトが救った騎士たちはグンナル騎士団の所属だった。彼らにこれほど貢献してやってもその功績を認めようとはせず、かえって犬死を迫るような発言をされたのだから当然のことだ。

 とはいえ、その声は低く抑えられており、強い自制心を感じさせた。

「……まあ、残念ながら、そうとしか思えんな。」

 忌々し気なロドハルトの問いに、ザインは「耐えてくれ」と言うように苦笑いを浮かべてその顔を振り返った。

「いえ。俺はいいんです。俺はグンナル騎士団所属ではありませんから。もっと無茶ぶりを要求してくる上官も知っていますしね。」

 ザインの表情に気づいて、ロドハルトは笑顔になった。その「無茶ぶりを言う上官」がひょい、と眉を上げ、ルグフリートたちが軽い笑い声をあげる。

 しかし、ロドハルトの表情はすぐ真剣なものに戻った。

「俺たちを、王手をかけるまでの手駒扱いするのは向こうの勝手です。ただ、その怠慢の代償を支払っているのはあちらの配下の騎士たちも同じでしょう? 彼らの犠牲も当たり前だと思っているのですか? だとしたら、この戦場は危険すぎます。」

 天幕の中は静まり返った。彼の言葉の通りだからだ。

 グンナル騎士団の士気は落ちている。すでに街道からこの砦に本陣を移して数カ月になるというのに、いまだ襲撃のたびにどこか浮足立っているのもそのせいだろう。上層部がその撃退だけに注力していればこうはならなかっただろうに、「ザイン隊やフォルカ隊を捨て石にしたい、だがその目論見を誰にも気取られたくはない」とする方向に意識が行ってしまっているために、妙に腰が重く方針が定まらないのがその大きな要因となっている。弓手(アーチャー)ばかりを揃えて谷底への配置を小出しにするために、かえって被害を拡大している感さえあった。

 このままでは頃合いを見計らっているうちに、内部から騎士団が瓦解してしまう危険すらある。人数の少ないザイン隊が、その混乱に飲み込まれてしまいかねないということは、将聖も含めたその場にいる全員が深く危惧している事だった。

「ロディ。」

 ザインが言った。

「俺たちの仕事は、この砦に迫る魔物すべてを掃討することじゃない。それはこのクルサーティリを活動拠点とするグンナル騎士団がすべきことで、俺たちはそれを側面から支援していればいいだけなんだ。今後ますます悪い方向へ流れが向かっていくなら、俺はお前たちと一緒にここから引き揚げる。なあに、俺がお前ら全員の足を折れば、『戦闘不能』という言い分もちゃんと通るさ。」

「何だか今日一番、救いのない話を聞かされた気がします。」

「この天幕の中も安全ではないのか……。」

 ナダルナニエとロドハルトがぼやく。笑いの沸点の低いイザクシルは小刻みに肩を震わせており、ザインの頬もようやく緩んでいた。

 本当にザインが将聖たちの足を折るなどという事はあり得ない。

 それが分かっているから、将聖も一緒になってくすくすと笑った。

「しかし、この砦が砦として機能しなくなれば、エリュースト様やメドーシェンの仲間たちも窮地に立たされることになります。」

 声を上げたのはルグフリートだった。

「本当に、俺たちに出来る事は、何もないんですか?」

「元凶の鎧蜥蜴(ガーヒーク)を叩くことが出来れば、群れの移動の発生そのものを消し止められる。根本的な解決を望むなら、それが一番だと俺は思うが。」

 きらりと青い目を光らせて、ザインは訊き返した。

「……出来るか?」

「ご命令とあらば。」

 ルグフリートは即答した。ザインに向かって姿勢を正す。本気である事はその瞳の色からも見て取れた。

 将聖は黙って周囲を見渡した。ロドハルトはすでに新たな活力を得たように、ニイッと笑いながらザインを振り仰いでいる。ナダルナニエも困ったように肩をすくめてはいるが、口角が楽しそうに持ち上がっていた。いつも飄々としているイザクシルさえも、ぽりぽりと濡れた頭を掻きながら、空になった自分の矢筒の方を見ている。

 たった六人で内堀を埋めに行くくらいなら、直接城に攻め入った方がいい。

 みなの心の声が、聞こえてくるような気がした。

「……ただし、ヴァイラメッヒの森を突破するにはショーセの能力(ちから)が不可欠です。もしショーセが参加を拒否するならば、成功率は低いと言っておきます。」

 ルグフリートに名前を呼ばれ、将聖ははっと意識を二人に戻した。

 ザインが尋ねた。

「ショーセ。ルーはこう言っているが、お前は同行するか?」

「答えは正直に。ショーセ。」

 ナダルナニエが素早く口を挟む。

「これは無理強いされて出来る事ではありませんよ?」

「……行きます。」

 将聖は言った。

「この河原にいるのはもう嫌です。」

 イザクシルを含めた全員が、聞いて白い歯を見せた。余程正直に答え過ぎてしまったのかも知れない。

 自暴自棄になっているわけではない。「あんな谷底で魔物が降って来るのを待つくらいなら、ヴァイラメッヒの森に飛び込んでしまったほうがいい。余程安全に戦える気がする」という思いの方が強かったのだ。

 もう一つは、やはり「必要とされている」という事が嬉しかった。何でもいい。この小隊の力になりたい。そんな思いが将聖を突き動かしている。

「分かった。認められんが、お前たちの気持ちは分かった。」

 ザインは笑って首を振った。

鎧蜥蜴(ガーヒーク)には、手は出さん。あんなバケモノ、向こうから攻めて来るなら受けて立つが、危険を冒してまでこちらから仕掛けるつもりはない。さっきも言ったが、そういう事はグンナルの連中に任せておけばいいんだ。そんなことをしなくても、さっさと魔界域にお帰りいただければ、なおいいんだがな。」

 聞いてルグフリートは、(うなず)いてすぐに引き下がった。

 戦う覚悟は出来ている。

 そのことだけを、彼はザインに伝えたかったのだろう。

 彼は、無能でも冷酷でもない指揮官のザインが、敢えて無謀な作戦に隊員を送り出したりはしないということを知っている。しかし、手詰まり感のある今の状況を打開するために「必要とあらば、どんな苛酷な戦場であろうともそこへ赴く意志がある」と言っておきたかったのだ。

「俺たちは、鎧蜥蜴(ガーヒーク)には、手を出さん。」

「……?」

 ザインが同じ言葉を繰り返したので、将聖は水桶に戻していた視線を上げた。

「だが、俺がそう言ったくらいで安心するなよ?」

 ザインの青い目が、躍るようにきらりと光る。それを見て、将聖の胸が騒いだ。

 不安のせいではない。ようやく何かが動き出す予感がしたのだ。

 見ると、ルグフリートらも何かを期待するように、全員ザインを凝視していた。

「これから、お前たちを斥候部隊としてヴァイラメッヒの森に派遣する。極秘任務だ。グンナル騎士団に見つかるな。連中にはうちから二名、怪我人が出たと伝えることにする。グンナル騎士団の奴らは、ショーセを戦力と見做していないから、任務中に魔物の襲来があっても二人戦場に出ていれば気づかれることはないはずだ。」

「……ということは、ショーセのほか二名でヴァイラメッヒの森に入るという事ですか?」

 ルグフリートの質問にザインは首を振った。

「いや。全員で出てもらう。お前たちの代わりには、ファンフェルツ騎士団から騎士を借り受けることにした。」

「秘密保持は大丈夫なのですか?」

「あの騎士団から派遣された小隊の隊長は、俺の昔の部下なんだ、ダン。彼は信頼できる男だ。借りた二人はザックともう一人の代役ということにして、戦闘中は胸壁の上で参戦してもらおうと思っている。グンナルの連中に何と言われようが前線に出すつもりはない。必ず生きたまま返すと言ってあるしな。それで見破られる確率は下がるはずだ。」

「分かりました。」

 ナダルナニエが微笑んで(うなず)くと、ザインは髪の水気を拭き取っていた麻布を首にかけ、どっかりと天幕の中央の床几に腰を下ろした。

「では、今から任務の目的を話す。」

 そのまま聞け、と言うようにザインはイザクシルと将聖に合図をしたが、二人も大急ぎで自分の新しいシャツを手に取ると、床几の前に胡坐をかくルグフリートらの中に加わった。



 ひとしきり話し合いは終了し、穏やかな時間が流れていた。

 ザインから与えられた任務については、全員で疑問点がないか確認した後、それをどのような手順で遂行するかを話し合った。できるだけ早く動きたいが、明日は休み、明後日に行動を開始するということも決定済みである。その準備のために、今はそれぞれ装備の点検をしたり、糧食を取り出して栄養を補給したりと思い思いの時間を過ごしていた。

 その場に将聖の姿はなかった。清拭セーシキを終えた(たらい)を抱えて、少し離れた畑の境界を示す生け垣へ水を捨てに出ていたのだ。大分風が出て来たので「明日でもいいでしょう」と引き留めかけたナダルナニエを制し、ザインが「いいじゃないか、ダン。ショーセも少し働いてこい」と送り出した。

「それで、どうだった。やはり今日も、例のあれ(ヽヽ)はあったのか?」

 残った隊員たちに向かい、ザインが訊いた。ルグフリート、ナダルナニエ、ロドハルトは視線を交し合った。

 その目には、どれもひどく複雑そうな色がある。それから三人はザインに向かって(うなず)いた。

「戦いやすかったかい?」

 常と変わらぬのんびりとした口調でイザクシルが訊いた。その質問に驚いたようにルグフリートは振り返った。

「ザックは何もなかったのか?」

「いやあ、俺は今日はずっと胸壁の上にいて、魔物に後ろを取られる事がなかったからさ。あまり実感がなかったんだよね。まあいつも通り、ずいぶん遠目が利くなあとは思ったけどさ。」

 そう笑ってイザクシルは頭を掻いたが、すぐに真顔になった。

「でも、ショーセの能力(ちから)が働いているのは分かった。俺は上から見ていただけだったけどさ、お前らの動きは他の奴らとは全然違っていたからな。ほとんど無傷だったのも、お前らくらいだろう?」

「多分、そうだと思う。」

 代表してルグフリートがその問いに応えた。

「『勇者の血筋』か。」

 ザインが呟いた。

 将聖の索敵能力の事は、あの魔刃蜂(ビシュパズ)の一件以来、ゴスカデュロスにも知られるところとなっていた。「賢者の耳」「カールマイゼンのフクロウ」と呼ばれる魔狩人(シーカー)のバレルドが目をかけているという噂からも、かなりの潜在能力を期待させていた若者である。実際にこの戦場に連れて来てから、ザイン隊が魔物に不意打ちを食らったことは一度たりともなかった。

 だがその能力(ちから)にはまだ先がある事を、ザイン隊の隊員たちはこの混乱を極めた戦場で知る事になったのである。

 将聖と一緒に前線に出る隊員たちに、戦闘時、ある変化が生じていた。

 五感が拡大するような感覚。

 周囲の気配に敏感になり、視界が広がる。常態での聴覚や嗅覚はさほど強まった印象はないが、何か気になる音や匂いを感じ取った時に、その出所を追う事が容易(たやす)くなった。まるで狩りをする猛禽類か、獣にでもなった気分だ。

 ルドガ大渓谷で戦い始めた当初は驚異的だと思っていた、背後にも目がついているのではないかと思うような将聖の動きにも納得が行く。気が付くと、自分たちも同じような鋭敏さで魔物に対応しているからである。

 あの若者は、常にその状態で魔物の動きを捉えているものと思われる。その能力(ちから)がルグフリートたちにも及んでいるのは、ハイランダー族が持つという「共感力」のせいであるのかも知れない。

 ただし、その感覚も将聖が疲弊してくると弱まっていく。おそらくは、本人が全力で集中している時に発動するものなのだろう。

 本人には、自覚が全く無いようだ。四人もあえて将聖には告げないようにしている。

「周囲を見る限り、やはりあれ(ヽヽ)が起こるのは俺たちだけらしいな。グンナルの連中は対象外のようだ。」

 ロドハルトが言った。決して単純に喜んでいる表情ではなかった。

「はっきりと持続していたのは第三波を撃退したところまでだな。最後の群れまでは持たなかった。でも、ショーセには言わないでくれよ? あいつ気にするから。」

「分かっているさあ。」

 応えながら、イザクシルはちらりと天幕の入り口の方に視線を走らせた。まだ将聖が帰って来る頃合いではないのだが、それと知ってほっとしたように肩の力を抜く。

 ロドハルトに補足するように、ルグフリートが言葉を続けた。

「砦の他の連中に知られるのも危険だと思う。俺たちが最前線に固定されるくらいならまだいいが、上層部の連中に知られて、もっと対象の範囲を広げるように無理強いされたら、ショーセがぶっ壊れてしまうかも知れない。」

「最悪なのは、ショーセの奪い合いが起こることでしょうね。」

「俺たちの中で、ショーセ一人があそこまで消耗しているのも、俺たちの分まで戦っているからだと思うんだよね。」

「俺もそう思う。」

 イザクシルの言葉に、ルグフリートは(うなず)いた。

 ロドハルトは頭を掻いた。

「本当は教えてやりたいんだけどな。あいつが寝こけているのを見ていると、ホッとする。ああ、今は安全なんだってな。」

「そうですね。こんなに夜、安心して熟睡できる遠征だって初めてです。しかしなにぶん、あの性格ですからね。下手に教えたら、無茶しかねません。」

「これだけ心配性の兄貴たちに可愛いがられてるんなら、大丈夫だな?」

 みなの言葉にザインは微笑んだ。生真面目な将聖の性格を、ザインも嫌いではない。

 だが、全員の命を預かる隊長は、すぐに表情を引き締めた。

「グンナル騎士団の連中はもちろんだが……、ファンフェルツ騎士団にも、気づかれるなよ?」

「はい。」

 四人の騎士は(うなず)いた。隊長に負けないほど真剣な眼差しだった。



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