表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんでネコ耳が……  作者: 新崎はるか
1/7

真昼の決闘?

真昼間から、男が二人、テーブルの上で手を握り合っていた。


「いいか小僧、よく見ていろ」

細身の男が端正な顔立ちに微笑を浮かべている。上着を脱いで、やる気十分だ。

「あっという間に終わっちまうよ」

大きな体格に、太い腕の男。もう一人の男とは対照的ないかめしい顔を、くしゃくしゃにして笑う。

「二人とも、用意は良いか?」

少女が小さな両手で、二人の男の組み合った手を包み込もうとするが、全然大きさが足りていなかった。


たくましい方の男は、今おれたちがいるこの場所ーー飲食店らしいーーのマスターで、この街を守る「自警団」の団長でもある。おれは、この男が凶暴化した大男を素手で制圧するのを見たことがある。そしてもう一方の優男は、この腕ずもう勝負の審判を務める少女、つまりおれ達のリーダーの、兄貴である。この男も素手で大男を制圧したりする。


「レディー、ゴーじゃ!」

え、英語……まあそれはいいとして、果たして勝負になるのだろうか?体格差は歴然としているが……

「フン、さすがに厳しいな」

兄貴は苦笑いしながら言う。手の甲がテーブルの面にみるみる近づく……

「一気に決める!」

マスターの鼻息が荒い。


「だが、これはどうだ⁉︎」

兄貴はギリギリのところで踏み止まると、じりじりと盛り返した。

「どこにそんな力が」

おれが思わず口にすると、その男の妹が答えた。

「力ではない、魔力じゃ!」


「えっ、腕ずもうでそれはズルくね?」

おれがそう言うと、意外にもマスターが口を開いた。

「ズルくないぞ。なぜなら、おれだって!」

フン!と短く息を吐くと、今度はマスターがみるみる盛り返してきた。

「……マスターの魔力が!……」

魔法使いが驚いたように言う。

「くっ、これはたまらんぞ!」

一気に押し切られる兄貴。手の甲を押さえて、子供のように痛がるそぶりを見せた。


「と、いうわけで」

兄貴はおれの方を向いて、真面目な顔をした。

「貴様には魔力の修行をしてもらう」

「えっ、なんですかいきなり」

腕ずもうと魔力の修行になんの関係が……⁉︎

「今見た通り、力ずくに見えて、俺たちは魔力も使っている。目に見える魔法ーー妹や、そこの魔法使いの彼女のようなーーだけでなく、ごく自然に育ってくる中で身につく、呼吸や言葉に近い感覚のものなのだが」

ああ、全然違う世界に居るんだな……改めてそんなことを思ってしまい、妙に心細く感じる。そんな考えが顔に出てしまっていたのか、兄貴が宥めるような口調で続けた。

「この近くに魔力の扱いに長けた者が住んでいる。そこで、何か掴めるんじゃないかと思ってな。もちろん、嫌なら無理にとは言わないが」

達人の元で魔力の修行⁉︎わけがわからないし、ちょっと怖いぞ。何をやらされるものやら……

「やりたいです」

い、いかん、好奇心が身を滅ぼすぞ⁉︎


「……私が連れて行こう……」

魔法使いが言う。彼女が率先して言い出すなんて、珍しく感じる。

「わしも行くのじゃ」

「……大丈夫。リーダーはここに居て……帰る場所が必要だから……」

「そうか。今回はお主に従うのが最善じゃろう」

何か事情があるのだろうか?リーダーがやけに素直だ。

「わしに出来ることといえば、これくらいかのう」

そう言うと、おもむろに着ていたローブを脱ぎだした。

「な、何を急に、リーダー!」

勿論ハダカになるわけではないが、見慣れない軽装の少女の肌が、やけに眩しく見えて、おれは目を背けた。

「な、なにを興奮しておるか、この痴れ者が!……このローブを持って行け」

手渡されたローブをおれは羽織った。温もりがまだ残っている。そして……

「えい、匂いを嗅ぐな馬鹿者!……わしの魔力が染み付いている。少しは役に立つじゃろう」

「ああ、魔力か」

「他の何が染み付いているというのじゃ」

「えーっと」

「言うな!」

な、何だよ!


「妹よ」

兄貴が不意に口を挟む。

「私にも何か、こう……くれないか」

「何を言っているのじゃ、兄上」

シス……妹想いの兄貴は、なおも食い下がった。

「兄妹の絆を思い出す、せめてものよすがに!」

「ええい、気持ち悪いのじゃ!」


「……行こうか、少年……」

騒ぐ兄妹を尻目に、魔法使いが言った。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ