第8話『勇者活動報告Ⅱ』
● 平民用食堂従業員(四十二歳・女性)
勇者様はとても変わったお方ですねえ。
年頃の若い娘なのに、貴族様用のレストランじゃなくて、わざわざ平民用の食堂を好んで使うんですから。
理由を聞いたら、皆とワイワイ食べれるこっちの方が楽しいって仰ってました。
それに「おばちゃんの作ってくれるの、どれもすごく美味しいから!」って言ってくれて。
いや、そりゃあお貴族様のレストランに勝てるわけないってのはわかってますよ。
それでも毎日ね、本当に美味しそうな顔で食べてくれるんです。
嬉しいねえ。それで、ついついおかずオマケしちゃうんですよ。
● コック見習い(十一歳・男性)
新しい方の勇者様。時々見かけはするんですけど、俺、あまり関わりなくて。でも一度だけお話したことがあります。
あれは俺が厨房で失敗して料理長に大目玉くらった日でした。
人気のないところで座り込んでたら、勇者様が通りかかって。
そしたら、隣に座って「どうしたの?」って聞いてくれたんです。
初対面で勇者様ってのも知ってて、タクマさんとも全然違う感じだし、なんて返したらいいかわからなくて。
それでも、勇者様は優しそうな笑顔で俺を見つめて、ずっと返答を待ってくれてるんです。
後で知ったんですけど、俺のこと怒り過ぎたって料理長がボヤいてたのを勇者様が聞いて、偶然じゃなくて俺を探してくれたらしいんですよ。その時はそんなの知らなくてたまたまだと思ってました。
それに今ならわかるんですけど、段差のあるところで、わざわざ自分は一段低くして俺と同じ目線の高さに合わせてくれてました。
時間をかけて俺が失敗したことや、逃げ出してる自分が情けない。もっと努力しなくちゃならないのにって愚痴を、ずっと聞いてくれました。
俺が話し終えると「本気で落ち込むってことは、本気で頑張ったって証拠。弱音も涙も、また頑張るために必要なことだから、恥ずかしくも情けなくもないよ」と言ってくれたんです。
その後「それとも、もう諦めたい?」って聞かれて「やめたくない」って答えると「ほら、君は強い子だ」って頭を撫でてくれました。
美人で優しくて、こんな姉ちゃんが欲しかったなぁ……あ、今のは無し! 勇者様には内緒で!
● メイド(十四歳・女性)
姫様の愛猫が木登りして降りれなくなったことがありました。
その時に通りかかった勇者様が、その場で木に登りだして……貴族様達は勇者様の身に何かあったら責任問題だと下りるよう何度も呼び掛けたのですが、まるで聞き入れる様子はありませんでした。
勇者様は軽い身のこなしで木の幹で動けなくなっている猫を救出したのですが、その時に幹が折れてしまったのです。
その時は駆け付けた召喚師様が風の魔法で勇者様の落下をふんわりと受け止めて、大事には至りませんでした。
でも私、確かに見たのです。
勇者様が木から落ちる時、とっさに猫をぎゅっと抱きしめて守ろうとする姿を。
自分の身よりも小さな動物を守ろうとする。これこそ勇者様が選ばれたの理由なのだと思いました。
● グラドニア兵士(二十五歳・男性)
勇者様ですか。あの人、意外に訓練の遅刻が多いの知ってます?
遅れた理由もなんだか曖昧で、よく兵隊長に怒られてるんですよ。
でもね、勇者様が遅れた日は後で必ず城で働く誰かが「勇者様は自分のことを助けて遅れたので、どうかあまり怒らないであげてほしい」って言いに来るんです。
ええ毎回です。人助け以外で遅れたことはないんですよ。
で、その後もまた兵隊長に怒られる。
今度は遅刻した分を一人でこっそり居残り訓練してね。
訓練での怪我やらは兵士の責任ですから、まあそら困るけど、勇者様は自分のせいで俺達の負担が増えないようにって感じですよ。
今はね、遅れた日は居残り組つって勇者様と一緒に残るメンバーを募るんです。
けど毎回ほとんど全員手を挙げるので、毎回俺が残るいや俺だってメンバー決めで口論ですよ。普段は居残り訓練なんて、全員嫌な顔するくせにね!
● グラドニア兵士(十八歳・男性)
はい、自分でありますか!
自分は勇者アカリちゃんファンクラブの栄えある会員No.3であります!
勇者様と同じ時間を生きられる、推しがいてくれる幸せを毎日噛みしめております!
● グラドニア兵隊長(三十三歳・男性)
勇者様ですね。正直、最初はなんだこの小娘はと思いました。
他の兵士達も大体同じ気持ちだったでしょう。
いくら勇者の鎧や武器があると言っても、中身は戦いをまるで知らない年若い娘じゃお話にならない。
女神だ何だと言っても、戦いは伝説ではなく現実でやるものだと、我々は誰よりよく知っている。
兵士の仕事も勇者の役割も遊びじゃない。
それを教えるために最初は、我々と同じメニューの基礎訓練を課しました。
大臣達からはいきなり重い訓練をさせて、心が折れたらどうするのかと苦情が来ましたよ。
でもね、そんな甘ったれた考えなんてとんでもない。いや、今のは勇者様にではなく、大臣方に向けた言葉ですよ。
勇者様は付いてきた。どれだけ苦しくても、歯を食いしばって一言も弱音を吐かずにね。
いきなり異世界に連れてこられ、男ばかりの兵舎で厳しい訓練。
そこに不満を持つどころか、「ボクみたいな素人が戦えるようにするため、大事な時間を割いてくださってありがとうございます」と言ってね。
正直、自分達こそが真の守護者だという嫉妬もあった。彼女の言葉でそんな傲慢を自覚して恥ずかしくなりましたよ。
それに勇者様は武器を使った戦闘は確かに素人だが、身のこなしは悪くない。飲み込みもいい。
これは鍛えればもしかするんじゃないか。気が付くと私も含めて、勇者様の育成に兵士全員が夢中になってました。
ああ、それに、これも大事だ。
あの娘は貴族用のレストランではなく我々と同じ食堂で、一緒に食事をしてる。
それでね、いい顔で美味そうに飯を食うんだ。
あれで皆、勇者あかりの虜になっちまいましたね。
● グラドニア召喚師(十歳・女性)
本日の記録係様ですね。お仕事ご苦労様です。
わたしはいつも通り、勇者様とプレゼンター様についての定期報告となりますが、ええお二人ともとても協力的で特に問題はございません。
ええ、はい。プレゼンター様、タクマさんも、です。
甘やかしてませんよ? ……あんまり。
そもそも、わたしが担当の時はサボったり逃げたりは一度もありませんから。
どういうことですかと申されましても、あの人の特徴としか……。
話を続けますね。わたしのお仕事はそれぞれの立場や役割に対する説明と心得を説くこと、そして魔法技術の解説です。
今日は魔法の側をお教えする日で、魔石の説明と実演をしました。
普段はそれぞれ個別の教導になるのですが、今回はお二人に必須な科目なので合同で行ったのです。
お二人共真面目に、最後まで聞いてくださいました。
あ、信じてませんね。ちゃんと説明しますから聞いてくださいよ。
少年に新しい性癖を植え付ける系勇者