第42話『勇者あかり、出動す』
呉乃あかりが館で起きた魔女による殺人事件を知ったのは、訓練中に現れた双子のメイドからだった。
その場で本日の訓練は中止となり、パーティー候補者達は魔女クーリエの見張り役を命じられた。
そして勇者あかりは、現在蚊帳の外で自室待機中心だ。
犯人は明確で捕獲済み。目立った抵抗もない。
前回グラドニア城に乗り込んだアンヌが勇者を狙ったこともあり、未だ見習いの身では危険だとの措置である。
あかりはクーリエが犯人だと聞いて耳を疑った。だがそれはあくまで感情論であり、リアノンの眼のような確固たる根拠はない。慌ただしく動く状況においては何の力も持たなかった。
自分も何かしたいができることはない。
そうしてもやもやした気持ちを抱えていると、拓馬の負傷を告げられた。
居ても立っても居られなくなったあかりは、彼の部屋へと向かったのだが、
「幼女じゃない。チェンジで」
めちゃくちゃ元気だった。そしてすごく腹立たしい。
「もータクマさんの負傷を聞いた時はビックリしましたよぉー」
部屋には彼を治療しているメルーの二人がいた。彼女は拓馬に寄り添い回復魔法をかけている。
「どうしてフレイルさんがこんなことを?」
彼女は自他問わず厳しい性格ではあるが、理由なく暴力を振るうような人間ではない。それはあかりもよく知るところだった。
「捜査中の必要経費さ。メルーの話も聞けたから俺としちゃそう悪くもない」
「捜査って?」
「真犯人捜しの」
「え……それどういうこと?」
あかりはそこでようやく詳細な事件のあらましを拓馬から聞いた。そして彼がここまでやってきた一連の捜査についてもだ。
「じゃあ、クーリエさんは魔女じゃないんだね! なら、早く助けてあげないと」
「言葉だけでは何も動かんよ。それに今日は店仕舞いだ」
拓馬は治療を終え包帯が巻かれる腕を見せて軽く振る。そしてあまり動かさないようメルーに注意された。
「ドクターストップでな」
「それならボクが……」
「お前に何ができる?」
「それは……」
自分に拓馬のような捜査技術や洞察力はない。それに動けなくなる前に容疑者達への聞き込みは大体終えていた。
「何をしたらいいかわからないから大人しく引きこもってたんだろ?」
「……うん」
「それでいいのさ。リアノンと敵対するリスクをお前まで負う必要はない」
「でも、このままじゃクーリエさんが」
無実の少女が魔女として裁かれる。そんなことが許されていいはずがない。
「お前は本当にクーリエが無実と思うか?」
「思う、けど……」
「理由は?」
「……………………」
拓馬が調べてそう推理したから。そう思うから、信じたいから。それ以外にはなかった。
けれど、それはリアノンの眼だって同じことが言える。
「覚悟がないなら引っ込んでなってことさ」
反論できなかった。拓馬が冷たく突き放しているのは嫌がらせの類ではない。
彼が行っているのは、下手するとこの領地を丸ごと敵に回す戦いだ。腕の負傷もそれを告げている。中途半端な気持ちで踏み込んでいいものではない。
部屋が静まり返り、誰も何も発せない間が生じる。その静寂を打ち破ったのはメルーだった。
「はいー。もしもしー。え? はい。すぐに向かいます!」
片耳を押さえて、誰ともなしにいきなり話し始めた彼女は、急に表情を引き締めて頷いた。
「どうしたんですか?」
「グラドニア城に移送中だったアートリスさんの遺体が襲撃を受けました。移送依頼した冒険者達が応戦中です。メルーは支援に出ます」
魔女の被害者は、法律にて専門家による解剖調査が必要とされている。
けどグラドニアから派兵していたのでは時間がかかるので、町の冒険者に移送役を依頼したのだ。
メルーはグラドニア正規兵であり、責任者として現場へと向かうつもりらしい。
「ボクも行きます!」
「危険です」
メルーは平時とは打って変わり、凛とした態度であかりを止める。
「魔女の狙いには勇者様も含まれているかもしれません」
「いってらっしゃーい。ついでに手掛かりがあったら写真よろー」
そんな彼女とは逆に、拓馬は軽い態度であかりに向けて手を振っていた。
「タクマさん!」
詰め寄るメルーにも拓馬は自分の意思をブレさせず、あかりに問う。
「襲われている誰かを救う覚悟は?」
「できてる!」
即答した。
そのために自分はこの世界にいる。
「これはボクのやりたいこと。そして勇者の使命です!」
拓馬が捜査しているのは、誰かの命令じゃない。自分がそうすべきだと思ったから。
魔物に襲われている誰かを助けたいと思う気持ちなら、己は拓馬に負けていない。
「急げ。どの道、アンヌの使い魔ならアーマードジョブが必要だ。メルー、君がセシルより強くない限りね」
「……わかりました。では案内します」
あかりは一度頷くと、メルーと共に急ぎ部屋を出ていった。





