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グッジョブ・ブレイバー  作者: 下駄
第二章 異端≪エルフ≫は救済者の夢を見ない(事件編)
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第41話『刻まれる刃 /刻む覚悟』

 うんちく披露されながら全ての目的を果たして、グラカニスの部屋を後にする。

 思ったよりも順調だが、決定打になるものは見つからない。残る面子で果たしてそれが揃うだろうか。


「アカツキ……」


 背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。静かな廊下だから聞き取れた、ポツリと呟くような声だった。


「やあ、フレイル」


 振り向いた先にいた彼女は、暗い炎の灯る双眸を俺へと向けている。


「貴様……魔女を庇っているそうだな」


「その話は誰から?」


「メイドの姉妹から伝え聞いた」


 あの二人なら、せいぜい近況報告程度のつもりだったのだろう。

 今のフレイルから全ての情報を遮断して閉じ込めておいたら、それはそれで何をするかわからない。


「俺は真実を探しているだけだよ」


「真実は既に決している。リアノン様の眼によって」


「俺はそう思わないだけさ。それがアートリスのためになるとも信じている」


「貴様が軽々しく妹の名を口にするな……!」


 静かな、けれど重苦しい圧を持った声。妹の名前に反応して、彼女からの視線がより厳しいものへと変わる。


「現実から目を逸らすなよ」


「現実を捻じ曲げる貴様が言えたことではない」


 フレイルは今、クーリエを憎むことで何とか心の均衡を保っている。

 怒りをぶつける先の保証はリアノンだ。

 それを否定することは彼女にとって絶対に許されない。


「逸らしてないから探しているのさ、正しい現実を」


 俺は自分の能力を信じる。それはただ信じたいからに過ぎない。

 ならばフレイルも同じだ。彼女はリアノンを信じたいから信じている。


「だから、一つ教えてくれないか?」


「何をだ」


「お前がロビーのテーブルに座った時のことだよ。お前は実際にアートリスがあの部屋に入る姿を見たのか?」


 フレイルの握る手が白くなり、歯を食いしばった形相で俺を睨む。間違いなく、彼女の地雷を踏み抜いた。


「それを私に問う意味はわかっているな」


「ただの事実確認だ」


「疑っているのだろう、私を。犯人として」


 会話が噛み合わなくなってきた。それでも俺は言葉を引っ込めない。


「疑っているよ。事件現場にいた全員を等しくな」


「……いいだろう。答えてやる」


 フレイルが腰に差した剣に手をかけた。最後のタガが彼女の中で外れようとしている。


「ただし、答えると同時に、貴様を魔女の使い魔として斬る」


 脅し、というわけではないな。

 これは彼女の中でクーリエが魔女という整合性を保つための行為。

 人間性を失いながら、自我を維持しようという矛盾に彼女は気付いていない。


「俺にとって勇者は単なる役割。資質になんて興味はない。けれど、お前は違うだろう?」


 妹を失った彼女は、それでも勇者パーティーの一員になりたい想いは完全に消えてはいないはず。

 クーリエを信用せず、リアノンを妄信的に信じているのは、それも起因している。


 ずっと怪しんでいたエルフを疑う。

 屋敷の主を信じる。


 この二つが成り立つ間は、まだ彼女の中でパーティー入りの糸は切れていない。


「勇者の仲間になるのなら、本当の正しさを追求すべきだ」


 だけど今、真に必要なのは考えること。

 苦しくても、悲しくても、それに目を背けて思考を放棄してはいけない。


「俺は追うよ。正しさを。ちゃんと考えて逃げずに答えを見つける。君にだって、それはできるはずだ」


 それができないような弱者なら、彼女は今ここにいるはずがない。


「だって君は、ここまでリアノン様に選ばれた存在なのだから」


 リアノンの眼は誰もが認める本物。

 ならばフレイルもまた、ここにいるに相応しい本物の剣士だ。


「だから俺は君に問う。君が最後に見た、アートリスについてを」


 少しの沈黙。

 張り詰めた空気の中で、フレイルは答えた。


「扉の前まで付き添ったよ。そして入る寸前、茶会に胸を弾ませて私へ微笑みかけた。アートリスが生きている時に見た、それが最期の姿だった」


「そうか……」


 そして、彼女は剣を抜き俺へ向けて走りだした。

 下から切り上げる最短コースで刃を振り抜く。


「死ね、邪悪」


 初太刀は下がって避けたが、更に踏み込み、続け様の二撃目。

 狭い廊下では躱しきれず、肘近くを浅く割いて服からじわりと赤の滲みが広がっていく。


「っく……」


「貴様はもう終わりだ」


 そうする必要性すらもうないと言わんばかりに、フレイルは追撃をかけず、その場から動かない。


「リバイバル・スラッシュ」


 彼女がその言葉を唱えると、手にした剣の刃が煌めき出した。そして俺の腕に鋭い激痛が走る。


「ぐううっ!」


 触れてもないのに腕が裂けて、血飛沫が舞う。

 出血しているのはさっき浅く切られたのと同じ部分。

 しかし出血量は明らかに増えている。まるで同じ箇所をもう一度斬りつけられたようだ。


「リアノン様を否定しておきながら、選ばれたからだと? ふざけるな!」


「ふざけちゃ……いないさ……」


「リバイバル・スラッシュ」


 空いている手で腕を庇うように守る。

 けれど再び、直接刃が触れることなく同じ箇所だけが切られた。

 出血も止められない。後数回繰り返せば、腕を切り落とされかねない。


「忘れるなよ……俺が伝えたこと……絶対に、な……」


 斬られながらも俺は確信していた。彼女はこの事件を解決するために必要不可欠な存在だと。

 俺が答えに辿り着く。必要な一手がここにある。


「大丈夫ですか、タクマさま!」


「部屋にいないと思ったら、何をしているの!」


 そして、どうやらまだ俺にツキは残っていたらしい。

 運良く現れてくれたメイド姉妹を見てそう思う。


 俺の居場所をフレイルに告げたのも彼女達だろうけれど、むしろ感謝していた。

 間違いなく、俺は流れに乗れているのだから。


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