第34話『マッサージャーと有力候補生』
手を繋いだまま椅子を横並びにメイド娘達は寝転ぶ。
足のマッサージをご所望なので、靴下を脱いでスカートを半ばまでたくし上げればそれでいい。
いや、むしろこれがいい。
紺色のメイド用スカートから覗く眩しい生足。
しかもただの生足ではない。幼女の生足である。ロリ生!
メイドの幼女が二人ならんでスカートたくし上げて足を揉んでくださいと懇願しているのだ。もはや背徳感すら湧き上がってくる。
しかも、嗚呼なんということだろう! この光景に一切の犯罪要素は含まれないのだ。
合法……! 圧倒的合法……! 真の合法ロリはここにあった!
そうして俺は望まれるまま、ロリメイド姉妹を交互にマッサージを始める。
ここは幼女揉み放題の楽園か! 侮っていたよ異世界!
「痛かったら言ってね」
しかしこの至福を顔に出したら、物理と社会両面の生命が消し飛びそうなので、あくまで平静を装う。
「タクマ様はご主人さまととても仲がよろしいですね……んんっ」
「ここまで打ち解けるなんて、驚きで腰が抜けそうになったわ」
君達の腰をマッサージした覚えはないぞ。していいなら腰砕けになるまでめっちゃするがな!
「むしろ怒らせて折檻される毎日だけど」
ここに来てから今日まで怒らせていない日がない。
マッサージした日は毎回蹴られる。来て二日目から毎日しているはずなので、つまりほとんど毎日蹴られているぞ。
「そもそもご主人さまは普段あまり感情を表に出さない方よ……ふああっ」
「領主としての威厳を保つため色々溜め込んでおられますから」
順番に太ももを揉むと、姉妹交互に甘い喘ぎが漏れる。ハーレム気分だね! 現実はむしろご奉仕する側だった。
「あんなに可愛いんだから、愛嬌で勝負すればいいのに」
新ジャンル、アイドル領主。
言葉にしたら何故か既視感あるけど気にしない方向で。
この屋敷にいるのは候補生もそれ以外の者も、皆ことごとくが優秀だ。無理に威厳を出そうとしなくても、人当たりよくしていれば十分に人はついてくる。
そもそも、怒らせるような人材は俺ぐらいしかいない。
「とても責任感が強く真面目な方なのです……くうんっ」
「真面目過ぎるくらいにね」
両親を亡くしたリアノンは跡継ぎとして必死なのだろう。
まだ幼く大部分が人任せな状態でも、振る舞いは領主としてのそれを求められる。
いや、そうあろうと意識した結果というべきか。
「その上勇者パーティー候補の選定だものね。プレッシャーすごそう」
「今の状況だからこそです。普段通りに見せようとしていますが、最近は食欲も落ちてきているみたいで心配です」
「きっとご主人さまは証明しようとして……んぁ、んっ」
「領主として相応しい人間だと、周囲だけでなく国に認めさせようとしているわけだ」
彼女にとってパーティー候補選定は、内外に自分の能力をアピールするのにうってつけと言える。
貴族として領地の経営には何かとお金がかかるし、国からの援助金や報償は有用だ。
「だからタクマさまは貴重な人です……ひっ……ぁ……」
「あなたの前だとご主人さまはとても自然に振る舞われているわ」
めっちゃゲシゲシ蹴られているよ。あれが自然だとそれはそれで暴君ではなかろうか。
都度蹴られるようなことした覚えはあるけどね!
「貴重な人材というのなら、君達の方がずっとリアノン様に貢献しているよ」
この姉妹もリアノンが見つけて雇い入れたらしい。
二人の手錠も彼女が考案したもので、双子は互いが近くにいる時程、高いパフォーマンスを発揮する。
だったら常にニコイチとしてしまえという発想らしい。腕のロックは魔法技術を駆使しており、リアノンの声紋認証でしか外れない高級品だと以前聞いた。
事実、彼女達は常にこの状態でリアノンお付きのメイドとして重宝されている。
今は俺の監視任務という名目だが、実際はリアノンに個室で休憩している間くらいお前達も休憩してこいと、遠回しに言われたのだろう。
「わたし達は側にお仕えすることしかできません」
「今は友人のように気を抜ける方が必要なの……ふやぁんっ」
「ああ、なら今後もそうなれるように勤しむよ」
「はい、よろしくぅん、お願いしまっ、あっ、もうダメえぇぇ!」
そうして雑談しながらも一通り施術を受けた二人は、再びリアノンの元へと帰っていった。
監視の任務ならマッサージ後もいて良かったのだけど、むしろいて欲しかったのだけど、最終的には嫁いで欲しかったのだけど!
残念ながら他の客が来たのだった。
要するにサボれない人物が来たから監視が必要なくなったという話である。
二人目の客は赤い髪を腰まで伸ばした女流剣士だった。
名前はフレイル・アルテイル。勇者パーティー候補生の一人であり、年齢は俺の二つ上である。
「では、今日も施術を頼むぞ、タクマ」
お、やってるな? くらいの気軽さで現れて、そのまま上着を脱いで色気のない下着姿になってチェアに寝転んだ。
格好に色気はなくとも、鍛え上げられた体は引き締まりながらも女性の柔らかさも残しており、出ることは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。
そろそろここが現実ではなく、ギリ全年齢向け超リアルVRギャルゲーか疑った方がいいのでは?
「恥じらいって知ってる?」
「私とお前しかいないだろ。他の訓練生共はまだ暫くこないしな」
「俺がいる時点で問題視しろよ。リアノン様がわざわざ女性用マッサージウェア用意したというのに」
人によっては全身マッサージを望むので、リアノンがマッサージ用の女性着と衝立で区切れる簡易区画も用意した。
着替え用にスペースまであるのに、この女堂々とこれである。
「あんなもの、少し布が厚手なだけで大して変わらん」
こいつ、下着と水着なんてどっちも一緒だろって言い切るタイプだな。
後、こういう性格だが根はクソ真面目なので手抜きとかすごい怒る。
マッサージで手を抜いたことはないが、疲れから気の抜けた訓練をしている候補生を見つけて怒っている姿をたまに見かけた。
「そもそもお前に見せてどうなるものでもない」
根本的に男扱いされていないのは、それはそれで腹立つなあ。
「それより手早く頼む。この後も用事があってな」
「へーい、へいへい」
「返事は一度でいい」
「Hey!」
「何か違わないか?」
候補生の中にはお硬い騎士のような者も多いが、こいつは割と気安い相手ではある。
俺はプロでもなんでもないし、地球にいた頃から大体マッサージ中は世間話に花を咲かせるようにしていた。
「とはいえ人がいる場所じゃもう少し自重しろよ。アートリスがまた怒るぞ」
「ん、あぁっ……わかっている。これでも信用しているのだ、お前はな」
アートリスはフレイルの妹で、俺と同い年である。
彼女達は戦闘になると前衛後衛に分かれて戦うタイプであり、姉妹で勇者パーティー入りを狙っている。
「そりゃ俺が勇者枠だからだろ」
パーティーメンバーは四人と決定しており、俺が勇者役として枠の一つを取っている。
俺も採用試験中ではあるのだが、採否に関わらず勇者役は敵視すべきではないだろう。
「そこはあまり関係はないが、そもそもお前、私に対して欲情するのか」
「ないよ」
即答で断言した。
「そもそも候補生にそんな相手は一人もいない。だって幼女がいねーんだぞ!」
勇者役とかマルチエンディングが基本だろ。何故選択肢に幼女がいない!
「だから貴様に肌を見せても感じ入ることはない」
見事に論破されてしまった気がする!
「とはいえ恋愛感情と肉体美は別さ。この背筋の肉付きは嫌いじゃない」
「実際に背中を揉まれながら言われると変な気分だな……」
恥じらいを捨てたような態度は、根底に剣士として生きるという意思があるからだろう。
とはいえ女子は女子だ。そう簡単に全て捨てられたら苦労はしない。
特に美人でプロポーションが良い彼女の場合は、容姿を褒められることも珍しくない。
「肉体美としては大したものだと思うよ。好みじゃねーけど」
「ならアートリスはどうだ? 姉の贔屓目をなしにしても、あれは上玉だろ」
「姉が妹を上玉とか言うなや」
下種な野郎共が酒の席で宣うようなノリじゃねーか。
「あーまあ、アートリスは気立ても良いし、ロリだったら求婚してたんじゃないかな」
なおロリだったらという条件だと、スポーティー幼女のフレイルも間違いなく求婚する。姉妹丼!
「妹はやらんぞ!」
「どうしたいんだよお前!」
これはどう答えるのが正解なのかわからん。
「男相手だと少し押しに弱い部分もあるからな。あいつに付く悪い虫を払うのは私の役目だ」
「じゃあ聞くなよ殺虫剣士」
「これから勇者と共に世界を旅するのだ。こういうことは線引きが必要だろう」
「そもそもお前らまだパーティー入り確定してないだろーが」
まあ、それは俺もなんだけどね。むしろ幼女モミングする職業の方が魅力的に思えて仕方ない状況だった。
「入るさ。そのために私達は来たのだ」
「その意気や良しとは言っておいてやろう」
現在のパーティー候補はアルテイル姉妹を含めて十五名。
彼らは幾つもの選別試験を乗り越えてきた精鋭揃いである。
訓練風景は何度も眺めているが、中でも彼女達コンビの実力は間違いなくトップクラスだ。
自信のある態度はただの自意識過剰ではない。
「とはいえ、他にも強豪はいるぞ?」
「ハーフエルフのことか」
フレイルの声色に冷たいものが混ざる。完全に敵対視の反応だった。
「筆頭に出てくるくらいには強敵なんだろ」
「奴はスカウト組だからな」
パーティー候補は大部分が募集をかけて集まった者達である。
しかし中でもごく一部のみ、グラドニアが直接スカウトした者達がいた。
その内の一人が、彼女の言うハーフエルフである。
幾つかあるパーティーメンバーの条件には人間であることも含まれているが、亜人と人間なのでオーケー判定だ。
「最終選考で唯一残っているスカウト組だっけ」
スカウト組も選定は平等に行われており、多くは既に脱落したらしい。
「どれだけ前評判が良かろうが、リアノン様の『目』は欺けないからな。だがあの者は違う」
ハーフエルフはこの屋敷において例外中の例外。ある意味では俺以上に特別扱いを受けている。そのワケは、
「奴はただ一人、リアノン様が直々にスカウトした逸材だ」
国ではなく選定者本人によるスカウト。
それは似ているようで大きく意味が違う。彼女はある意味《選ばれるため》にここへ来たようなものだ。
下手すると、この選定自体が半ば出来レース扱いになりかねない。
「さっきから筋肉硬くなってるぞ、力抜け」
「うむ、すまん……エルフは敵対種族だ。それはお前も聞いているだろう」
「ああ、ここに来てから聞き齧ったものばっかだけどね」
伝聞と、後は今読んでいる歴史モノの物語にもエルフは登場している。
あまりいい印象は与えない内容で、種族間の紛争シーンも描かれていた。
「ならばわかるだろう。奴のことは無闇に口にすべきではない」
「それはほら、今はフレイルと二人きりだからさ」
俺も人が多い場所だとハーフエルフについては、みだりに触れないよう気を付けている。それだけエルフという種族はタブー扱いだった。
「まったく……」
不機嫌そうなのは相変わらずだが、言葉とは裏腹に体の力は抜けている。
「エルフについて何か聞きたいのか?」
「君から見たエルフってどういう存在なのかなって」
タブーだとしても、踏み込まねば情報は得られない。
この件は書籍や紙に書かれた平面的な情報ではなく、血肉の通った言葉での意見が必要になる。
「端的に言えば敵対種族の亜人だ」
種族として亜人と魔物は違う。
この二つはそれぞれが別カテゴリだ。亜人というカテゴリの中に、エルフという種族がある。
「でもハーフエルフが生まれるぐらい人間とエルフは近いんだろ」
「遠い近いの問題ではない。人間同士だって分かり合えない人種問題はある」
種族としての軋轢ではないとすると、
「つまり歴史や価値観の相違か……」
「そうだ。人間とエルフの歴史は、領土や魔物も絡んで何度も争ってきた」
地球だって奴隷制や戦争から根付いた人種問題は、簡単には解決不能なレベルで複雑に絡み合っている。
似たような問題が人とエルフの間にもあるのだろう。
「魔物との戦争時にも、エルフは人間の手を取らず、自分達の住処を護ることのみに固執した。奴らは世界全体の平和より種族の利益を優先したのだ」
「なるほどねえ」
もっともらしく頷いておく。
一応本による知識はあるが、直近の争いにまでは届いていないので、情報そのものは鵜呑みにはしない。
重要なのは彼女がエルフに対してどういう意識を持っているかそのものだ。
「私が特別エルフを嫌っているわけではない。ここにいる大部分は私と似たような意見だろう」
「それは周りの雰囲気を見てればわかるよ」
魔物との戦い以前からの問題で国が融和政策も打ってないなら、溝は深まるばかりだろう。
これは単純に良い悪いで切り分けられる問題ではない。
「そこにハーフエルフが現れて、しかも領主から特別扱いを受ければ、皆はどう思う?」
「快く思う人間は少ないね」
「しかしな事実としてエルフ族は強い。細身だが狩猟民族であるため身体能力は高く、特に弓矢を得意としている」
「それに魔法を使える者も多いんだっけ」
「そうだ。どちらにも秀でた人間はかなり希少。私も元は魔術師の家系故、魔法の素養はあるものの、それは剣技に関わるものだけだ」
要するに高いところでバランスが取れている上、森に住んでいて魔物との戦闘にも慣れている。
能力値と実戦経験で考えるなら、パーティーメンバー最有力候補に上がるのも頷ける話だ。
「単純なスペックだけなら私も認めているさ。確かに強い。しかし共に戦いたいと思う者がここに何人いるか……」
「まあ、マイノリティだろうね。でもさ」
そこで俺は初めて反論するような言葉を口にする。
「リアノン様は愚かじゃない。そういうのも含んだ上でスカウトしたんじゃないかな」
「それはどういう意味だ?」
「種族の壁も越えられない者が、本当に世界平和を担えるか」
敵対種族とも手を結んで世界の脅威を払う。
それは綺麗事に過ぎないが、綺麗事を現実にするのが勇者の仕事でもある。
「武器を振るうことだけが、勇者パーティーの役目ではあるまいさ」
「フフフ……」
怒られるかもなーと思ったが、フレイルは意外にも楽しそうに笑いだした。
「お前と同じ考えを持った者が、他の候補者に一人だけいる」
「おやまあ、それは誰だい?」
「姉さんそろそろ時間よ……あらタクマさんもいらしてたのね」
扉を開けてひょっこり顔を出したのは、フレイルと同じ赤髪を三つ編みにしたお淑やかな雰囲気の少女だった。くりっとした目で茶色い縁のメガネをかけている。
顔付きはフレイルに似ているが、彼女の方が可愛らしい印象を与える小動物系だ。
衣服も露出が少なく、ケープを羽織っていてインドア派の印象が強い。手には茶器や白い包み等の入ったバスケットを持っていた。
「アートリス、もう待ち合わせの時間か?」
彼女がフレイルの妹、アートリスだった。
姉を全体的に柔らかい印象にすればこうなるって感じだ。
「ええ、ちょっと早いけれどそろそろよ。それより、もう! またそんなはしたない格好をして」
大雑把な姉とは違い、少女らしい感性を持っている娘である。
いいぞ、もっと言ってやれ。
「タクマさん、姉がズボラなことをしていたら、ちゃんと叱って止めてください」
「いや、その、いつも通り注意はしたんだけどね?」
「それでもです」
理不尽な飛び火をした。
とは言え、彼女の視点からだと下着姿の姉にベタベタ触れている野郎って絵面がもうアレだろう。
「待っている間マッサージを頼んでいたのでな。すぐ着替える。そういうわけで、ここまででいい。感謝するぞ」
「どーいたまして。そういや今日は訓練早めに切り上げたんだっけ?」
要はここを待ち合わせ場所に選んでいたのだろう。
フレイルは起き上がって、元着ていた衣装を再び着込む。
「これからやることがあるのでな。まあ、私はただの付き添いなのだが」
「今日はこれからお茶会をするの」
「その相手って、もしかして……」
「察しが良いな。そういうことだ、タクマ」
フレイルが怒るどころか笑った理由がわかった。俺と同じ思考に至ったのが彼女の妹だったからだ。
「これでもお前を信用した上で話したのだ。口外は無しだぞ」
「りょーかい。最初からする気もないしね」
「あら、もしかして話してしまったの?」
しかも口止めされている案件だったらしい。
ハーフエルフとお茶会をした事実が周囲に広まるのは、なるべく避けたいのだろう。
たとえお茶会が上手くいっても、その後の風当たりが強いとなると結果的に溝を深めてしまう可能性もある。
「この男はお前に近い感性を持っている。少なくともハーフエルフに悪感情は持っていない」
「そうなの?」
「俺は異世界人だよ。ある意味では、エルフより遠い存在さ」
「そういえばそうだったのよね。異国の人という印象はあるけれど、違う世界は想像できないから、つい忘れてしまうの」
「俺も彼女とは直接話してみたいとは思っているよ。種族と個人の意思が同じとも限らないしね」
「ええそうなのよ! 皆クーリエさんに怯えているけど、わたしはそんなことないと思うの」
フレイルが直接呼ぶのを避けていた名前――クーリエがハーフエルフの名前だった。
姉が渋い顔をしているが、妹は全くもって気にしない。
彼女の場合は、勇者のパーティー云々の下心なく、純粋にクーリエと親睦を深めたいだけではなかろうか。
「そっか。楽しんできてね」
「ふふ、ありがとう。それとお茶会の後、わたしもマッサージしてもらえるかしら?」
「ああ、それは喜んで」
「なんだか私の時と扱いが違わないか?」
フレイルから訝しげな表情を向けられたが、返す言葉は当然なものだ。
「まさかアートリスをぞんざいに扱えるわけなかろう」
「それは私をぞんざいに扱っていたということだな!」
「うふふ、二人はとても仲良しで羨ましいわ」
「そういう問題ではないと思うが……まあいい。ではいくか」
「ええ、それではまた後でね、タクマさん」
言葉一つ、所作一つ取っても性格の差がハッキリしているアルテイル姉妹。俺は手を振りながら二人を見送った。





