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グッジョブ・ブレイバー  作者: 下駄
第一章 勇者は夕闇<ハザマ>に覚悟する
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第25話『俺達の勇者』

 あかりはまず、一番近くでゴブリンに囲まれていた兵士を助けた。

 基礎訓練を積んできた彼女なら倒すまで数分とかからない。


「アカリちゃん! どうしてここに!」


「加勢にきました。それより逃げ遅れた人達を!」


「了解!」


 あかりが指さした先にいる親子を見て兵士は、すぐに保護と避難を始めた。


 とにかく数多くに囲まれている兵士を片っ端から助けていく。

 キングゴブリンはいないが、初めて見る魔物もいくつか混ざっている。


 三匹で一斉に跳びかかろうとしていたゴブリンを横合いから打撃し、滞空状態のまま粒子を散らせる。

 後ろから仕掛けてきた魔物を裏拳で打ち落とす。

 巨大な目玉が宙に浮く魔物は、その中心を蹴って倒した。


 少しずつ兵士達は自由になっていく。

 けれど、数が多過ぎて減っている感じがあまりしない。どうすればいい。


「ボクが! 相手だあああああああ!」


 気を引こうと大声で叫ぶと、周囲の魔物達が一斉にこちらを振り返り標的を変えた。

 思った以上の成果に驚きつつも、殺到する魔物達を倒していく。


「うわっと」


 不意に腕が重くなり抵抗を感じると、反対側から全身が植物に覆われたモンスターが、蔦を伸ばして腕を絡めとっていた。

 強引に引きちぎろうとすると何匹、何本と蔦の触手が伸びて体の自由を奪おうとする。


「勇者ちゃん、あれはアルラウネ! ここにいる魔物じゃ一番厄介な相手だ」


「ブレイバー、剣を!」


≪Load Caladbolg.≫


 剣を手にすると蔦を切り裂き、アルラウネ達との距離を一息に詰めて薙ぎ払う。

 人間よりも強い魔物達を、更に力で圧倒していく。


≪You get new ability!!≫


「ん?」


 戦いながらブレイバーが新情報を通知した。念じるように開示を許可すると、自動で情報が頭の中へと流れ込んでくる。

 それは新たな技の追加だった。


「これ、もしかして勇者として認められたから?」


 恐らくは勇者の剣を装備したことを発端に、紋章が連動して新たなスキルが解放されたようだ。

 戦闘は現実なのにジョブドライバーだけゲーム感覚で少し調子が狂う。

 それに新スキルは魅力的だが、今の戦況だと少々扱いが難しく打開策になりそうもない。


「勇者様を援護しろ!」


「今日までグラドニアを守ってきた意地を見せてやれぇ!」


 兵士達が声を張り上げると魔物達はそっちにつられだす。そして一度集まると次々そこへ集中していき、やがて対処が難しくなっていく。


「ホントに数押し、もう!」


 ん? と、あかりの中で違和感が生じた。これは似ている。最初にゴブリンの群れと戦ったあの時と。

 今はゴブリン以外の魔物だっていて、逆に司令塔になっていたキングゴブリンは不在だ。

 いや、むしろキングゴブリンが出現したら、ゴブリン達は動きを変則化させていた。


「兵隊長!」


 押し寄せる魔物を切り捨てながら、あかりは指揮者を見つけてそちらに合流する。


「勇者様。やはりこちらへ来てたか」


「ごめんなさい。どうしても町の人が放っておけなくて」


「謝罪は後だ。それに正直助かる。魔物達は今回も指向性を持った動きをしている。これは本来あり得ない」


「やっぱり……」


「ああ、恐らく大きな物音や声に反応して集まり、数が多いとこにより集中する」


「声と集中……」


 魔物達の動きはまたもイレギュラーで、城下町への侵攻も含めて皆の想定外だった。


 ――『奴らは餌蒔いた場所に集まるだけが取り柄の烏合の衆!』


 なのに何故拓馬は、あんなことを言ったのだろう。

 ゴブリン以外の魔物も含まれているのに、彼の言葉はまるでこの状況を想定しているような言い方だった。


「まとめて……そうだ! 兵隊長、ボクに考えがあります。上手くいけば魔物達を一気に倒せるかも」


「何だって、それは本当か?」


「はい、でも。これはボク一人じゃできません。皆さんの力を貸してもらえませんか? ってあふぇ!」


 頭をはたかれた。痛くないがいきなりでビックリする。


「馬鹿、お前は勇者様だがな、ここは俺達の国だ」


「でも、結構危険な……あうえ!」


 二発目がきた。声が大きくなって魔物も来たので慌てて倒す。


「危険なんて承知で全員ここにいるんだよ、素人勇者!」


 あまりに正論過ぎて返す言葉もなかった。


「今日だってそうだ。一人で抱え込むな。お前が辛いなら俺達も支える。今だけでもちゃんと頼れ」


 ああ、わかっていたじゃないか。自分で言ってたじゃないか。


 ――グラドニアの人達は、皆優しくて良い人だ。


 いつか一人で戦えるようになるため、今は頼りながら精一杯頑張ろう。


「はい、お願いします!」


 ●


 呉乃あかりは集会場の広間で一人立ち尽くしていた。

 周囲には民も兵士も魔物もいない。


 遠くから風に乗り、人とも魔物とも付かない叫びが鼓膜を震わせる。

 緊張はしている。

 不安もある。

 何か見落としてはいないかと。


 でももう走り出してしまった。

 そう、皆は走り出している。


『各走者、状況を報告せよ』


 持たされた通信機から発せられるのは兵隊長の声だった。


『A地区高速走者、問題なし。おーら、こっちだお前ら! しっかり付いてこいよぉ!』


『A地区低速走者、同じく』


 AからDまで町を区分けして、その中を兵士達が駆けている。彼らの後ろには大量の魔物が追跡中だ。

 走者に選ばれた兵士は何度も声を張り上げて走る。すると魔物は一番大きな物音を立てる走者を追いかけだす。

 そして他の魔物も追いかける魔物に連鎖して走者を追跡する。


 中には足が遅くて振り切ってしまう魔物もいる。

 なので、まずはゴブリンなど足の速い魔物を追わせて、新たに低速の魔物を向けの第二走者を出す。

 これで町中の魔物をコントロールする。それが第一段階。


『B地区……おっとビーチクだけどいやらしい意味じゃないぜ?』


『こら! アカリちゃんも聞いてるでありますよ! セクハラ! セクハラ厳禁です! おっと、B地区低速走者問題なしであります!』


『悪かったって、高速走者も問題なしだ』


 声だけならおちゃらけているが、これはきっと自分を安心させるためのポーズだ。

 体力の問題から走者は皆鎧を脱いでいる。特に高速走者はスピードも要求されるため武器や防具もない。

 捕まればまず助からない。スタミナが切れてもおしまいな極限状態での追いかけっこ。


 低速は剣と盾を持っているし、敵の足が遅いからと言って油断はできない。

 目玉型は目から魔力弾を放ち、蔦を伸ばす魔物もいる。そんな相手から一定の距離を保ち、攻撃も防ぎなら誘導を続けねばならない。


『C地区高速走者、ちょっとキツいがまだイケる!』


 他の皆からも次々と状況報告が入ってくる。危険を示すアラートも中にはあるが、誰も彼もが悲観的な言葉は口にしない。

 まだやれる。まだ走れると。恐怖の中で自分の役割をこなしている。


『D地区低速走者。盾端ちょっと欠けた。目玉野郎が多いからちと厄介だな。目玉焼き食いてえ』


『この状況でそれ言えるなら大丈夫だな。よし走れ。D地区は面積が小さいからな。避けながら周回を重ねろ』


『さすが兵隊長容赦ぬぇえ! はい、よっと……了解でっすぅ!』


「あの、かなり無茶してません?」


 今の会話、明らかに連続して攻撃避けながら返事してたよ?


『こいつらはそんな簡単にくたばらん。お前はそこでドッシリ構えてろ!』


 彼らが最後に目指すのはあかりが待つ広間。全員がタイミングを合わせて同時にここへ至るのが目標だ。

 そのため区画と速度ごとにコースを適宜調整している。一つでも狂えば計画は失敗。死者も出る。

 彼らは非常に危険な戦いを強いられているのだ。


『女の子にドッシリはアウツ! いくら兵隊長と言えどよくないであります!』


『B地区組はちょっと黙って走れ』


『そういやノーヴェルに魔電式ゲームってのがあってな。魔物にぶつからないようアイテム集めんだけど、ゲットする度どんどん身体長くなっていくんだよなー。今の状況にちょい似てね?』


『スネークぱっくんだな。知ってる知ってる。あれ息子に買ってくれとせがまれまくっててなあ』


『訂正だ全員黙って走れ』


『誘導できねえよ(であります)!』


 総員から兵隊長へツッコミが入った。皆すごいなあ……。

 とはいえこれらは空元気。いったん沈黙してしまうと重い緊張が走ってしまう程に。


 いつ終わるとも知れない。結果に行き着くまでは止まれない。


「皆さん、タイミングが合ってきてます。後少し、頑張ってください」


 言い出したのは自分なのにここで応援しかできない。それが申し訳なくてもどかしい。


『そうだねえ。アカリちゃんからのご褒美が欲しいかなー。例えばサインと握手会とか?』


『あーまたセクハラ! 濃厚接触系セクハラであります!』


「え、それくらいなら全然いいですけど……」


 ていうか、それ自分が相手で何がそこまで嬉しいのだろうか?


『え?』


『マジで?』


「はい。ボクなんかでよければ」


『よっしゃああああああああああ!!!!』


 男達の歓喜が、完璧な一体感を伴った雄たけびに昇華された。


『やれやれだな』


 兵隊長の呆れ声が唯一の共感だった。


『いや、今の叫び声兵隊長も入ってたでしょ。知ってますよ勇者アカリちゃんファンクラブの会員No.2なの』


『そ、そんな! 負けたー! であります』


 ちょっと待ってファンクラブてなんなの?


『ゴホン! いいかお前ら! 握手会は強制参加! 全員生還が絶対成功条件だ!』


『おおおおおおおおぉぉぉ!!!!』


 だから何その一体感。


『C地区人民避難完了! 高速走者変われるぞ!』


『D地区低速走者へ。新しい盾よ!』


『よっしゃ元気百倍!』


『A地区高速。まだ走れっから調整でもう一周いっとくわ。コース指示よろ』


 ああ、でも。皆の空気が変わった。

 いくつものやり取りの中で、士気を上げ、助け合い、最短最速で最良の結末へ繋がる条件が整えられていく。


 誰も彼もが本気でグラドニアを守ろうとしている。

 ここにいるだけで、その熱が伝わってくる。心が震えた。


『よし、全員の状況整った。後一分でくるぞ! お前の出番だ勇者アカリ!』


「はい!」


 己もその中の一人。()()()()()だ。


 自分はまだまだ新米で、ダメダメな、一人前には程遠い勇者。

 だけど一生懸命鍛えてくれる人達がいる。

 守ってくれようとする人もいる。


 自分は幸せ者だ。

 地球でも。

 グラドニアでも。


 不安や迷いはもうない。

 今やれることを、全力で。


 あかりの位置する反対の端から高速走者達が見えてきた。

 彼らが中ほどへと入ると、ほぼ同時に両脇から低速走者達も合流。


 全ての走者が揃い、ラストスパートをかける。


「ブレイバー、必殺技!」


《Favorite job! Braveeeeer!!》


 手にした(カラドボルグ)に輝きが満ちて、勇者はその場で重心を下げて大地を踏みしめる。


 八人の走者達が同時にあかり(ゴールライン)を越えてその場に倒れこむ音が聞こえた。

 ここからは自分の役割。勇者が果たす使命。

 それは――


「命と心を! この手で繋ぐ!」


 皆の意志を、

 抗う覚悟を、

 希望の未来を、


 最良の結果へ導くため――手にした勇者の剣を一閃した。


 裂かれたのは虚空。

 迫りくる魔物達はまだここに至っていない。

 誰もいない大気を稲光が走った。


 光は一筋の線となり、あかりの視界を二つに区切った。

 空間が()()()と滑り割れて、続け様に境界が爆裂した。


 爆砕の衝撃で魔物の大群は跡形もなく消し飛んでいく。

 破砕の範囲は広間の端まで。

 正確には勇者の視界に収まっていて、彼女が斬ると決めて剣を振った範囲の全て。


 剣の限界を遥かに越えた圧倒的な射程と切れ味。

 一振りで虹のかかった丘三つを切り裂いたという伝説の正体。


 それが視界に映るあらゆるものを切り裂き爆砕する剣戟術式なのだと、あかりは理解した。

 やがて爆風が散った光景を見ながら彼女は通信機で兵士達に伝える。


「視界に魔物は残っていません。作戦成功しました!」


 これが、皆で目指して辿り着いた結末。


 ●


 勇者の背後で兵士達は見た。

 まさかの空振りと、そこから始まった驚異の破壊劇を。


 数百の魔物が一瞬で死に絶える。それもたった一撃。攻撃を正確に当てる必要さえない。

 こんな埒外兵器がまかり通るのか。

 こんな埒外をまかり通すのが勇者なのだ。


 次元が違う。

 存在が違う。


 理屈ではなく本能で兵士達は感じ取った。

 あの輝きはこの世界にあっていいものではない。


 こんな力を、まだ技術も心も未熟で不安定な一人の少女が保有する。

 勇者がこの国を不快で邪悪と思えば、容易く滅ぼされるだろう。

 異世界からの来訪者に未来を託す行為の危険性を、彼らは改めて認識した。


 敵性殲滅の報告を終えた勇者は振り返り、地面へ腰を下ろしたままの兵士達へと向き直った。


「皆さん、ありがとうございました!」


 開口一番そう告げると、勇者は深々と頭を下げる。

 それが彼女の出身地においては相手に礼を尽くす行為なのだと以前に聞いた。


「やったのは君の力だよ」


 兵士の一人が力なく笑って返した。

 自分達は勇者が活躍するためのお膳立てをしただけ。


 兵士達だけなら最悪物量差を前に敗北していたかもしれない。少なくとも町全体の被害は甚大なものになっていた。

 国を救ったのは間違いなく勇者の功績だ。


「いいえ、ボクだけじゃ何もできませんでした。命がけで町を走り回って、人々を助け出して、町を救ってくださったのは兵士の皆さんです」


 勇者の顔からつうっと一筋の涙が流れ落ちた。


「おいおい、大丈夫か? もしかして今のでどこか怪我を?」


 あれだけの力を放出したのだ。体に大きな負担がかかってもおかしくないと心配したが、彼女は首を横に振った。


「ごめんなさい。話してたらさっきまでのこと思い出して……皆さん、本当にすごくて」


 この勇者は自分の力や功績をまるで誇示しない。

 それどころか、自分達のあがきこそ尊いものだったと、心から感動してくれている。


 兵士達はさっきの心配がとんだ思い違いだったと気付いた。

 世界を変える力を得てなお、自分はあんな風に笑って泣けるだろうか。


「やっぱりアカリちゃんは最高であります!」


「ああ、ホントにスゲーや」


「え? え? ああ、この剣ですか? 確かにすごい力でしたけど。狭い場所じゃ使えないし、もっとコントロールできるようにならないと」


 どこかズレた反応が彼女らしく、そして愛らしいとさえ思う。


「ですから、これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」


 あかりはもう一度、その場で深く頭を下げた。

 この場にいる全員が確信する。彼女なら大丈夫なのではない。彼女だから大丈夫なのだ。


 見てろよ世界。これが俺達の勇者だ。



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