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グッジョブ・ブレイバー  作者: 語屋アヤ
第一章 勇者は夕闇<ハザマ>に覚悟する
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第2話『信じる幼女は救われたい』

前回までのあらすじ:

召喚されたのはロリコンではなく幼女愛好家(ベジタリアン)だった!

違い? 感じだよ、感じ!

 セシルはタクマを連れて一旦地下にある召喚の間から出て、何とかお城の応接間まで連れてきた。

 何とか、と表現したのは、ここにたどり着くまでものすごい勢いで城内をキョロキョロして、あれ何? あれは、あれ! と色々聞いてきたためだ。

 その度にセシルが回答していく流れを繰り返して……まさに好奇心の塊だった。

 それは応接間の中でも変わりない。


「わぁーお。なんかよくわからないけど、全部お高いのはわかるよ!」


「それはわかるんですか、わからないんですか……」


「このお高いお部屋で話をするの?」


「勇者様をお通しするに相応しい部屋であると思います。さあ、お座りください」


 対面して座ったテーブルには、やってきたメイドにより淹れたての紅茶が二人分並べられた。

 拓馬のカップを持つ手が震えているのは気になるが、さっきより幾分大人しめになっているのはありがたい。

 とはいえ、あまりガチガチだとそれはそれで困る。


「そんなに緊張しないでください」


「と、ととととても良いお紅茶ですね!」


 まだ一口も飲まずに言った。

 香りだけでもとても良いのは確かなので、あえて追求はしないでおく。


「それではこの国のことと、今の状況をわかりやすくご説明いたしますね」


「あ、ハイ。よろしくお願いシャッス! って、それは?」


 セシルは予め用意しておいた画用紙の束をテーブルに立てた。


 ――ふふ、驚いていますね。


「これはわたしが今回のご説明用に考えて開発しました。紙の小劇場(ペーパー・シアター)です!」


 えへん、と彼女は胸を張った。

 これこそ効率よく、そしてわかりやすくこの世界を伝える便利アイテムだと自負している。


「絵と、その裏側に文章が書いてあって、読み上げると二つが合わさり物語になるのです!」


 絵、ストーリー、演出のいずれも考えたのはセシルだ。工夫に工夫を重ねた逸品である。


「なるほどー。うふふ、それは楽しみだなあ」


「なんで急に微笑ましそうなお顔に?」


 今までと違って本当に優し気な微笑なのがかえって気になった。


「いいからいいから」


「うう、まあいいです。それでは始めましょう」


 そうして、テーブルの上に紙を軽く叩くよう揃え直して、セシルは紙の小劇場(ペーパーシアター)を読み上げていくのだった。


 ●


 昔々、といってもそこまで昔ではありません。具体的にはおよそ四十年前。

 この世界は悪い魔王からの侵略を受けました。

 そして、あちこちで凶悪な魔物が暴れだしたのです。


「ええと、このちょっと目付きの悪いけど、愛くるしい動物みたいなのが魔物でいいのかな?」


 そうです。動物じゃないですけど。とても恐ろしい顔じゃないですか。

 犬さんやクマさんはもっと愛らしいものです。


「ああ、うん。ごめん。続けて続けて」


 こほん。それでは。

 魔王は世界と魔界を繋ぐゲートを作り、そこから魔王の軍勢を送り込んできました。


 世界中の国々が魔王に抵抗しましたが、魔王軍は日々増大し、魔王の影響でより狂暴化していきました。

 それこそ、魔王の瘴気を受けて森の動物達ですら魔物化を始めたのです。


 ほら、こんな風に角とか生えちゃったり。目もグワーッと!


「魔物の可愛さもさることながら、ゲートがフラフープ……いえ、なんでもありません」


 多くの血が流れ、たくさんの人が魔物の犠牲となりました。

 けれど、わたし達には救いがもたらされました。

 世界の惨状を憂いだ女神様が、異世界からの救世主――勇者様をこの世界に導いてくださったのです。


「女神様は比較的等身大なのに勇者様、2.5頭身かあー」


 もう、真面目に聞いてください!

 かつての勇者様は聖なる(つるぎ)と共に、タクマさんと同じ聖域で召喚されました。


 そして壮大な冒険の末、勇者様と頼りになる仲間達はゲートを逆に利用して魔界へ乗り込み、魔王を見事討伐。

 異界同士を繋ぐゲートは閉じられた……と伝えられています。


「伝えられている? 比較的直近の歴史なのに随分曖昧だね」


 はい、物語にはまだ続きがあります。

 ゲートは確かに閉じられて、それ以後瘴気が悪化することも、魔王軍が新たに増えることもありませんでした。


 想定よりも時間はかかりましたが、魔王が出てくる前と同様に、世界は平穏を取り戻したのです。

 しかし、勇者様は未だに魔界より戻られてはいません。


 本来、魔王が討伐されたなら魔物達は力をどんどん喪失して、やがては消滅するはずでした。

 けれど、弱体化こそすれどういうわけか魔物達は今も残り、人々の生活を脅かしたままです。

 それにゲートが閉じたことで以前より魔王軍の勢力は大きく落ちたとはいえ、残党は世界のどこかに潜んで時折人の住まう町に襲撃をかけてきます。


「そんな……! 裏からページをまくるような絵で魔物達が端っこに潜んでいる!」


 ふふふ、渾身の発想で描いたページです。


 魔物はまだ確かにいます。

 いえ、それどころか魔王軍残党が何かを実行して、魔王が復活したという情報が入ってきます。


「おお、なんか邪悪そうなデッカイ影が!」


 他にも平和の陰で隠れ潜んでいる魔族の者と契約することで、邪悪な力を得る魔女が現れたという報告が各所からありました。


「情報に報告ね。どちらも確定情報と言えるのかい?」


 現段階ですとどちらもそれなりの確度ですが、皆が明確に実感しているものではない、としか。

 ただし、局所的に魔物の増加も発生しています。これはグラドニアも例外ではありません。


「火のないところに煙は立たぬ。魔王なきところに魔物は生まれぬか。なるほど、そこで新たな勇者が必要ってわけだ」


 ええ、ですが勇者様の召喚をはじめ、世界の情勢を大きく動かす事態になった時は、これまで必ず女神様が神託を下してきました。

 けれど勇者様が行方不明になって以後、女神様の神託も途絶えています。


 理由は不明で、とても哀しいことですが、これは事実。

 かと言って魔王達の暗躍も見過ごすこともできません。


 そのため我々は独自に異世界召喚を実行。国中から強者を集めて新たな勇者を生み出す計画を立てました。

 それが新聖勇者教設立計画。皆さん、略して勇者教計画と呼んでいます。


「現在の女神信仰が薄れたから、根っこの女神バンザイは捨てず、新たな勇者の時代を象徴する宗教を作ろうってわけかい?」


 おおよそはその通りです。

 そして今日ここに、新たな勇者様が召喚されました。勇者アカツキ・タクマ様が!


「紙芝居の最後に俺を指さし、物語を現実に移すというセシルたんの考え抜いたラスト演出は評価しよう。だが、俺は勇者にはならぬ」


 そこはその、なんとか考え直してもらえないでしょうか。

 あ、紙の小劇場(ペーパーシアター)はこれにて完結です…………拍手、してくれてもいいんですよ?


 ●


 一名による万雷の拍手でもってセシルの紙の小劇場(ペーパーシアター)は幕を閉じた。


 それはそれとして、自分が勇者だと言われる度に拓馬は心底嫌そうな表情をしている。

 こんな状態の彼を、国王に引き合わせてもいいものか。セシルは考えあぐねている。


 さっきから不規則言動とアッパー気味なテンションで不安を煽る人物だ。

 国王と相対するなり失礼な勢いで勇者辞退宣言もあり得る。

 とはいえ、召喚の成果報告をする時間も迫っていた。一応簡単な現状報告は念話でしている。


「状況は今説明した通りですので、一先ず王様との面会をお願いできませんか?」


「そんなこと言って、なし崩しに勇者ってことにしちゃう気でしょ! お断るよ!」


「できるだけタクマさんの意思は尊重したいと思います。ですがまずは国王様と謁見していただかないと何も始まりません」


「ぐぬぅ」


 立場上、自分の権利を確保するためにもここは会っておくしかない。という理解はあるようだ。

 腕を組み考えるタクマは何かブツブツとつぶやき出した。


「やはり第一声は娘さん……セシルたんをくださいか」


「わたしは国王様の娘ではありません!」


 王に会うことですら結婚ルートに直結していた。どういう頭の構造してるのか。


「タクマさんの意思はちゃんとわたしがお伝えしますから、国王様の前では失礼のないようにしてください」


「つまりセシルたんの婚姻希望を伝えてくれるのだね!? 親公認ゲットォ!」


「勇者の件です!」


 だから親じゃないとも言っているのだが、あまりに自分ルールが過ぎるので伝わらない。


「お願いします。これは必要なことなんです。ふざけないで協力してください」


「俺はいつだって真面目だよ!」


 尚悪い。とツッコミたいのに耐えセシルは立ち上がると、タクマの隣に移動してそっと彼の手を握った。


「セシルたんの柔らかロリハンドだと! これは手を取ってキスする流れ? ヴェーゼっちゃう!?」


「ご協力、していただけませんか?」


 ここは流石に引けないので繰り返す。


「ハイっ! くーまん良い子! 協力しゅる!」


「ありがとうございます!」


 今までの苦労は何だったのかって勢いで頷きまくる変態。首もげないか心配になるくらいめちゃくちゃチョロかった。

 ほんの少し大切な何かが穢れた気がしつつも、一歩前進したことを素直に喜ぼう。そうやって己に言い聞かせるセシルだった。


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