第10話『召喚師セシルの憂鬱』
セシルは招集を受けて、謁見の間で国王と対面していた。
最高級品の椅子に腰掛ける王と、起立して用件を窺う幼き少女。後は王を守護する近衛兵のみで、かなり人物の限られた空間だった。
「セシルよ。お主と調査員の報告書には一通り目を通している」
「はい」
つまり、その件で呼び出したということだろう。当初の予定にはなかったので、良い予感などしようはずもない。
「計画はプレゼンターはこれ以上甘やかさず、勇者の鍛錬は緩めよと命じたはず。現状が逆になっておるのは何故だ?」
「プレゼンター様は以前よりやる気を見せております。これ以上縛りを強くするとモチベーションを落とし反抗的になる恐れがあるため、常に距離感を測っております」
「ならば勇者は?」
「勇者様は己の使命を重く受け止め、成長を強く望んでいるためです」
拓馬の自由な気質で縛り付けるとむしろやる気を失くす。
対してあかりは努力家で真面目な性格で、メキメキと成長している。
セシルは二人の性格と望むやり方を通していた。
だが、その回答では王の納得は得られなかったようだ。
「手ぬるい。プレゼンターには礼儀作法と立場を理解させよ」
セシルの反応を待つことなく、王は続けざまに勇者についても言及する。
「勇者は機嫌を損ねてからでは遅い。余計なストレスを与えない環境を徹底せよ」
「それではお二人の意思を無視することになります」
「構わぬ。此度の召喚者達は女神ニグラの導きによるものではない」
「それは……」
「なれば、この者達の地位は平民である」
グラドニアでは貴族と平民で明確な地位の差がある。
けれど、女神の神託による召喚者達はそのどちらでもない。神が遣わせた特別な存在だった。
だが拓馬とあかりはその根底が崩れている。貴族とは生まれの血を重要視するため、分類の上では平民側となってしまう。
「粗末に扱えと言っているわけではない。これは来たるべき時代にて召喚者達の立場を確保することにもなろう」
はいとも、いいえとも、セシルは答えられなかった。
反論はしようと思えばできる。けれど下手な反抗は最悪、勇者教計画の管理者から外される可能性もあった。
それだけはできない。セシルにとって、現在の地位だけは何を犠牲にしても絶対に死守せねばならない理由がある。
「勇者教計画に失敗は許されぬ」
王の命は正しいのかもしれない。けれどそれは二人の人間性を完全に無視した正しさ。
「かしこまりました」
心の中でどう否定しても、セシルはそう答えるしかなかった。