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グッジョブ・ブレイバー  作者: 語屋アヤ
第一章 勇者は夕闇<ハザマ>に覚悟する
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第1話『召喚師セシルの使命と奮闘』★ヒョウシ

挿絵(By みてみん)


『この世界はまだ夢を見ている』


 それはかつて、とある者が少女に告げた言葉だった。


 世界はまだ夢の中にいる。

 いつ覚めるともわからない、偽りの平和という夢を。


 だから世界が目覚める前に、女神の庇護が完全に届かなくなる前に、やり遂げなければならない。


 グラドニア国に勇者をもたらして、世界を救う一歩目を踏み出す。

 それが召喚師セシル・ラングレンの使命だ。


 セシルは一年前、九歳の時にグラドニアの王宮魔導師となり、王室に仕えるようになった。

 それは年齢不相応な重圧ではあったけれど、これ以上ない栄誉であるとも教わった。


 グラドニア城の地下神殿に入室を許されるのは彼女だけ。

 王室の尊き御方達ですら、足を踏み入れられない絶対の聖域。


 今着用している衣服も、神に仕える者のみが纏える白を基調にして青のラインが入った法衣。

 この場でしか行えない勇者召喚の儀式は、同時にセシルだけが行える神事だった。


 この神殿には魔力が満ちている。

 それも、魔力の中で最も純度の高く清いとされる聖素のみ。


 神殿を支える無数の柱。それら一本ずつに魔力が走っていて、うっすら透き通る中で澄んだ青が通り抜けていく。

 それはまるで脈動する血管のようだ。


 これらは聖素を含む特殊な魔石を丁寧に加工して造られたと記録されている。

 この石は今ある神殿で使用されている以外は現存せず、新たに建築するのは事実上不可能だ。


 神殿の中心地には、無数の幾何学模様が不規則に並び、重なり、組み立てられた、神代の大きな魔法陣が描かれている。

 そこには現代だと解析不能な古代文字による呪文も書き込まれており、セシルですらその詳細を知り尽くせてはいない。

 これは人智を超えた神の御業によって生み出されたものであると、権威ある魔導学者様は語っている。


「我は天理の女神と盟約を結びし従者(もの)なり」


 セシルは魔法陣の手前に立ち、異界を繋ぐ詠唱をはじめた。


「夢幻の最果て、神世の門よ」


 一字一句違わぬ言葉を、定められたリズムで、


「銀の鍵を以って我が声を届け給え」


 神殿の内部を駆け巡る穢れなき聖素が、彼女の呪文に呼応して眼前の魔法陣へと集中し、青から虹色に輝き出す。


天地(あめつち)を光で満たす使命を宿した者を、この地へ招け!」


 虹はやがて渦になり魔法陣を満たして、無風だった部屋に激しい旋風を起こした。腰まで届く少女の金髪がなびいている。


「開門!」


 最後の詠唱に反応するように虹は光の柱と化して、一際激しく輝きを発した。

 立ち上る光はやがて収束されていき、余剰魔力が粒子となって周囲に飛散していく。


 そして眩しい輝きの中、魔法陣の中心に何者かが座り込んでいるシルエットが見えた。


「やった……!」


 ――ちゃんと、できました。


 光が消えて視界がハッキリしてくると、召喚者の姿も鮮明になっていった。


 そこにいたのは十代後半ぐらいの若い男。

 それでも幼いセシルよりはずっと年上だ。


 長袖の白いカッターシャツに、黒のズボンと袖のない上着、そして中割れ帽子。

 ネクタイは紫色で全体的に落ち着いた色合いでまとめられている。


 首輪のようなものが巻かれていて、それも黒。

 そのバックルには金の紋様が施され中心に赤い宝石が埋め込まれている。


 目元や耳に軽くかかる程度の髪もまた、彼の国柄を示す黒。セシルからすれば異国情緒のある相貌だ。


 暫くは周囲を見渡していた視線が、彼女へと向けられた。

 少し鋭くて、どこか影のある双眸。


「あなたが……」


 問いかけの言葉を紡ぎ終えるより先に、彼は立ち上がるとそのままセシルの前へと駆け寄ってきた。

 間近まで来ると片膝を付いて顔を伏せ右手を広げて、こちらへ差し出す。


 そして告げた。


「結婚を前提に妹になってください!」


「……………………はい?」


 言っている意味がわからなくて、問うべき言葉すら失い、思わず固まってしまった。

 しかし彼もまた、その場から動きも喋りもせずじっとしている。

 もしかして、こちらの返答を待っているのだろうか?


「あの、ええと、もしかしてですけども、婚約を申し込まれたのでしょうか?」


「もちろんですとも」


 何がもちろんなのか、全くもって意味不明だった。


「結婚を前提に、ですよね?」


「マリッジ前提です」


「でも妹になってくださいって」


「イエス、ロリータ! プリーズシスター!」


「え?」


「え?」


 ――どういうことなのでしょうか。完全に矛盾していますよ?


 しかもそんな『どうして理解できないの?』みたいな顔されても困る。


「妹でお嫁さん、最高だね! いやむしろ最強というべき組合せ」


「水と油だと思います」


 ――混ざり合いませんから、それ。


「じゃあ結婚だけでもして帰ってね」


 ともあれ結論としては、名前だけでも覚えて帰ってねっくらいのノリで求婚された。


 異性から愛の告白を受けたことすらこれが初めての経験だ。

 王室に仕える家系と身として、望んだ結婚ができる立場でないのは幼いながらに重々理解しているが、初めてがこれだなんて。正直泣きそうだった。


「お気持ちは大変うれしいのですが……」


「つまり通じ合ったのだね! ラヴがっ!」


 伏せていた顔を上げて満面の笑み。変態が社交辞令に全力で食いついた。


「も、申し訳ありません! わたしはグラドニア王国専属の召喚師なので……。婚姻に応じることはできません」


 それ以外にも大事な勤めが色々とあるのだが、現在はそれが一番大きく重要度も高い。

 異世界からの召喚が可能なのは、今やこの国では彼女一人だけなのだから。


「そんな! 身分の差が愛し合う二人の仲を引き裂くというのかい!?」


「どうしてそうなるんですか!」


 頭と胸にそれぞれ手を当てて、彼は項垂れた。

 変態の脳内設定では今ので相思相愛らしい。こわい。


 本来ならばまずここがどこで、何故喚ばれたのかを説明しなければならない。

 しかし召喚早々から求婚イベントで、セシルはどう対応すればいいのかわからなくなっていた。


「もうシャイで愛らしい子だな………拓馬」


「え?」


 突如の言葉にセシルは目をぱちくりして、また驚きの表情で少年を眺めていた。


 ――タクマさん……?


 彼はそんなことお構いなしに言葉を続ける。


「俺の名前は暁拓馬だよ。幼女と平穏をこよなく愛するKENZENな男子さ!」


 セシルの召喚した勇者は、求婚の後で名乗り上げた。


 ――え、どうして? 何でこのタイミングですか?


「よろしくね、愛らしい美幼女ちゃん!」


 セシルは深く理不尽な困惑を経た後、やがてスカートの裾を摘み一礼して、名乗り返してみた。


「グラドニア王国専属召喚術師、セシル・ラングレンです。以後お見知りおきを」


「セシルたんかー。容姿と同じで愛らしい名前だね! それじゃあ恋人から始めよっか」


 ――妥協ラインが狭すぎますよ!?


 愛は重いけどフットワークは軽い変態だった。


 そもそも『たん』ってどういう意味なのか?

 掘り下げるとろくな目に合わなそうなので、とりあえず愛称みたいなものと思っておくことにする。


「その、せめてお友達からでは駄目でしょうか?」


「美幼女のお友達。心が滾るね!」


 こっちは恐怖と混乱で心が凍り付きそうだ。

 それなりに整っていて異国風の独特な顔立ちの方なのだが、率直な感想を述べるととても残念な人だった。


「では、あの。はい。お友達でお願いします」


「イィィィヤッフォォォ!」


 お友達って増えるとこんなに気分が沈むものだったろうかと自問自答していると、馬鹿が跳び跳ねてから一息入れ、


「……それで、ここは一体何処かな?」


 ――行動順序が滅茶苦茶です!


 やっと状況説明を求められた。彼にとっては幼い女の子に告白する方が、いきなり見知らぬ場所に飛ばされたことより大事なのだろうか。そうなんだろうなあ。


「グラドニア城にある召喚の間。あなたから見ると異世界に当たります」


 何にせよ、自己紹介と状況把握はできた。

 変わり者のラインすら踏み越えている気はするが、ここは本来女神様の神託を賜る神聖な場だ。

 ならば、これも女神様のお導き。


 そして拓馬への本格的な対応を考えるのもここからだった。

 というかやっとスタート地点って、何だこの茶番。


「ふーん」


「ふーんって……」


 自分から聞いておいてこの反応の薄さ。

 さっきまでこちらに向けていた情熱は何処へ消えてしまったのか。


 ――いえ、再燃される方が困るので、やっぱり今のままのあなたでいてください。


 それにしても、やはり全部知っていてやっているのでは? と疑いをかけるぐらいには淡白な反応だった。

 召喚早々あまりに飄々と自由な行動を取り続けている。それでも一応現状確認を試みているようには見えた。


「つまり俺は異世界に召喚されたと?」


「その通りです。にわかには信じ難いかもしれませんが」


「いいや信じるさ。他でもない愛しのセシルたんの言葉ならね!」


 彼女は人生で今日初めて、信頼されて気持ち悪いと思った。

 話が進めやすいのにすっごく嫌なのは何故だろう?


「世界は今、不安定で危険な状況にあります。タクマさんには勇者となってこの世界を救っていただきたいのです」


「勇者ねえ……はっ!」


「どうなさいましたか?」


「俺が勇者となって世界を救えば君と結婚できる権利がもらえるとか、そういう愛の試練だね」


「違います」


 愛を試すとかそういうジャンルではない。


 ――この人の思考回路は何処からどうやってわたしとの婚姻に繋がるのでしょう。


「むしろ勇者になれば、わたしなんかより、ずっと素敵で大人の女性の方達といっぱいお知り合いになれますよ」


「あー、俺、十二歳以下のレディーにしか興味が無いので」


 十二歳以下はレディーよりもっと幼い子供の範疇ではなかろうか。


「幼女のコスプレとロリババアも駄目だ。本物をくれ」


「すみません、意味がわかりません」


 そういえば、小さな女の子しか愛せない特殊な人がいるとは聞いたことがある。


「もしかして、タクマさんはロリコンというご病気の方でしょうか」


「いいえ、俺は崇高かつ立派な幼女愛好家(ベジタリアン)です!」


 やれやれ、と彼は立ち上がって呆れたように首を左右に振る。


「俺を性犯罪者や十三歳以上しか愛せない熟女フェチの肉食獣共と一緒にしないでいただきたいね! ほら、謝って!」


「ええと、あの、ごめんなさい……」


 ――どうしてわたしがごめんなさい?


「それで、どちらにせよ俺はハイスクールに通う超健全学生なので、超人系高校生スペックやチートは持ち合わせていないよ」


 ようやく脱線し続けていたレールが本筋に繋がった感覚を得た。


「不安に思われるかもしれませんが、タクマさんには心強い武具が一緒に召喚されているのです」


「武具? どこに?」


「タクマさんの身につけている首輪。恐らくはその宝石がアームドジョブです」


 彼はよくわからないと言った表情で首を傾げた。


「アームドってまた物騒な名前だなあ。このチョーカーが?」


「召喚者には、別世界から強力な武器や魔道具(アーティファクト)が選ばれて召喚されるのです」


 説明しても、どうにもしっくりこない様子だった。

 いきなり異世界に召喚された人らしい反応を示してくれて、セシルとしては逆に話しやすいくらいである。


「一先ず状況を整理してもいいかな?」


「はい、どうぞ」


「今この場は地球の日本ではなく、俺の知らない異世界で、ここはその中のグラドニアって国」


「ええ、そうです」


「そんで俺は君に召喚され恋人になった」


「お友達です」


 恋人だけは断固否定した。「ちぇ……」という舌打ちは聞こえない振りをしておく。


「で、勇者になれだっけ?」


「はい、その通りです」


「お断るよ!」


 その切り返しにセシルはふっと目の前が真っ暗になったような錯覚に囚われた。


「そんなことよりお兄さんと愛を育もう!」


 何だか様子が変だとは思っていたのだ。

 召喚の儀式で呼ばれるのは必ず勇者になる気のある者のみに限定される。つまり、


 ――わたしは間違った変態さんを召喚してしまいました!



Illust:有木順 様


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