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喫茶フェアリー  作者: ばんり
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 ここはフランスのとある地方にある、とある町。


おとぎ話のモデルとしてよく使用されているこの町は、中世ヨーロッパ時代の雰囲気を残しながらそこにずっと生き続けている。

カラフルな優しいパステルカラーの外壁をした木組みの家や、窓に飾られた花々、透き通った水が流れている運河、ゴミひとつ落ちていない石畳の道。

空気まで美味しく感じてしまう。

愛娘いわく、もしかしたらこの空やこの町は、全てお菓子で出来ているのではないかという、メルヘンな気持ちにさせられるくらいに現実味を感じられない場所なのだ。


町は活気に溢れ、名産のブドウ酒や焼き立てのパンやお菓子、軽食などが売られている。

もちろんそれらだけではなく、美術館や教会も立ち並び、レトロでアーティスティックな建築と絵画も有名。

ここに住む町人は、朗らかでいつも楽しそうだ。

人々は心豊かに、他人を思いやりながら助け合い生活をしている。

住民はゆったりとした時間の中で、人が本来持つ優しい心と、人生の楽しみ方を上手く生かしながら生活しているのだろう。


人も、人でないモノも、きっと住みやすい環境だよと妻が言っていたことは本当だった。


妻が憧れていたこの町に住むようになって、もうすぐ七年。

語学力も、まぁ、最初の頃よりはマシになったかな。

私は妻が生前営んでいた喫茶店のマスターをして今年で三年目になる。

赤い蝶ネクタイを締め、白いシャツを中に来て、その上から黒いベストを着る。そんな恰好でいつも仕事をしている。

こんな格好、昔の私が見たら驚き笑い転げてしまうだろうな。


 しかも、一緒に働いているのは人間ではないなんて。


「おいジョージ! ボケぇっとたそがれてないで筋肉動かして仕事しろよ」

私に喝を入れてくる体育会系なこいつはタケル。

見てくれたまえ、あの筋肉を。毎日の筋トレは欠かしたことがないらしい。

「そうだぞ。ま、ワシは仕事せんがな」

 この寝ころびながら朝ごはんのパンを頬張っている、ジャージが戦闘服のおじさんはヒロシ。

いつもやる気が無い態度をし、お気楽に過ごす毎日を送っている。

「ばかおっしゃい! 寝転んでないでキビキビ働く準備! このぐーたらじじぃが」

 ヒロシの尻を叩きながらしゃべっているのはトシコさん。

母親の様にこいつ等をいつもまとめている。

「あわわ、そんな怒らないでください。怖いです」

 怯えながら涙目になっているこの美少女は、サナ。

消極的な性格だが、スイーツを作らせると人格が変わり、皆が舌鼓を打つ絶品のケーキを作ってくれる。

「大丈夫! これは愛のムチってやつだからさ、ハニー」

 爽やかで整った顔立ちだけど、少々ウザったいキャラが際立つこいつは、ショウ。

こいつは……うん、面白い。


 今日も朝イチから非常にうるさい。

この体長三十センチから一メートルの間の大小様々な人間のような恰好をした五人が、

この喫茶店で一緒に働いている奴らだ。

こいつらのことは、一般的には妖精と呼んだら正解なのかな。


「パパ、それからみんな、おはよです」

ひとり娘の小春が、スーパーサイヤ人顔負けの元気の良い寝癖を付け、

まだ眠いであろう目をこすりながら起きてきた。

朝早くから同居人たちがこんなにうるさいと、さすがに起きるよな。

まぁ、ご近所には迷惑をかけてないから善しとするか。

こいつらの声が聞こえているのは、私と小春だけなんだから。


「パパ。今日はね、小春もお店をてつだうのよ。

だから、大きな船にのったつもりでいてちょうだいね」

なんとも大人な口調で喋る姿が愛おしくてたまらない。

「そうか、ありがとう。では世界で一番可愛いウェイトレスさん、

今日は一日よろしくお願いします」

「かしこまりました♪ どんなお客さんが来るのかしら。

さて、そうと決まったらじゅんびじゅんび」


小春はそう言って、バタバタと自分の準備を始めた。

 さてさて、私も急いで朝ご飯を食べて、今日も店を開ける準備を始めないと。


妻が残したかけがえのない場所と、かけがえのない娘を守り抜く義務が私にはあるのだから。



この友人のような家族のような妖精たちと一緒に。


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