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{終章} Sister-holic

「神野くん、本当にマネージャーやめちゃうの?」


 青山さんが、机を挟んで俺に聞いてくる。


「この数ヶ月、『3LDK』の、妹の付き添いをして気づいたんです。俺が好きなのは日向千歳じゃない、神野千歳だって」


 俺は千歳の兄として、あいつの大事なパートナーとして、いつでもあいつが帰ってこられる場所を作って、待っているべきなんじゃないのかと考えた。

 それが千歳を一番近くで応援することになるんじゃないかと。

 両親には学業が追いつかなくなり始めたと説明した。

 事実、俺はここ数ヶ月色々とこっちに掛かりっきりで、すでに何単位か落単が確定している。

 流石に学業が優先なので、両親もすんなり快諾してくれたが、千歳とのことはまだ話せていない。


「ほんと、ここまでシスコンを極めるともう、なんの言葉も出ないわ」


 退職願を受け取る青山さんは呆れ顔で俺を見ている。


「シスコンですか」

「まさか自覚なかった?」

「いえ、どちらかと言うと()()ですね。結局どこにいても、誰といても、あいつのことが気になって仕方ないんです」

「そうですか、そうですか」


 青山さんは呆れたようにそっけない声を出す。


「ところで、君が辞めるって聞いて『3LDK』のほかの二人も寂しがっていたわよ。いいパシリがいなくなったって」

「あいつら、やっぱり大人を舐めやがって!」

「冗談、冗談。まぁ私からすれば君は私のいい代わりだったんだけどね。はるちゃんも由良ももっとあなたと居たかったって」


 そうだったのか。

 確かに、由良とは色々あったけど榛菜は送迎と電話のやりとりばかりで、あいつと個人的に深い繋がりを持てたのは大阪のあの時だけだった。


「榛菜と由良にもよろしく言っておいてください。二人のお世話をしなくちゃいけない立場だったのにむしろ俺の方が二人に助けられたって。それと新曲楽しみにしているって」

「それは自分の口から言った方がいいと思うわ」

「そうですね。あとで二人には電話で」

「電話しなくても言えるから大丈夫よ」


 青山さんはシニカルに笑う。


「どう言うことですか?」

「さぁ。じゃあとりあえず退社願いは受け取ったから。お疲れ様でした」

「青山さんにも本当にお世話になりました。ありがとうございました」


 俺は青山さんと別れる直前に深々と頭を下げた。



「ただいま」


 家に帰り、玄関を開ける。

 リビングのドアを開けた瞬間、少女たちのうるさい声が聞こえてきた。


「あ、大和やっと帰ってきたわね」

「お兄さん、お帰りなさい」

「お兄ちゃん、お帰り」


 なんで俺の家に榛菜と由良がいるんだ?

 千歳はいつものことだが、二人とも他人の家にお邪魔するような格好じゃなくてパジャマ姿なんだ?

 俺は目の前に何が起きているかわからず、家の中をひとしきり巡回する。


「おい、これはどう言うことだ?」


 家の中には見慣れない段ボールがいくつも置かれているし、何より俺の部屋にあるものが全て千歳の部屋に移されている。


「私たち今日からここに住むことにしましたので」


 由良が目元でピースを作って答える。


「……はぁっ⁉︎ 何言ってるんだ、ここは俺の家だぞ?」

「私の家でもあるよ、お兄ちゃん」


 ソファーでゴロンと寝転んでいる千歳が首を突っ込む。


「少なくとも、俺は何も聞いてないぞ」


 大体俺と千歳の家は部屋が二つしかないんだから、四人で寝るにはまた二人ずつで寝るしかないじゃないか。

 しかもこの状況だと俺と千歳が!

 え? 千歳とこれから毎日一緒の空間で寝るの?

 でもあいつらがいるせいで色々お預けなの?


「お兄さん、今えっちなこと考えましたね? 考えましたよね! 私もはるねぇもお二人のことは祝福しているのですよ? でも実の兄妹同士でせっ……うぐっ」


 隣に座っていた榛名が急いで由良の口を塞いだ。

 口を塞がれても由良は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を止めない。


「はるねぇ、いきなり口元を抑えられると息が詰まりますよ」

「あんたが変なこと言い出すからでしょうが!」

「私はお二人が心配で、心配で。人気アイドル、日向千歳がお兄ちゃんと近親……うぐっ」


 そこまで言うと榛菜はまた由良の口を塞いだ。


「なんてこと週刊誌に書かれたらちぃねぇのご両親に説明しに行かないといけませんよ? あっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()でもありますねぇ」


 由良がニヤニヤして迫ってくる。

 こいつ、分かっていてあえて言っているだろ。


「でも、お兄さんも男だからもし辛いことがあっても私がいたらなんとかなりますよ?」


 そう言って、由良は毎度のように俺の腕に抱きついてきた。

 ナニをどうしたらなんとかなるのか、もう少し詳しく教えていただきたい。


「チッ!」


 千歳が鋭い目つきで舌打ちを鳴らした。

 え? なんか前より由良に当たり強くなってない?

 君たち和解したんじゃないの?


「まぁ、由良の言い分は冗談として。このことは私たち3人で決めたのよ。3人で共同生活をした方がお互いのことを深く知ってより成長できるんじゃないかって。そして今年こそ、紅白よ!」


 榛菜が腕を組んで説明する。


「別に共同生活をするのはいいことだと思うが、俺のことはどうなるんだよ?」


 そもそもだったら、どこか借家でも借りてそこで3人シェアハウスすればいいじゃないか。


「だって、お兄さんは私たちのパシリでしょ?」


 由良が平然と言ってくる。


「お前ら、やっぱり大人を舐めやがって!」

「その大人がたまには誰かを頼ってもいいぞって言ったでしょうが」


 榛菜が俺を指差した。

 こ、これは盛大なブーメラン!


「と言うわけで、今日からよろしくお願いしますね、お兄さん」


 榛菜がニヤリと笑ってもう片方の腕に抱きついてきた。

 え、あの榛菜が俺のことをお兄さんって言った?


「あの……榛菜さん、もう一回お兄さんって言って」

「いいですよ」


 榛菜は俺の腕から手を話すと、俺の肩に手を置いて、足を絡め耳元で囁いた。


「お・に・い・さん」


 あぁ、もうダメだ。

 榛菜のお兄さん呼びは由良のような無邪気さとは違い妖艶で色っぽい。

 スレンダーな体型の姉御肌の年下の子にお兄さん呼びされるなんて、ここは天国なのか。


「おい!」


 ソファーからむくりと起きた千歳は、俺のデレ顔を見ると般若のように俺の方に向かって来た。


「千歳さん? 落ち着いてくれ」


 千歳の纏う黒いオーラに押され俺は後ずさりをしてしまう。

 今日の千歳、かつてないほど怖い。

 これ、今日俺本当に死ぬんじゃね?

 千歳は俺を壁際まで追い詰めると、ネクタイの端をキュッと引っ張った。

 おい、それは榛菜の時の古傷が……ってこれ何回目?

 まぶたに力を込める。


「……!」


 次の瞬間、目を開くと千歳の顔が俺の目の前にあって、唇に柔らかいものを感じた。

 千歳はそっと唇を離すと、俺の目を見て言った。


「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから、よそ見したら承知しなんだからね!」


 え、なに、この落として上げる戦法。

 やば、鼻血出て来た。

 足の力が抜けて、俺はそのまま地面に倒れこんでしまった。


「え⁉︎ お、お兄ちゃん?」


 そのまま、俺は意識が遠退いていく。


「大和も肩の荷が降りて、一気に疲れが出たのよ」

「ほんと、お兄さんったら……」


 どうやら俺の妹中毒はまだしばらく続きそうだ。

 

                                <了>


この作品を支えてくれた多くの方に感謝を……


       BGM;《Lucky》 スーパーカー


                        (2019. 4/8)




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