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{第1章} 俺の妹がアイドルなわけがない(前編)

 『次は終点東京、東京……』


 時速300kmの速さで移り変わる景色を眺め数時間、新幹線が目的地の東京に近づく。

 そのアナウンスを聞くと俺はポケットからスマホを取り出し、“青山霞” という人にもうすぐ東京駅に着く旨をメッセージで送った。

  返信はすぐに来た。


『了解です。八重洲口の方で待っています』


 新幹線がゆっくりとホームに入り、ドアが開いた。

 3月の東京はまだ少し寒く、俺はマフラーで口元を覆い隠す。

 案内板に従い迷路のような東京駅の中を歩いていく。

 八重洲口を出ると、スーツをピシッと着た如何にも仕事ができそうな女性が僕の姿を見つけるとこちらに歩いて来た。


「お待ちしておりました。ようこそ東京へ、千歳のお兄さん」

「初めまして、神野大和と申します」

「うーん。ちぃちゃんから見せてもらった写真と雰囲気違うかも。ちょっと太った?」


 彼女は初対面の俺を上から下まで舐め回すように見ると言った。


「さぁ、受験のストレスからの解放でしょうか」

「あ、そっか。お兄さん春から大学生だもんね。て言うかそのために東京来たんだもんね」

「はぁ」


 彼女は俺の肩をペチペチと叩いて笑う。

いつの間にか口調がタメ口になっていた。


「それじゃあ、行こっか」

「行くってどこにですか?」

「東京ドーム」


「そう言えば、まだ自己紹介してなかったわね。私の名前は青山霞、ガールズプロダクション芸能三部『3LDK』の担当マネージャーよ。これからあなたの上司になる人ってわけ」


 彼女はハンドルから左手を離して、隣に座る俺に名刺を渡して来た。

 黒いアウディQ7。

 なんともまあ趣味の良い。


「何かあったらその番号に電話してちょうだい」

「はぁ」


 もらった名刺を胸ポケットにしまう。

 名刺をもらうって大人っぽくてウキウキしてしまう。


「じゃあ時間もあることだし、仕事の説明をするね。まずは君、車の免許持ってるよね?」

「はい、春休み中に取りました」

「よしよし、それじゃあ君にお願いするのは主に休日の送迎と収録現場での彼女たちの監督。平日は人手が欲しくなったら電話するから」

「わかりました」


 俺は手帳を取り出して彼女が言ったことを一通りメモする。

 休日は忙しいけど、平日はほとんど仕事がない。

 学生の身としてはなかなかの好条件なんじゃないだろうか。


「それにしても君もよくやるよね。アイドルのマネージャーバイトなんて」

「まぁそれを条件に親にいい物件借りてもらったので」

「中野だっけ?」

「はい」

「じゃあ中央線で一本か。ちぃちゃんと二人暮らし?」

「はい」

「そっか……色々大変だろうけど頑張ってね」


 お気付きの人もいると思うが、改めて説明させてもらうと、俺の3つ下の妹は、国民的アイドル『3LDK』の日向千歳だ。

 デビューして以来度々オリコンチャートに名前が挙がり、今年こそ紅白と名高い今注目のアイドルグループ。

 しかし、僕たちの両親は当初から娘の芸能活動に反対しており、芸能事務所との折衷案で、この春大学生になる息子を妹の監視役としてサブマネージャーにする次第になったのだ。

 あれ? 俺の意思は?


「さ、見えてきたよ」


 丸の内のオフィスビルの森を抜けて白山通りを走り水道橋駅を抜ける頃には目の前に巨大な白い建物が見えて来た。


「でか!」

「大きいでしょ。今日この会場に4万人の人が来るのよ」

 4万人⁉︎

たった3人で4万人ものファンを集めるって……

 自分の妹がいかにすごい人物なのかを改めて実感する。


「あの千歳が……」

「ちぃちゃんって家ではどんな感じなの?」

「一言で言うとズボラですね。それこそファンには見せられないくらい」


 運転席に座る青山さんが声をあげて笑う。


「まぁ、重度のブラコンだなとは思っていたけど、ズボラと来たかぁ」

「ブラコン?」

「ちぃちゃん、昨日までずーっと君の話してたんだよ。ほんと楽しみだったんだろうね、お兄ちゃんがこっちに来るの」


 だから八重洲口ですぐ俺だって分かったのか。

 にしても何話していたんだろう。

 黒歴史とかじゃないよな。


「そうですか」

「あれ? 普通だね」

「もう慣れたんで」

「君も重度のシスコンかと思ってた」


 ゴホッ、ゴホッ、

 突然の不意打ちに思いっきりむせてしまった。

 隣で口元をニヤニヤさせている青山さんに少しイラっとした。


  青山さんに連れられ、俺は東京ドームの最上階にある関係者席に通された。

 暗転したドーム内では赤、青、緑の三色のサイリウムが幻想的な光を放つ。

 初めてアイドルのライブに来た俺はその光景に息を呑んだ。


「間に合ってよかった。妹さんの晴れ舞台なんだから最初から見ないとね」


 青山さんはそう言うと、席に向かって手を差し出し、座るよう促した。

 彼女に案内されるまま席に座る。

 開演のアナウンスが響き、客席のボルテージが一気に高まる。

 スモーク演出とともに彼女たち『3LDK』が登場すると、会場内の熱気は最高潮に達した。

 そこから先はまるで夢のような世界で俺はその光景に見とれてしまった。

 これが、トップアイドル。

 彼女の歌声やダンスの熱に心をぐらっと揺り動かされる感覚に駆られた。


「どう、彼女たち。すごいでしょ」


 隣に座る青山さんはまるで自分の娘を自慢するように言う。

 青山さんのドヤ顔には少し腹が立ったが、確かに彼女たちは凄い。


「はい」


 それ以上の言葉が出なかった。


「じゃあ、ついて来て」


 『3LDK』からの最後の挨拶があり、一通り演目が終了したとこで彼女は立ち上がった。

 俺は彼女に従いドームの通路を歩く。

 会場内に響き渡るアンコールの歓声で壁が揺れている。

 4万人という数の大きさを改めて感じた。

 俺たちはぐるっと通路を一周する形でステージの裏側にやって来た。

 そこは関係者以外立ち入り禁止。

 俺のような一般ピープルにはまず立ち入りできない、ファンからしたら絶対不可侵の聖域だろう。


「アンコールが終わったら君のこと彼女たちに紹介するからここで待っててね」


 青山さんはそう言うと、再びどこかへ行ってしまった。

 ステージの裏側から彼女たちの歌声を聴く。


「やっぱり日向千歳が自分の妹とは思えないよな」


 俺はぽつりとそう呟いた。


青木慶です。

新作をやっとお披露目することができました。

これから週1で毎週月曜日に上げていきたいと思います。あの超人気週刊コミックの発売日と被せてきました。特に意味はないです。僕のスケジュール的に月曜日が一番自由度が高いので。

すでに脱稿しているので延期等はない、と、思い、ます......。(震え)

コメディ色強めなので、是非楽しんでいいただけだら幸いです。

全23話と少々長丁場となりますが末長くお付き合いよろしくお願いします。


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