05 城塞の攻防
私が貴賓室に戻ると、南諏訪の警察署に連絡を試みていた岩壁が、どういう訳合いか電話が不通だと報告してきた。
警察の事件介入を嫌った真犯人が、電話線を断ち切って屋敷を孤立化させたのならば、悠長に構えていた我々から余裕を奪って、盤上の駒を進めたと考えるべきだろう。
私たちに残された通報手段は、まだ榊原夫妻が屋敷に乗り付けたハドソンフェートンがあるものの、運転してきた三徳が高いびきでは使い物にならない。
「こんなことなら、甚平くんに警察への通報も頼んでおけば良かった。気を利かせて通報してくれれば良いのだが……当てにはできない」
「市内に下りた彼らは、屋敷の電話で通報すると思いますからね」
落胆した表情で肩を落とした岩壁だが、何かを閃いて手を打つ。
「そうだ! どなたか、自動車の運転はできませんか。朱美さんに鍵を借りて、市内まで運転できれば通報ができます」
岩壁が声をかけるのだが、優馬は首を横に振り、私は車両全般から航空機の操縦まで訓練しているのだが、私の人払いが犯人の思惑とも考えられるので、軽忽に名乗り出なかった。
そこに長男の和政が、朱美を伴って外から戻ってくる。
「岩壁さん、三徳さんの車は走れませんよ。今さっき見てきたのですが、彼の車はタイヤが切られている」
タオルで汚れた手を拭っている長男の和政は、貞治を病院に搬送するダットサンセダンを見送るついでに、備えとして三徳のハドソンフェートンを玄関に寄せようとしたらしい。
しかし朱美と自動車に向かった長男だったが、前輪の二本にナイフが突き立てられており、タイヤを交換しなければ蛇行する山道の運転が出来ないと言っている。
最悪なのは、彼が屋敷に常備している予備のタイヤを調べたところ、ダットサンとハドソン社のメーカーの違いから予備のタイヤと交換が出来なかったことだ。
真犯人は、私たちの二手、三手先を読んでいるのだろうか。
だとするとダットサンセダンに細工がなかったのは手落ちであり、些か違和感がある。
貞治が毒を飲んで病院に搬送されたのは、犯人にとっても不測の事態だったのかもしれない。
或いは――
「少佐、私たちはどうなるのです。貴方は娘を守ると約束しましたが、このような状況でも本当に守ってくださいますか」
「もちろんです」
真剣な眼差しの節子には、娘たちと応接室で待機するように、食器を下げようとした給仕には、食事や食器をそのままにするように指示した。
「少佐、婦女子ではお役に立てませんか。何か手伝えることがあれば、私も協力いたしますわ」
気丈に振舞う彩子は、私の助けになりたいと願い出たが、無理をしているのは、母親の背中に隠れているので明白だ。
「彩子さん、今は不測の事態なのです。ここは、私たちに任せてください」
「でも、私にも出来ることがあります」
正直に言えば、私は料理に毒が混入される可能性を想定すらしていなかった。
なぜなら真犯人は盗み出した黄金の弾丸を使用することで、ダンテの叙事詩『神曲』になぞらえて、人殺しを正当化していると考えていたからだ。
しかし実際には、盗み出した黄金銃の暴発、ベランダに誘い出しての狙撃、そして料理にトリカブトを仕込んでの毒殺、ずいぶんと節操のない犯行が続いており、殺害方法に秩序を見出せば防げるとの驕りが仇となった。
連続殺人は黄金の弾丸を使った犯行との思い込みが、逆手に取られたと言っても過言ではない。
「署長は『真犯人が屋敷の者とは限らない』と、犯人の正体に近付いたから命を狙われたのでしょう。事件の真相に近付くことは、やはり命の危険があるのです」
「そんなことは――」
「今はとにかく、気持ちを鎮めてください。そのときがくれば、彩子さんにも協力してもらいます」
「はい」
貞治は推理が当たっているから毒を飲まされたわけではないので、お為ごかしなのだが、こうでも言っておかないと、互いに相手を犯人だと見境なく疑い始める。
真犯人が諸説紛紛の中に凶器を投げ込めば、疑心暗鬼で殺し合いが始まるかもしれないのだ。
私は節子の背後に隠れる姉妹に、自分の指示に従っていれば安全だと言い含めて、母親には『皆さんを連れて応接室へ』と、感情的にならず指示に従うよう促す。
姉妹の母親は頷いて、離れたところにいた朱美にも声をかけると、震える姉妹の肩を抱いて応接室に引き籠った。
このような状況では、真犯人も罪を重ねることもあるまい。
「しかし電話と自動車が使えないとなると、持久戦を覚悟するほか無さそうだね」
「少佐、夜明け前に警察に通報するのなら、土地勘のある僕が歩いて山を下りましょうか」
「いいや、和政くんが素手で熊を倒せると言うのなら止めないが、夜道を歩いて市内に向かうのは無謀だ」
和政が徒歩で下山すると言うのだが、街灯のない真っ暗な山道を数時間かけて市内に向かうには危険が伴う。
野生の熊は川を隔てた狩猟区に閉じ籠っていなければ、高平家の敷地が禁猟区だからと言って、熊に襲われない保証が出来ないのである。
「恵子と話して、護身用の銃を返してもらってはどうかね。こんな状況だから、対抗手段を持てば犯人も迂闊に動けないだろう」
政信の提案は、真犯人の手にも拳銃が渡るかもしれなければ、誰も賛同ができなかったし、懐疑に取りつかれる者が拳銃を手にすれば、無実の者に銃口を向けないとも限らない。
優馬が『八方塞がりですね』と、ぽつりと呟いたのをきっかけに、市バスの始発を待つしか手がないと、夜明けまでの過ごし方に言及することになる。
二十一時を過ぎていれば、十時間前後で市バスが動き出して、遅くとも明日の午前中には、市警察に通報できるだろう。
それに朝になって市警察が貞治の容態を知れば、屋敷に駆け付けてくる可能性もある。
「朝までは、どうします? 昨晩の騒ぎで徹夜の人もいるようですし、ここで夜明かしするには、体力が持たない人もいるでしょう」
優馬は、この騒動でも平然と突っ伏している三徳に視線を落として、自分だって彼と似たようなものだと、昨夜からほとんど寝ていないと明かした。
確かに寝入りの深夜、兼久の事件で集められた屋敷の者は、全員が枕を高くして眠れなかったし、夜明けから自室や邸内を警察が現場検証をしていれば、ゆっくりと寝ていられる状況でもなかった。
「彩子の言うとおり塔の閂錠を閉じてしまえば、ここにいる者が犯人だとしても、邸内の動きを封じることができるんじゃないですか」
長男の和政は、三つの塔で高平家の私室と客室の移動を出来なくすれば、犯人が行動できないと言うが、その理屈は限定的だと思った。
高平家の誰かが真犯人ならば、招待客を殺すことが不可能になるものの、招待客に犯人がいれば、私たち招待客はライオンの檻に閉じ込められた羊である。
長男は身内だけで屋敷左に籠城すれば、招待客同士の殺し合いに参加しないで済むと、自分たち家族だけ助かれば良いと提案しているのだろうか。
いや、違う。
和政は被害者が全て招待客だったので、身内の犯行を疑っているのだろう。
そうであれば彼の提案は、身内にいるだろう真犯人に罪を重ねさせないために、塔を施錠して私たち招待客から隔離しようと考えている。
もちろん私を除いた優馬、三徳、朱美が真犯人の可能性があるものの、私が代役を務める黒羽武を含めた四人に因縁めいた接点が見当たらなければ、長男の提案は理に適っていた。
真犯人が上司の殺害を目論んでいるならば、人相を知らないわけもなく、一介の帝大生である優馬を榊原夫妻が殺害する訳合いも、逆の訳合いも見当たらない。
少なくとも朝まで邸内で過ごすならば、高平家と招待客が接触しなければ、これ以上の被害者が増えないとの考えには同意できた。
長男は存外、ここにいる誰よりも冷静に判断している。
「私も、和政くんの提案に賛成だな」
「少佐は賛成ですか。しかし犯人から逃げ回ると言うのは、刑事の私からすれば敵に後ろを見せるに等しい」
「岩壁刑事は、私たちで犯人を逮捕すべきだと?」
「犯人を逮捕してしまえば、見えない殺人鬼に怯えずとも朝日が拝めます。犯人の逮捕が、我々にとって最善策ではありませんか」
刑事の岩壁が熱弁を振るうのだが、ここまでの捜査で犯人を特定できなければ、貞治の料理かワインに誰がいつ毒を盛ったのか、それだって現時点で特定が難しい。
署長が倒れたのは、私と彼が玄関ホールで立ち話しているときであり、貴賓室に残っていた者を恫喝すれば犯人がわかると考えているのなら、それは浅はかと言わざるを得ない。
犯人が料理に一服盛ったところを目撃しているならば、騒ぎ出さないはずがないし、騒ぎにしなかったのならば、そいつは犯人を庇い立てする潜在的な協力者である。
それに今まで狡猾に犯行を重ねてきた真犯人が、大勢の目撃者を前にして毒を盛るはずもないし、署長がいくらポンコツでも、不審な行動を目の当たりにして料理を口にしないだろう。
しかし問題は誰よりも先に料理を口にした署長が、ほとんどの者が食事の終わるときに服毒して倒れたことだ。
厨房で毒が盛られたとするならば、もっと早く初期症状が出てもおかしくないので、倒れる直前に毒が盛られたとすれば、ここに大きな矛盾がある。
ワインを署長のグラスに注いでいた給仕ならば、そこにいた者に気付かれずに毒を盛ることも可能であり、給仕の犯行と考えて身柄を拘束する手もある。
だが失念してならないのは、兼久以外にも協力者がいるならば、真犯人に繋がる決定的な証拠を突き付けない限り、連続殺人が止まらない点だ。
「岩壁刑事は先程、署長さんの犯行を疑っていたね。つまり署長に毒を飲ませた犯人が、兼久と良夫を殺した犯人と同一人物とは限らない」
「少佐は、正当防衛で署長に毒を飲ませたと言うのですか」
「いいや。徹底して調べれば、署長さんに毒を盛れた者の見当はつくだろう。だが、それこそが真犯人の仕掛けた罠だと思う」
「真犯人の仕掛けた罠?」
「ああ、見え透いたトラバサミに近付く必要もないだろう」
私は実際、貞治の料理に毒を盛れた人間に見当がついているが、そいつを警察に拘束させて油断を誘うのが手口だった場合、真犯人の計画に踊らされることになる。
その油断、一瞬の間隙を突くことが、次の犯行に繋がる可能性が高い。
「私は警察の到着するまで現場を保存して、次の犯行をやり過ごす方が得策だと思う。岩壁刑事はお忘れかもしれないが、良夫殺害に使用された銃は見つかっていないのだ。君は自棄を起こした犯人と、邸内で銃撃戦でも繰り広げるつもりかね」
「皆さんの安全を優先するのなら……、和政さんの提案を採用した方が得策です」
岩壁の提案が最善策で間違いなければ、私だって犯人を見逃すつもりがない。
ただ今は和政の提案どおり、次の犯行を防ぐのに注力したいと考えているだけだ。
「そうと決まれば塔を閉鎖する前に、寝ている三徳さんを部屋に運んでしまいましょう。脚の悪い少佐と優馬さんでは運べませんから、和政さんも手伝ってもらえませんか」
岩壁が言うと優馬と和政は快諾して、ゆでだこのように真っ赤な顔で寝ている三徳を担いで一階の客室に向った。
貴賓室に残された私は、応接室から顔を覗かせた朱美と節子に事情を説明すると、彼女たちには塔を施錠した後、朝日が登るまで部屋を出入りしないように強く言い聞かせる。
ただ朱美は深酒した夫が心配だから、彼の部屋で夜明かしすると言うので、これを了解した。
「私が屋敷に招いたことで殺人事件が起きたと騒ぎになれば、政治生命が絶たれるだろう……それが犯人の狙いなのか」
「事件は悪辣な者による政治的な策謀劇であると、胸を張って主張すれば良いでしょう」
「少佐は、これで次の犯行が防げると思うのか。私は、これ以上の人死を見たくない」
政信に聞かれると頷くしかないものの、野生の熊が狩猟区に閉じ籠っていなければ、人も禁猟区に閉じ籠っているとも限らないのである。
熊を恐れぬ者、熊を退治してやろうとする者が、私の忠告を聞かずに好き勝手に邸内を動き回れば、やはり命の保証ができない。
たった一晩なので、私の杞憂に終ると信じたい。
「私は娘たちと、これを朱美さんに届けてきますね」
節子は厨房で氷嚢を用意してきたようで、大きめのお膳に水差しと一緒に運んできた。
彼女の後ろを恵子と彩子が付いて回る姿は、母鳥の後ろを隊列するマガモの雛のようで微笑ましいものがある。
彼女たちを見送ると、貴賓室には私と政信だけとなり、真犯人に悟られず現場を調べる好機となった。
「少佐、どうかしたのかね」
「これが連続殺人なのか、確かめたいことがあります」
私はスプーンを手にすると、署長の貞治が最後に口にしたミネストローネが注がれているスープボウルの底をさらった。
深めのスープボウルに真っ赤なスープが邪魔をして底が見えないものの、スプーンの先端が底に沈んでいる金属の小塊を探り当てる。
それを掬って政信に見せれば――
「少佐っ、それは盗まれた鉄砲弾じゃないのか!?」
と、声を荒げたので、人差し指を唇に当てて静粛を促す。
貞治の食べ残したミネストローネには、ラテン語で貧食と書かれた黄金の弾丸が沈んでいた。
大勢に汲みした貴院議員の兼久は『嫉妬』、詐欺紛いで金儲けしていた実業家の良夫は『強欲』、食い意地の張った警察署長の貞治は『暴食』の罪で裁かれたことになる。
「署長さんが毒を盛られたのは、一連の連続殺人事件だと確定したのですが、私の考えていた筋書きや配役とは、明らかに違う台本のようです」
「違う台本だと……、少佐は事件の真相に心当たりがついているのか?」
「いいえ、わかりません。しかし真犯人が、卓越した演出家なのはわかりました」
私は暴食の弾丸を血の池のようなスープに戻すと、政信には連続殺人だと他言無用と釘を指した。
なぜなら真犯人には黄金の弾丸をひけらかして、わざわざ犯行を誇示する訳合いがある。
こちらに殺される意味を理解させることで、仕掛けられた罠が発動する可能性があるのならば、みすみす踏み込んでやる必要がない。
「警察が駆け付けるまでの辛抱なので、皆さんの不安を煽らない方が良いと思います。邸内に疑心暗鬼を蔓延するのが、真犯人の狙いかもしれません」
私は『もう手遅れかもしれませんが』と、付け加えて目を閉じて首を横に振った。
残りの弾丸は色欲、憤怒、怠惰、傲慢であり、大食漢の貞治が暴食で殺されたのだから、それらに当て嵌まる人物は被害者と見ることもできる。
それぞれの原罪を背負う者が被害者ならば、裁きを下す犯人は、それ以外の者を暗示しているのではないだろうか。
少なくとも、そう演出されている。
※ ※ ※
三日目の朝、私は玄関ホールの中心に置かれた黄金の弾丸を拾い上げて、そこに書かれたラテン語を読むのだが、果たして怠惰は彼の背負うべき罪だったのか。
しかし怠惰はキリスト教の教義によれば、安息日に休息を取らず働き続けて、本来の自分を見失うことを戒めているのだから、本来の自分を追求しなかった彼には、相応しい罪だったのかもしれない。
中央塔の天井を見上げた私は、そんなことを考えていた。
彼が本来の自分を追求しなかったのが罪ならば――
「そんな彼が、どうして自死を選ぶのか」
教会の鐘を塔の天井まで巻き上げるロープには、首を吊った遺体が風で揺れており、横に差し込んだ朝日に人相が照らされていれば、誰が首を吊っているのか一目瞭然である。
ドンッ!
悲嘆に暮れる間もなく、客室一階の奥から一発の銃声が邸内に轟くので、軍刀を構えたまま駆け出して、寝ているはずの三徳の部屋に飛び込んだ。
こうなっては事件の結末を語るに、早すぎることもないだろう。
既に傲慢と怠惰の罪は裁かれて、残る弾丸は色欲と憤怒である。
「少佐……聞いてくれ、事件は妻とあの男が仕組んだものだ。私は昨夜、目の前で署長が殺されるところを見たんだ」
顔面蒼白の三徳は、入口から死角のベッドの脇に拳銃を向けながら、ゆっくりと執務机の置かれた窓際に歩き始めた。
私が彼と歩調を合わせて奥に進むと、素肌の透けるワンピースの寝巻きを纏った朱美が、右の二の腕から流れる血を手で押さえて震えている。
撃たれた腕を押さえる彼女は、夫に殴られたのか、目のまわりに青痣があり、頬は腫れ上がり、口角から血混じりの涎を垂らしていた。
よくよく見れば、肩口や太腿に古傷も確認できるので、夫からの暴力は日常的に繰り返されていたようだ。
若い女房の尻に敷かれる夫と言うのは表向きで、彼には妻に激情する性癖があるのだろう。
「これは、どういう訳合いですか」
「少佐は、私が狂ったと思うかね……いや、こんな光景を目の当たりにして、私が正気だと思うはずがないだろうね。でも朱美が、屋敷に集まった男どもを殺した真犯人なんだよ。妻が人殺しの証拠が、この部屋で見つかったんだ」
「証拠ですか」
「これだよ。私の手にしている回転式拳銃の弾倉には、兼久や良夫を殺した黄金の弾丸が二発込められていた。それも、ご丁寧に『憤怒』『色欲』の順番でね。少佐なら、この意味がわかるだろう? 妻の朱美は私を撃ち殺してから、自分は襲われたふりで事件の幕を引くつもりだった……情夫との関係を清算するついでに、夫である私まで殺そうとしたんだ」
朱美は黙って項垂れたまま首を横に振り、銃口を向ける三徳の言い分を否定している。
「そんな道理がありますか? 朱美さんは良夫が殺されたとき、貴方と応接室にいたのです。それに彼女が良夫や署長さんを殺して、いったい何の得があると言うのですか」
「朱美は男と結託して情夫や私を殺して、榊原家の財産を乗っ取ろうとしている。こいつは色情魔だ。自分を裁くのに色欲の弾丸を拳銃に込めていれば、それを自覚しているってことなんだ……少佐も、そう思うだろう?」
三徳はトリガーガードに置いていた人差し指を引き金に移して、朱美の頭に銃口を突きつけているので、もはや一刻の猶予もない。
「命を助けるのだから、腕の一本は覚悟されよ」
体を沈めた私は軍刀の柄を握りしめると、常軌を逸する三徳との距離を一気に詰めて、突き出した手首を一閃で斬りつけた。
これで憤怒と色欲の弾丸は罪を裁けなくなったが、私がいながら真犯人に五発の弾丸を使用されたのは、すべて私の不徳と致すところと戒めねばならない。
私に後悔があるとすれば、仕掛けられた数々の罠に気付いていながら、援軍の到着に期待して防戦に徹したことだった。
夜の出来事は次回明らかに。




