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6.元師団長

「ど……あ……が、こ……か?」


「喋るな。これを飲め」


 狐少女は何かを話そうとするが腫れ上がった口では上手く喋られないようだ。俺は狐少女が痛まないように軽く抱き上げ、回復薬を飲ませる。ほんの少しずつだが狐少女は回復薬を飲んでいき傷が治っていく。


 だが、飲むだけでは治しきれなかった部分に関しては、直接回復薬をかけた。それに骨折などは少し時間を置かないといけないからあまり激しく動かす事は出来ない。


 回復薬をかけ過ぎてびしょびしょになった狐少女に昼間と同じ様に布を渡す。しかし、狐少女は布を受け取ろうとはせず、下を向いたままだ。


「おい、早く拭け。風邪引くぞ」


「……のですか?」


「何だ?」


「どうして私を助けたんですか? 今日偶々会っただけの私にどうしてここまでするのですか!」


 少し怒った様な……というより怒っているなこれ。そんな狐少女は涙を流しながら俺を見てくる。どうして助ける、か。俺が黙っていると狐少女は1人で話し始める。


「私は誰かに助けられる程価値のある人間じゃありません。こんな高価な物を使ってまでどうして助けたんですか!」


「助けた理由か。特に理由は無い。強いて言うなら勘が助けた方が良いって言ってるんだよ」


「へっ?」


 俺が正直に答えると、狐少女は変な顔をして変な声を出す。狐耳もぴくぴくと動いている。可愛い。


「別に奴隷だからとか関係無い。別に奴隷排斥派ってわけでも無いしな。ただ、俺が助けたいと思っただけだ」


「そ、そんな理由で私なんかを助けたんですか!?」


「私なんか、って自分をそんなに卑下するなよ。お前を生んでくれた親に失礼だろ?」


「うっ!? そ、そうですね。今のはお母様たちに失礼でした。でも、私を助けても何の得にもなりませんよ?」


「別に構わないよ。俺の直感が言ってるんだよ。お前をここで助けた方が後々良いってな」


 なんの根拠もないけど。俺が正直に言うと、狐少女を真剣に問うのが馬鹿らしく感じたのかくすくすと笑う。そういえば初めて笑う顔を見たな。


 狐少女が何とか立って歩く事が出来るまでなったのを確認してから俺は檻から出る。


「狐少女、君はここで待っていろ」


「え、ええっと、薬草さんは何処へ?」


 薬草さんって。まあ、昼間俺の後をつけていたから薬草ばっかり採取してるって知っているのだろう。


「俺は少し用事がある。直ぐに戻ってくる」


「わ、わかりました」


 俺は狐少女を残して地下を上がる。そして懐から黒色の仮面を取り出す。この仮面は目元だけを隠すタイプで、仕事をしていた時は顔を見られない様に付けていたものだ。これをつけるのも何年ぶりだろうか。


 これを見るとあいつの言葉を思い出すな。初対面で『ダサい』って。しかも殺しに来た相手に対して。


 懐かしい思い出だが、感傷に浸るのはここまでだ。さてと、あいつの言葉通り俺の好きな様にやろうか。


 俺は使用人にバレないまま屋敷を3階まで登る。3階の他の部屋に比べて一際大きな扉のある部屋。中には反応が1人。ここに目的の人物がいるかな?


 俺はノックもせずに扉を開ける。気配を殺して音も消して扉を開けたため、気がつかなかったらそのまま、気がついたら突然扉が開いた様に見えるだろう。


 俺は素早く扉の中へと入り扉を閉め、目的の人物の元へと向かう。目的の人物は俺に気が付き叫ぼうとするが、叫ぶ前に喉元を掴んだため苦しそうに俺の右腕を掴む。


「大声を出すな。もし出したら指が飛ぶと思え」


 俺の言葉に目的の人物、子爵は首を何度も縦に振る。俺はそのまま喉から手を離すと


「だ、誰かお……ぐむっ!?」


 まあ、予想通りだな。今まで同じ風に頷いた奴らは全員同じ様に叫んで助けを求めようとする。俺はそうなる事がわかっていたため先ほどの様に再び喉を掴む。先ほど以上に力を込めて。


 呼吸が出来ない子爵は顔を蒼白くさせ口をパクパクとさせながら腕を叩いてくる。苦しくて仕方ないのだろう。だけど、速攻で破った罰も受けて貰わなければ。


 俺は空いている左腕で腰に挿してあるナイフを抜く。そして子爵の左手に向かって振り下ろす。ドスッ! とナイフが机に突き刺さる音が部屋に響く。


 暴れていた汗をダラダラと流しながら子爵は動きを止める。視線の先は左手の中指と人差し指の間に刺さっているナイフだ。


「言ったはずだぞ。大声を出したら指が飛ぶと。今のはたまたま指の間に刺さったんじゃない。俺が刺さらない様に振り下ろしたんだ。この意味がわかるな?」


 俺の言葉を聞いて先ほど以上に首を縦に振る子爵。再び喉を掴んでいる右手を離すと、子爵は暴れる事も叫ぶ事もせずにガタガタと震えながら俺を見ていた。


「さて、ようやく話が出来るな、オルフル子爵」


「ななな、何者だ、き、貴様は? こ、こんな事してタダで済むと思っているのか!」


「これを見ても同じ事が言えるのか?」


 俺はそう言いながら腰に差してあるもう1本のナイフを抜きオルフル子爵の前に突き刺す。柄から刀身まで全てが漆黒に染まるナイフ。刃の長さは25センチほどの普通のナイフよりは大き目だ。


 そして、柄尻の丸い部分には俺たちが住む国アルフレイド王国のとある一部の者にしか使う事の出来ない逆十字の紋章が入っていた。


「……へっ? ななな、な、なんでお、おま……い、いえ、あなた様がこの紋章を!?」


 子爵は驚き過ぎて椅子から転げ落ちる。この国に住む貴族なら俺が持つナイフ、クロスリッパーの柄尻に刻まれた紋章は絶対に知っているからな。


「……ああ、漆黒のマントに、漆黒の仮面。ああっ! あ、あなた様はアルフレイド十二師団、第十二師団団長、ヘル様!?」


「懐かしいな。そういえば昔はそんな名前を名乗っていたな。今考えると適当過ぎるだろ。それから元だ。もう俺は師団長じゃ無い」


「そそそ、そんなあなたがな、なぜこの様な場所に?」


 俺の正体がわかってから先ほど以上に震え上がる子爵。もう無くした地位を使って話を進めるのは気が進まないが、さっさと話を終わらせるために我慢するか。


「お前と取引しに来た」


「と、取引?」


「そうだ。お前たちが今捕らえている奴隷たちを解放しろ。正規で手に入れた者以外だ」


「な、なぜその事を! ……はっ!?」


 うわぁ、カマかけただけなのにあっさりと喋った。狐少女は正規では無い方法で手に入れたのは知っていたが、この感じだと他にもかなりいそうだな。それに乗らない手は無いな。


「俺の知り合いには当然現役の師団長がいる。そいつは正義感が強い奴なんだが融通が利かなくてな。そんな奴にここの事を話したらどうなると思う?」


「あ、ああぁっ!」


 子爵も誰の事を言っているのか予想が付いたのだろう。俺の時以上に体を震わせる。良い感じだ。


「ここで取引だ。子爵が明日の朝のうちに奴隷たちをちゃんと生活が出来る様に支援をして解放するなら黙って俺はこの街を出よう。しかし、明日になっても動きが無いのなら、この街でしでかした事全てを話す」


 まあ、何も知らないが。調べたら出てくるのだろうけど、今はそんな時間は無い。どうするか尋ねると、子爵は直ぐに返事をしてくれた。当然返事は違法な奴隷の解放だ。


 アイツにバレて罰を受けるよりは断然マシと考えた様だ。それもそうだろう。アイツに目を付けられたら、下手すればこの街は壊滅、子爵の家族は全員死刑になるだろうしな。


「それじゃあ取引成立だ。明日楽しみにしてるよ」


 俺はそれだけ言うと部屋を後にする。部屋の中には10年ぐらい一気に老けたオルフル子爵の姿だけが残った。


 それから地下に戻ると牢屋の中で膝を抱えて座る狐少女がいた。消していた気配を表すと尻尾がぶわぁっと膨らんで耳がピンッと立つ。そして俺だとわかるとへにゃぁと折れた。緊張するとそうなるのか。


「や、薬草さん、無事に帰って来て良かったです」


「ああ、今日もう1日ここに住んでくれ。明日には解放されるから」


「わ、わかりました。薬草さんを信じます!」


 笑顔で答える狐少女。俺はそのまま子爵の屋敷を後にしたのだった。

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