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29.魔族の研究者

「……何故、魔族のお前がこの大陸にいる? このような騒動を起こして何が目的だ?」


「……ほう、私の事が何の種族かわかるのか。こちらの大陸では伝説とされているはずだったが」


 怒りに顔を赤く染め上げる魔族の男に尋ねると、ピクリと震えて反応する男。怒りのままゾンビを動かすかと思ったが、そうでもなさそうだ。


「まあ、知っている者は限られているだろうけどな。それより、ここを襲った理由はなんだ?」


「特に理由は無いさ。ただ、私が実験をしようと思った時に、偶々この場所を見つけただけなのさ」


「そうか。なら……」


 明らかに何かを隠す魔族。まあ、正直に話すわけはないか。それなら、これ以上、話しても仕方ない。氣道を足に溜めて瞬道を発動。捕まえてから聞き出そうと、魔族の男に近づくが、間を阻むように、女性の死体が固まった化け物が阻む。


「いきなり私を狙うとは不遜な下等種だ。だが、その動き、配下に加えるには良いだろう。殺してゾンビにしてやる。やれ、グルーパー!」


 魔族の男がそう命令すると、グルーパーと呼ばれた女性の死体の塊は、死体が集まって出来た腕を伸ばして叩きつけてくる。俺は無理に近づく事はせずに、後ろに跳びながら下がる。


 しかし、グルーパーは機械的に俺を追いかけてくる。丸く固まった胴体部分から、いくつもの死体が固められた腕を伸ばして、足のように動かしながら迫ってくる。


 何百という死体が固まっているため、重量感が半端ない。それに攻撃をしてくる腕を軽く切ったが、何体もの死体が集まっている腕には普通の状態のクロスリッパーでは効果が無い。


 クロスリッパーに魔力を纏わせて伸ばしたとしても、切った側から他の死体を集めて腕にするのは目に見えている。


 ただ、こういう特殊な奴の倒し方は何通りかある。俺がわかる中でこいつに当てはまりそうなのは、ゴーレムというモンスターだ。


 奴は、体のどこかにコアと呼ばれる体を保つための重要な器官があるはずだ。それを壊す事が出来れば、体を保つ事が出来ずに倒せるはずだが……あの巨体からそのコアを見つけ出すのがどれほど難しい事か。だが、まあ、やるしか無いか。


「いやぁぁぉああぉあ!!!」


 喉が千切れるような甲高い悲鳴をあげながら迫って来るグルーパー。死体がいくつも重なった巨腕を振り回し、辺りの建物を壊しながら迫って来る姿は、普通の人からすれば恐怖でしか無い。


 俺に向かって叩きつけられる腕を横に跳んで避け、そのまま真っ直ぐとグルーパーに向かって瞬道を発動し迫る。


 俺を捕らえようと様々な女の手が伸びて来るが、全てクロスリッパーで切り落とす。そして、クロスリッパーへ魔力を集め刃渡りを伸ばす。同時に自分の気配をグルーパーの背後に出現させる。


 暗殺者をしていた時に覚えた技で、一瞬だけであれば、自身の気配を消すように、魔力を使って別の場所に気配を表せるようになった。ほんの数メートルだけで、本当に一瞬だが、戦いの最中で俺の気配が突然背後から現れれば、少しだけでも意識が持っていかれる。


 グルーパーも突然背後に現れた気配に逸らされて、俺の気配をしたところに腕を叩きつける。その隙に魔力を込めたクロスリッパーを振るう。


 意識を逸らしていたため、抵抗も少なく左下から右上にかけて斜めに両断されるグルーパー。当然死体のため痛覚は無く、切られた事に憤り叫び、俺を見つけて殴りかかって来る……動いたのは足のある右側半分だった。そっちにコアがあるんだな。


 殴りかかると同時に、切られた体を元に戻そうと宙を舞う左側半分に肉が伸びていくが、殴りかかって来る腕を跳んで避けて足場にし、左側へと再び跳ぶ。


 そして、氣道で強化した右足で、力を失いつつある左側を蹴り飛ばす。魔族の男に向けて。魔族の男はニヤニヤと見ていたが、突然飛んでくる肉の塊に慌てて避ける。ちっ、避けやがったか。


 まあいい。今はそれよりもグルーパーだ。切られてもコアがあるため動くグルーパーに再びクロスリッパーを振るい、また半分に切り裂く。今度は左側が動き、右側を引っ付けようと伸びたため、右側を蹴り飛ばして、再びコアのある方を切り裂く。


 これを何度も繰り返していき、段々と小さくなっていくグルーパー。最終的には手のひらサイズの肉の塊になってしまった。それを俺は細かく切り刻む。その光景を魔族の男に見せると


「……貴様、私の作品を」


 と、再び怒りに顔を赤く染めていた。沸点が低いな、この魔族。


「これで、お前を守るものは無くなったぞ。さあ、どうする? 大人しく降参するか?」


 俺はクロスリッパーの切っ先を向けながら尋ねると、魔族の男はくつくつと笑いながらポケットに手を入れる。


「くくっ、人間風情に舐められたものだ。私の作品を倒した事は評価するが、所詮は急拵えした作品の1つでしかない。その程度のものを倒したところで、私を倒せると思うなよ」


 魔族の男はそういうとポケットから何かを取り出して、自身の首に刺す。一体何を? と、思ったが次の瞬間、魔力が膨れ上がるのがわかる。


「……ふぅ、この薬は強靭薬といってね。肉体の筋力や魔力を上げる薬なんだよ。何百という人間に投薬実験をしてようやく出来たものでね、中々の効果があるんだよ。子供に使えば、相手が熊でも素手で殺せるほどさ。まあ、普通の人間ではこの強化に耐え切れず最終的には死ぬんだが」


 魔族の男は自分の作品を見せるのが嬉しいのか、嬉々として説明してくれる。話す内容はクソみたいなものだが。そして、地面に落ちていた両手で持つ用の大剣を片手で軽々と持ち上げて、切っ先を俺に向けて来る。


「魔人シュタイン、君を殺す名だ。覚えておくといい」


 膨れ上がる殺気と膨大な魔力。ただのクソみたいな研究者かと思ったが、普通に戦えるようだな。ここからが本番ってわけか。

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